スポーツ“人財”へ。夢をかなえる秘訣は、徹底した準備

2017/9/10
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キーワードの3つ目は、「徹底した準備」だ。
岡部恭英氏は、自分の夢やゴールをかなえたいと考えるのであれば、徹底的にリサーチして準備することが絶対に必要だと話す。
岡部氏自身がTEAMマーケティングにいかにして入ることができたのか。その事例をもとにこのキーワードを掘り下げたい。
(提供:岡部恭英氏)

5分でいいから時間をください!

大学卒業後、ベトナム、シンガポール、アメリカといった海外で働いていた岡部氏は2002年、人生を変えるだけの出来事に遭遇する。FIFAワールドカップ日韓大会だ。
日本という国にもっとグローバルになってほしいという思いを抱いていた岡部氏はこのとき、日本中で国際交流が行われ、これまでに見たこともないほどの熱狂が巻き起こるのを目にした。サッカーの持つチカラに一瞬にして魅了され、このときから、「日本でワールドカップを再開催して、日本代表が優勝!」という夢を抱くようになった。
そこで岡部氏は「オンサイト」に出ていくことを考え、イギリスのケンブリッジ大学の大学院でMBAを取得することを決めた。
在学中はサッカー界とのコネクションをつくるために、欧州中のクラブや協会、連盟など、さまざまな組織へと売り込みを掛けていった。
当初はストレートに連絡して門前払いを食らっていたが、学生という立場を利用して、修士論文のためのインタビューという名目ならアポを取ることができるようになったのだった。だがあくまでもインタビューは口実で、最大の目的は自分を売り込むことだ。
「事前に相手のことを徹底的にリサーチする、例えばビジネスモデルや収入構造を分析することで、彼らに今どんなイシュー(課題)があるのか、どんなオポチュニティ(機会)があるのかを考える。その上で、自分ならどういった貢献ができるのかを売り込むわけです。事前の準備で99.99%が決まると言ってもいいでしょう」
インタビュー終了後、「5分でいいから時間をください!」と言って始めたプレゼンは、相手の興味を引くことで、5分が10分に、10分が30分に、30分が1時間と延びていった。こうして100もの組織に売り込みを掛けた結果、ユベントス、インテル(以上イタリア)、エバートン(イングランド)からインターンのオファーを勝ち取った。
約1年間エバートンで国際ビジネス戦略の策定に携わった岡部氏が次なるステップと考えたのが、サッカー界の中枢組織、FIFA(国際サッカー連盟)かUEFA(欧州サッカー連盟)だ。
ここでも徹底的なリサーチを進める中で、TEAMマーケティングの存在を知った。TEAMがUEFAチャンピオンズリーグを創設して世界最高峰のブランドにまで押し上げたという話を耳にし、アプローチすることを決めた。これまでと同様、修士論文のためのインタビューという名目で人事に電話したが、けんもほろろに断られてしまう。
「あやうく電話を切られそうになって、『待ってくれ! 自分はこうした経歴を持っているが何か仕事はありませんか?』と言っても、『無い』と。それでもあきらめずに食い下がることで、受付の担当者のメールアドレスを聞き出すことには成功しました」
その30分後には、自らのレジュメを送付した。岡部氏はこれまで100もの組織にアプローチしてきたなかで、自分をどう売り込めば興味を持ってもらうことができるのか、そのパターンを見いだし、組織のタイプによって異なるカバーレターとレジュメのテンプレートをつくっていた。
それをカスタマイズすることで、わずか30分でプレゼン資料を送ることができたのだった。
「すぐに電話がかかってきて、UEFAチャンピオンズリーグの放映権を扱っている部門のトップがたまたまケンブリッジの出身で、その1週間後に里帰りするということでした。このチャンスは絶対に逃せないと、そこから1週間、授業も休んで徹底的に準備を始めました」
(写真:松岡健三郎/アフロ)
これまで同様、徹底的なリサーチをもとにしたプレゼンが高く評価された。その後、取締役や社長との数回の面接を経てTEAMに入社、現在の活躍へと至っている。
岡部氏の事例からわかること、それは相手のニーズをくみ取り、どんな提案をすれば相手の心を動かすことができるのか、事前に徹底的な準備をすることが重要だということだ。これはどんなビジネスの場面においても当てはめることができるだろう。
だが実際にできている人間はめったにいないと岡部氏は言う。
「自分の夢や目標を達成するためには、徹底した準備が必要」
これは、狭き門をこじ開けて突き進んできた岡部氏だからこそ説得力を持つ言葉だと言えるだろう。

スポーツ産業の成長へ

日本は今後、さらなる少子高齢化に伴う人口減少によって、国内市場が縮小し、経済成長は停滞していくものと見られている。
一方、世界に目を向けると、スポーツの持つ経済的な力を自国の成長につなげる動きが活発化しており、スポーツ産業は飛躍的に巨大で魅力的なマーケットへと成長している。
こうした潮流の中で、日本政府もスポーツの持つ経済的な力に目を付けた。
昨年、閣議決定された「日本再興戦略2016」において、日本経済の持続的な成長路線を実現させるための具体策の一つとして「スポーツの成長産業化」を掲げており、ゆくゆくはわが国の基幹産業へと押し上げようとしている。2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2021年のワールドマスターズゲームズ関西といった国際スポーツイベントが連続して日本で開催される今が、その絶好の機会だと言えるだろう。
まさにスポーツ産業の発展が、日本経済を覆っている閉塞感を打ち破る立場にならなければならないのだ。だからこそ岡部氏は、スポーツ産業を力強く牽引していくスポーツビジネス人財が必要だと強く訴えているのだ。
岡部氏も登場している『プロスポーツビジネス 私たちの成功事例』(東邦出版/編)でも、今後のスポーツ産業で最も重要な要素を「人財」と定義し、スポーツビジネス界のトップランナー9名を紹介している。彼らは、スポーツの持つ多種多様な“価値”を、いかにしてビジネスに結び付けているのか。その背景にはどんな信念があり、どのような未来を見据えているのか。この書籍を手に取って、確かめてみてほしい。
最後に、同書の出版記念イベントの締めに発した、岡部氏の言葉を紹介したい。
「一番大事なのは結局、アクションを起こすこと。いろいろ考えても、アクションを起こすまでできる人は本当に少ない。悩むよりも、まずはアクションを起こすこと! 皆さんも一緒に日本のスポーツ、日本を盛り上げていきましょう!」