1日8時間という労働時間は、工場などの単純作業以外は理にかなっていないのかもしれない。

知識労働者は1日何時間働くべきか

「生命が存在するのは地球だけ?」「ブラックホールの底には何がある?」「ジェットパックで飛ぶことが当たり前になるのはいつ?」など、科学の世界には解決されていない疑問が数多くある。
しかし、スタンフォード大学の客員研究員アレックス・スジョン-キム・パンの著作『シリコンバレー式 よい休息』(邦訳:日経BP社)によると、「知識労働者は1日何時間働くべきか?」という疑問には、すでに答えが出ているという。
数十年におよぶ科学研究が導き出した結論は「頭を使って仕事をするなら、1日の労働時間は4時間に限るべし」というものだ。そしてそれは、多くの歴史上の偉人が実践していたやり方でもある。
どうにも信じられないという人のために、『ガーディアン』紙に載った短い記事を紹介しよう。同紙の素晴らしい記者オリバー・バークマンは記事の中で、脳に1日4時間以上のクリエイティブな仕事をさせるべきでない理由について、非常に説得力のある理論を展開している。それは主に、次の3つの根拠からなる。

第1の根拠:科学研究

第1の根拠として、冒頭で紹介したパンの主張は科学研究によって裏付けられている。
「1万時間の法則」を聞いたことがあるだろうか。マルコム・グラッドウェルが自著で一般に広めた、どんなスキルでも1万時間の練習を積めば世界の一流レベルになれるという主張だ。
1日4時間の知的労働が脳の能力を最大限に引き出すという説は、この法則と矛盾するように思われる。ところがバークマンによると、グラッドウェルが主張の根拠とした研究を手がけた研究者が、バイオリン奏者の練習時間を調べたところ、1回の練習セッションの長さには上限があることが明らかになったという。
トップレベルの演奏家は、累積的な練習時間こそ膨大かもしれないが、調査の結果、彼らの練習時間は何回かに分かれていて、それぞれの練習時間は1回4時間かそれ以下だった。

第2の根拠:天才たち

最大4時間という数字は、科学研究では最近明らかになったばかりだが、さまざまな分野の天才たちは何百年も前から直観的にこのことを理解していたようだ。
「チャールズ・ダーウィンは午前中、2度に分けて90分ずつ仕事をし、午後にもう1時間働いた。数学者のアンリ・ポアンカレは、午前10時から正午までと、午後5時から7時までを仕事に充てた。ほかにもトーマス・ジェファーソン、アリス・マンロー、ジョン・ル・カレなど、毎日似たような時間で仕事をしていた例は数多い」とバークマンは述べている。

第3の根拠:狩猟採集民

脳の自然なリズムを理解するという点では、われわれ現代人よりも産業革命前の遠い祖先たちのほうが優れていたかもしれない。
狩りでガゼルを仕留めることは、投資案件を取りまとめるよりはるかに単純な仕事に思えるが、そんな暮らしをしていた人々もまた、1日4時間という脳の労働時間制限に縛られていたのであり、しかもそれに逆らおうとしないだけ賢明だった。
「文化人類学者のマーシャル・サーリンズは50年前、狩猟採集民は絶えず生存のために苦闘しているわけではないとの説を唱えて物議をかもした」とバークマンは述べている。
サーリンズは「アフリカとオーストラリアの狩猟採集民のデータをもとに、彼らが食べ物を得るのに要する1日の平均労働時間を算出した。その答えは、やはり『3~5時間』だった」という。

余った4時間をどう過ごすべきか

脳が集中力や創造性を発揮できる時間には限りがある、という主張には非常に説得力がある。しかしだからといって、1日の残りの時間を何もせずに過ごしていいことにはならない。
脳が疲れているときでも、新しい知識を仕入れたり、メールをチェックしたり、趣味を楽しんだり、頭は使わないが重要な事務仕事を片付けたりして、時間を有益に使うことができる。
しかし、1日に8時間かそれ以上、みっちりと頭脳労働をこなす生活を続けようとすれば、結果としてかなりの時間を無駄にしてしまう可能性が高そうだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jessica Stillman/Contributor, Inc.com、翻訳:高橋朋子/ガリレオ、写真:SrdjanPav/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.