ビッグデータとスモールデータの融合
ライバルに差をつけるための最も効果的な方法の一つは、パーソナライズされたマーケティングメッセージを発信することだ。なぜならそれは、顧客を集団の一員ではなく個人として扱うことになるからだ。
消費者は一日中、広告にさらされている。そのほとんどはマスマーケティングだ。注目を集めたい企業は、大衆だけでなく個人に向けてメッセージを発している。幸い、情報化時代のおかげで、パーソナライズは容易になっている。
分析やビッグデータ、マーケティング・オートメーション・ツールなどを用いれば、ターゲット市場の特定層にぴったり合うマーケティングメッセージを生成できる。既存の顧客も特別扱いを喜び、もっとひいきにしてくれるだろう。
パーソナライズには次のような利点もある。
・売り上げの増加 :パーソナライズは収益増につながる。
・関係の強化 :個人に向けてメッセージを発すれば、顧客は快く金を落としてくれる。
・顧客体験の向上 :顧客は、自分のニーズを満たしてくれると感じる。
・顧客ロイヤルティ :人々は自分に注意を向けてくれる企業をひいきにする傾向がある。
実際にパーソナライズで利益を最大化している企業を紹介しよう。
1. Woopra
顧客分析サービスを提供するWoopra(ウープラ)は、パーソナライズの手段として電子メールを利用している。
多くの企業にとって電子メールの「パーソナライズ」といえば、件名に顧客のファーストネームを加える程度だが、Woopraはまったく新しいレベルでパーソナライズを行っている。特定の行動に応じて電子メールを送信しているのだ。
たとえば、あらかじめ設定された使用制限に近くなったら、Woopraは顧客に電子メールでその旨を伝える。現時点で何%使用しているか、使用制限がリセットされるのはいつか、といった内容が電子メールに記される。
小さなことだと思うかもしれないが、顧客はそうした心遣いから、Woopraは自分を気にかけてくれていると感じる。これはエンゲージメントの強化にもつながる。
2. Hopper
信じられないような話だが、旅行アプリを提供するHopper(ホッパー)は、売り上げの90%をプッシュ通知から得ている。
「どうすればそんなことができるのだろうか。プッシュ通知は最悪のスパムと考えられているはずでは」と思った人もいるだろう。通常であれば、その通りだ。しかしHopperは、プッシュ通知システムをパーソナライズしている。
Hopperのアプリでは航空券の価格を追跡できるが、航空券が最安値になったら通知されるようになっている。ただし、プッシュ通知の約60%は「もっと価格が下がるまで待ったほうがいい」という内容だ。
これは何を意味しているのだろう。Hopperは取引をせかしているわけではないとユーザーが思ってくれれば、信頼関係を構築できる。それから、今が買いどきだという通知を送れば、取引成立の可能性が高くなるのだ。
3. Netflix
Netflix(ネットフリックス)のアカウントを持っている人であれば、パーソナライズの一例を目にしたことがあるはずだ。Netflixはいつでも、ユーザーが関心を持つような番組を提案してくる。
では同社は、ユーザーが関心を持ちそうな番組をどうやって判断しているのだろうか。それは視聴履歴の分析によってだ。
この提案は、顧客離れを防ぐ効果がある。たとえ好きな番組を一気に視聴した後でも、まだ面白そうな番組がたくさんあることを教えてくれるためだ。
しかし何より、Netflixによれば、この提案システムのおかげで年間10億ドルの経費削減が実現しているという。
4. Stitch Fix
パーソナル・スタイリング・サービスを提供するStitch Fix(スティッチ・フィックス)は、メンバーになってもらうプロセスにクイズを使っている。
不思議に思うかもしれないが、クイズの答えをパーソナライズに利用しているのだ(サイズや服の好みに関するアンケートに答えると、パーソナルスタイリストが自分好みの服やアクセサリーを5アイテム選んでくれる仕組み)。
Stitch Fixは、1:1のパーソナライズを大規模に行うことに努力を傾けている。COOのジュール・ボーンスタインは「パーソナライズとビッグデータは流行語になっているが、これらを運用するのは非常に難しい」と話す。
「われわれは、顧客の予算や好み、ライフスタイルに合わせて5つのファッションアイテムを選んで送るサービスを提供している。これはまったく次元の異なる、とてもエキサイティングなパーソナライズの形だ。ある意味、ビッグデータとスモールデータの融合と言ってもよいだろう」
この戦略はうまく行っているようだ。Stitch Fixは最近、売上高2億5000万ドルを突破した。
5. コカ・コーラ
人の名前が入ったコカ・コーラのボトルを見たことがあるだろうか。信じられないかもしれないが、これもパーソナライズの一例だ。考えてみてほしい。名前ほどパーソナルなものがあるだろうか。
コカ・コーラは2014年、「Share a Coke」キャンペーンを実施した。期間中、コカ・コーラのボトルには、ミレニアル世代に多い名前が入れられた。この戦略は功を奏し、コカ・コーラは2000年以降で最高の売上高を記録した。
そして2017年夏、ボトルにラストネームを入れるキャンペーンが始まった。ブランドディレクターのエバン・ホロドは「ラストネームであれば、より多くの人がキャンペーンに参加できる。リーチを高めるにはこれ以上ないほどの方法だ」と述べている。
6. Spotify
Spotify(スポティファイ)のユーザーであればおそらく、「Discover Weekly」はよく知っているだろう。1週間に1度、興味がありそうな曲を選び、プレイリストを作成してくれる機能だ。
Spotifyはどのように興味がありそうな曲を選んでいるのだろうか。ユーザーの「好みに関するプロフィール」をつくるアルゴリズムを使用しているのだ。簡単に言えば、まず再生履歴を分析。その情報と、人気が高いプレイリストをもとに、興味をそそる曲を提案している。
アルゴリズムは、曲が再生されたときのユーザー行動も観察している。もし再生開始から30秒以内に早送りされたら、好みの曲ではないと判断される。しかも、このアルゴリズムはまだ「完成」していない。つねに微調整やテスト、改良が行われている。
Spotifyは提案の精度を上げるため、人工知能(AI)関連のスタートアップ、 Niland(ニランド)を買収したばかりだ。
7. BustedTees
多くの企業がそうしているように、BustedTees(バステッド・ティーズ)も電子メールによるマーケティングでブランドのメッセージを伝えている。しかしこの戦略には、人間味に欠けるという欠点があった。
問題は、すべての電子メールを一斉送信していたことだ。つまり、同じ電子メールが、ニューヨークには午前、英国ロンドンには午後に届くということだ。
そこでBustedTeesは、送信タイミングを時間帯別に細分化することにした。その結果、すべての顧客に最高のタイミングで電子メールが届くようになった。この方針転換は以下のような効果をもたらしている。
・電子メールによる売上高が8%増加。
・レスポンス率が17%上昇。
・クリック・スルー・レート(CTR)が11%上昇。
・クリック後のサイト・エンゲージメントが7.6%増加。
8. AdRoll
リターゲティングとプロスペクティングのプラットフォームを提供するAdRoll(アドロール)は、普及率を高めるためにパーソナライズを活用している。
具体的には、ユーザー獲得チームが「Datanyze」を用い、マーケティングオートメーションソリューション「MailChimp」を使っている顧客を特定。次に、対象となる顧客に「Appcues」でアプリ内メッセージを送り、MailChimpとAdRollの統合を提案する。
ユーザー獲得チームを率いるピーター・クラークは「アプリにメッセージを送れば、アプリを実際に使っている人だけに届けることができる」と話す。「一方、電子メールを送ったら、うんざりして購読を停止する人が現れる。だからこそ、アプリのメッセージにこだわっているのだ」
AdRollはこの戦略によって、平均20%のコンバージョン・レートを実現している。
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デジタルマーケティング企業や社内のマーケティング部門が過剰なほどにパーソナライズを重視しているのも当然のことだ。見込み客と売り上げが大幅に増加するからだ。
われわれも最近は、自社と顧客の両方でこの戦略を実行している。そして、大きな効果が出ている。ぜひ早急に試していただきたい。
原文はこちら(英語)。
(執筆:John Lincoln/Co-founder and CEO, Ignite Visibility、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:bowie15/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.