仮免許中の若者の運転レベルと同じ

政府が積極的に自動運転車の開発を支援する自動車王国ドイツ。その首都ベルリンの一般道で、米クライスラーが自動運転車の試験走行を実施した。使われたのは、特殊仕様のジープグランドチェロキーだ。
とはいえ、その走行はとてもスムーズとはいえない。まるで仮免許中の18歳が、おっかなびっくり運転しているかのように、しょっちゅう急ブレーキがかかる。
ある意味でこのクルマがやっていることは、仮免許中の若者が正式な免許を得るために練習を重ねているのと同じ。11キロほどの同じルートで、数カ月にわたり練習を重ねてきたが、レーダーやセンサーをいくつも搭載したグランドチェロキーは、相変わらずしょっちゅうビビる。
芝生、ゴミ、選挙用の看板──。とにかくデータにないものには何でも驚き、ブレーキをかける。自動運転車の実用化の難しさを目の当たりにさせられた気分だ。
「初心者ドライバーの運転みたいだ」と、カナダの自動車部品大手マグナ・インターナショナルのジョーン・アイランバーグ研究開発部長は言う。「経験値はゼロ。先週は、青い風船が飛んできたのに驚いてブレーキをかけた」
もちろん急停車と発進を繰り返しているだけではない。後ろを走るトラックの運転手が明らかにイライラした様子でも、のんびりと環状交差点を回る(人間だったら焦ってスピードを上げてしまう場面だ)。
だが、全体的なパフォーマンスを見ると、高速道路での運用は視野に入ってきたものの、環境の変化が激しい市街地での運用はまだ当分難しそうだ。

部品メーカーが繰り広げる激しい競争

各国の規制当局は、運転の自動化レベルを定義している。一番上はレベル5で、人間のドライバーをまったく必要としない完全自動運転車だ。現在、BMWやメルセデスベンツは、レベル2(部分自動運転)で競争している。フォルクスワーゲンのアウディは、レベル3(条件付自動運転)に近づいている。
そんななか、マグナやコンチネンタル、デルファイ・オートモーティブといった自動車部品メーカーは、自動運転を可能にするカメラやセンサー、レーダーといったコンポーネント、そしてそれらを統合するソフトウエアを提供するべく、激しい競争を繰り広げている。
マグナのスワミー・コタギリ最高技術責任者(CTO)は、自動走行システムの売り上げは、2020年までに現在の2倍の約10億ドルに膨らむとみる。ただし、メディアに氾濫するイメージとは裏腹に、その最先端技術を予見可能な未来に採用する自動車メーカーはほとんどないと考えている。
「地理や地形が限定された場所では、かなり早い段階で」高度または完全な自動走行車が実用化されることは「確信している」と、コタギリはベルリンで記者団に語った。だが、多種多様な人やクルマが、さまざまなスピードで、さまざまな方向に動いている地域では「ない」だろう。
ベルリンの試験走行に使われたジープグランドチェロキーは、トランクの下にマグナの「MAX4」自動運転システムを積んでおり、走行はダッシュボードのカーナビでプログラムするようになっている。
ジープグランドチェロキーに乗せてもらっている間、テストコースを単独で走るのではなく、多くのクルマがいる一般道を走る難しさを痛感する場面が何度かあった。
たとえば、十分な車間距離を取って、前方右側のレーンを走っていたトラックが、わずかにチェロキーのレーンに入り込んだとき、チェロキーは急ブレーキをかけ、車内の私たちはまたもガクンと衝撃を受けた。
また、コンピューターに法定の速度制限が登録されているため、それを超える速度は絶対に出さないこともわかった。もちろんチェロキーは、その一般道で一番遅いクルマだった。

高速道路での自動走行システムに商機

マグナの予測では、2025年になってもレベル4技術を搭載したクルマは4%程度だろう。レベル4技術を製造ラインに組み込み、実験的に搭載していくことは、2018年末以降可能になりそうだ。
ただ、価格が商業的に手頃な水準間で下がるまでには、さらに2〜3年かかるだろうと、コタギリは言う。
この技術の進歩で、もっと早く上市予定の製品を微調整することも可能になると、コタギリは言う。「レベル4と5に挑戦しなければ、レベル2と3の性能を高めることもできない」
日産自動車は今年2月からロンドンで、自動運転システムを搭載した電気自動車「リーフ」の一般道路走行試験を始めた。BMWも年内に自動走行車40台の走行試験を開始する。2021年までに計230台の走行データ(計2億4000万キロ分)を集めて、最も安全なシステムの開発に役立てる計画だ。
マグナとしては、高速道路で運用可能なシステムの開発にビジネスチャンスがあると考えている。そのレベルの自動走行機能なら、2025年までに全車両の5分の1が搭載するようになるというのが、同社の予測だ。
現在、2020年にも最新の高速道路自動運転システムの供給を開始することについて、自動車メーカー2社と交渉中だと、コタギリは言う。
「一般道の自動走行に関しては、まだ赤ん坊レベルだ」と、マグナのアイランバーグ研究開発部長は語る。「雨の夜に知らない町で運転するような感じだ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Elisabeth Behrmann記者、翻訳:藤原朝子、写真:chombosan/iStock)
©2017 Bloomberg News
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.