これはバブルか、過小評価か。沸騰するビットコインの「正体」

2017/9/11

ピザ2枚に支払った「26億円」

「誰かビットコイン1万枚と、ピザを交換しないか?」
2010年5月22日、仮想通貨のビットコインが誕生してから1年と数ヶ月しか経っていなかったこの日、ビットコインでリアルな商品を買うという、史上初めてのビットコイン決済がなされた。
ビットコインでピザを買おうと持ち掛けたのは、米フロリダ州に住んでいた、ハンガリー出身の20代のプログラマーだった。
最初は詐欺だと疑っていたビットコインを調べるうちに、みるみるその面白さに惹き込まれ、最後は自分で使ってみたくなったのだ。
そこで、自宅にピザ2枚(25ドル相当)を届けてくれた人に、手元にある1万BTC(ビットコイン)を送るという条件で、取引相手を募ってみた。
すると最初の一人が1万BTCを受け取る替わりに、このプログラマーの自宅の近くにあるピザ店「パパ・ジョンズ」にお金を支払って、実際にデリバリーしてくれたのだ。
(写真: simonkr via Getty Images)
それまで暗号通貨に詳しいギークたちが熱中していたビットコインは、まだリアルな世界では動いたことがない、いわゆる「実験」に過ぎなかった。
それがついに、本当に食べられるピザのために決済された。その記念すべき「ビットコイン・ピザデー」の時点で、1BTCの価値は0.2セントとして取引された。
あれから7年間が経過した、2017年5月22日の「ビットコイン・ピザデー」。
当時ピザ2枚分のために支払ったビットコイン(1万BTC)は、現在の価値にすると、日本円にして約28億円という途方もない価値を帯びるようになっていた。
これまで発行されたビットコイン全体の時価総額は、今年に入って10兆円の大台を一時突破している。
そこにはギークのみならず、新しいビジネスを生み出そうとする世界中の起業家や投資家、金融機関、さらには仮想通貨で一攫千金を狙う日本のサラリーマンまでもが、これでもかとばかりに参入している。
まさにビットコインへの熱で、世界が沸騰しているのだ。
(写真:Bloomberg via Getty Images)

ビットコインが「理解できない」

テレビや新聞などで連日ニュースになっているビットコインは、年初の1BTCあたり10万円強だった価格が上がりつづけ、中国政府による規制強化を受けて尚、1BTCあたり約45万円(9月10日時点)と4倍以上の水準にある。
まるで金のように希少性があり、世界中のどこでも資産として取引できる。そんな性質を持つビットコインは「デジタルゴールド」とも呼ばれている。
資産としての信頼は高まっており、一部ではリスクに備えた「有事の金買い」ではなくて、「有事のビットコイン買い」という言葉さえ聞かれるようになった。
また仮想通貨への投資によって1億円以上の財産を築いた「億り人(おくりびと)」と呼ばれる人々が、続々と生まれてきている。こうした動きが人々のビットコインへの関心を、さらに高めているのは事実だろう。
しかし、ビットコインを支えている仕組みはとても複雑で、正確に理解するのは容易ではない。
ビットコインを支える技術などを理解するのは、簡単ではない(写真:後藤直義撮影)
なぜならビットコインは、「技術」「思想」「金融」「法規制」など幅広い分野にまたがっている、新しいカタチのお金だからだ。そのすべてを俯瞰できる知識を持つ人は、あまり多くはないはずだ。
そこでNewsPicksはこの特集「完全解説 ビットコイン沸騰」において、それぞれの分野におけるエキスパートたちへの取材を基にして、入門者にも分かりやすい最先端事例を集めることにした。
「自作のソフトウェアを使って、ビットコインの自動売買をして稼いでいる」
そう語るのは、ビットコインなど仮想通貨の投資によって、3億円近い資産を形成することができた20代の会社員だ。
その話に耳を傾けると、やみくもに一攫千金を狙ったのではなく、日々その動向をウォッチした上での研究の賜物であることが分かる。テクノロジーへの理解も深い。
今回は完全匿名を条件に、億り人となった2名の人物にお願いをして、対談形式のインタビューを受けてもらった。記事を通して、彼らのアタマの中を覗き見たような感覚になるはずだ。
【秘録】仮想通貨で稼いだ3億円。ビットコイン長者たちの「アタマの中」
仮想通貨において、注目されているのはビットコインだけではない。
仮想通貨の売買ができる取引所サイトでは、新しいコンセプトやテクノロジーを備えた、ビットコイン以外の仮想通貨が次々と登場している。その種類は、ニッチなものを含めて600種類以上に及ぶという。
そこで日本最大級の取引所であるコインチェックの大塚雄介COOの監修の下に、メジャーな仮想通貨13種類を対象にして、公開データを基に目利きをした「一覧表」を作成した。
玉石混交と言われる仮想通貨の世界を歩くための、便利な地図になるかもしれない。
【保存版】ビットコインの「次」は何か。仮想通貨の選び方
ビットコインが今後、どのような形で社会に定着するかの「未来図」については、立場の異なる論客たちへのインタビューを通して紹介する。
ビットコインの研究に注力している経済評論家の野口悠紀雄氏には、2018年にメガバンクの東京三菱UFJ銀行が発行すると言われる「MUFGコイン」が、どのような役割を果たすのかを語ってもらった。
さらにベンチャー起業家の篠原ヒロ氏には、ビットコインやブロックチェーン技術がますます進化することで、いかに既存産業を破壊することができるのか、その「ハードコア」な未来予想図を語ってもらった。
【徹底解説】なぜお金が生まれるのか。ビットコイン「採掘事業」の仕組み
特集内でも異色なのが、これまでほとんど明らかになっていなかった、中国にある世界最大級の「ビットコイン鉱山」の内部レポートだろう。
世界最大のビットコイン採掘企業である中国ビットマイン社は、数万台の専用コンピュータが並んだ、巨大倉庫のような「マイニングファーム(採掘工場)」を建設している。
一体金額にして、どれくらいの売上高や利益をあげているのか。NewsPicks編集部は現場に足を運んだ人へのヒアリングから独自試算をした。
ビットコインの採掘については直近、GMOやDMMなど日本のIT企業も続々と名乗りをあげており、これからさらに注目度は上がるはずだ。
【野口悠紀雄】メガバンクの仮想通貨、「MUFGコイン」の狙い
その他にも、業界あげての大騒動になった「ビットコインの分裂問題」や「仮想通貨による資金調達(ICO)」など、話題になっているトピックについて、イラストや図版を多用した解説記事も用意している。

インターネット以来の「地殻変動」

思えば2008年11月、正体不明の「サトシ・ナカモト」を名乗る人物が発表した1つの論文が、仮想通貨のビットコインを生み出す土台となった。
それは暗号通貨などを研究するコミュニティでまずは広がり、新しいプログラムとして動き出したのだ。
そんなミステリアスな経緯を持つビットコインは、世界中のコンピュータが金銭的なインセンティブによって、すべての取引を正確に記録しつづけるよう巧みに設計されたものだ。
だからこそインターネットに繋がってさえいれば、わずかなコストで、世界中の誰とでも自由にビットコインを直接送りあうことができる。
それは、これまでお金の流れに関わることで、大きな富と権力を手にしていた金融機関や政府などあらゆる「仲介者」が不要になることを意味している。
これこそが、ビットコインとそれを支えるブロックチェーン技術が、インターネット以来の巨大なイノベーションとして注目されている理由にほかならない。
そんなビットコインへの理解を深めることは、単純な投資による見返りよりも、ずっと大きなものをあなたに与えてくれるはずだ。それはテクノロジーによって社会がどう変化するかを、未来を見渡すための「視野」だと言えるだろう。
(デザイン:九喜洋介、星野美緒)