(Bloomberg) -- 自動車から宿泊施設まで幅広い分野で普及しているシェアリングサービスを宇宙空間まで拡大できないか? こんな発想で人工衛星と通信する地上アンテナの有効活用を目指すベンチャー企業を立ち上げた日本人女性がいる。

倉原直美氏(36)は昨年、人工衛星向けアンテナのシェアリングサービスを手掛けるインフォステラを設立。人工衛星で取得した情報を扱うビジネスが登場している一方、情報の受け手となる地上のアンテナは軌道上を回る衛星からのデータを1日のうち限られた時間しか受信できない問題に目をつけ、衛星用アンテナの共有仲介に乗り出した。同社の事業には航空宇宙大手のエアバスも注目し、傘下のファンドが出資している。

大学や研究機関などが保有するアンテナに同社が開発した機器を設置し、同社のクラウドシステムを通じて受信したデータを衛星の運営者に提供する仕組みだ。地上との通信は衛星がアンテナの上空を通過する1日最大40分に限られ、データ受信が中断されれば再開に長い時間がかかっていた。だが、同社のシステムを利用すれば他のユーザーのアンテナとつながれば再開できる。

倉原氏によると、現状では10分間の通信に、衛星運用者がアンテナ所有者に200-500ドル程度を支払っている。インフォステラの目指す仕組みが完成すれば費用は10分の1程度になるといい、衛星運用者のコスト削減のほかアンテナ所有者に収入ももたらす。同社はアンテナに設置してもらう機器を独自開発しており、今後の実証実験を経て来年早期の本格サービス開始を目指している。

より多くの人が恩恵

インフォステラはこのほど、航空のほか宇宙産業にも参入しているエアバスやソニーの投資部門、広告配信システムを提供するフリークアウト・ホールディングスなど6社から初期段階の資金調達ラウンドで計8億円を調達。フリークアウトは技術面の支援も行っている。インフォステラの創業メンバーは宇宙や通信関連の事業に携わる企業で勤めていた経歴を持ち、出資先を個別訪問して事業計画を説明し、資金を勝ち取った。

エアバス傘下のベンチャー投資ファンド、エアバス・ベンチャーズの日本代表でインフォステラの社外取締役でもあるルイス・ピノー氏は「衛星の数が増え、その衛星が集めるデータにリアルタイムでアクセスできるようになることでより多くの人が恩恵を受けるようになる」と指摘した。

衛星との通信に必要なコストが低減されれば、気象情報だけでなくショッピングモールに集まった車の数や農作物の発育状況など地上のさまざまな情報を安価に取得して分析できるようになり新規ビジネスが誕生する可能性がある。数年前から民間企業による小型衛星の打ち上げ数は急増しておりコンサルティング企業のブライス・スペース・アンド・テクノロジーのデータによると、2016年の世界の衛星産業全体の売上高は前年比2%増の2605億ドル(28兆円)となっている。

海外では米RBCシグナルズが同様の事業を手掛けており、世界全体で約30のアンテナをつなぐプラットフォームを構築している。また、米アトラス・スペース・オペレーションズや伊リーフ・スペースといった企業は、自社のアンテナをエネルギー、農業、鉱山関連の企業などに貸し出す事業を展開している。

0歳児の長男と出社

倉原氏は九州工業大学で工学博士号を取得後、特任研究員を務めた東京大学や衛星管制システム大手、米インテグラル・システムズの日本法人で研究開発に没頭する中で、人工衛星の地上アンテナが大半は稼働していない「宝の持ち腐れ」状態にあるという課題に気付いた。多くの衛星運用会社にとってもアンテナの確保は喫緊の課題だった。

倉原氏は16年1月、2人の仲間とインフォステラを設立し、最高経営責任者(CEO)に就任。賛同してくれる投資家や企業回りに奔走した。昨年末には長男を出産、生後1カ月から少しずつ職場復帰。2月のエアバスとのミーティング時には寝ている長男を「同席」させた。

現在もしばしば長男と一緒に出社するが、手の空いた同僚があやしてくれ、泣き声にまゆをひそめる人はいない。会社としての目標は人工衛星用アンテナの分野で民泊支援サイトの米エアビーアンドビーのような存在になることだといい、仕事と育児の両立については「どちらかひとつを選ぶ必要はない。やり方によっては何とかなる」と話した。

(エアバスなどからの出資の経緯の詳細を追加しました.)

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