SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は、自動運転および運転支援システムに関する動向の現状と、今後の課題をまとめた。

新型AudiA8はレベル3相当の技術を搭載

2017年7月11日にAudi Summitが開催された。そこでAudi(Volkswagenグループ)の旗艦モデルとなる「A8」のフルモデルチェンジが発表された。新たに搭載された「AI traffic jam pilot」は、レベル3相当の自動運転機能を量産車に採用した世界初の事例として注目を集めている。
この背景として、2014年3月に合意されたウィーン条約がある。人間のドライバーがオーバーライド、もしくはスイッチをオフにできる場合に限り、運転操作の車載システムへの移行について、一般道での使用が認められることとなった(日本も加盟しているジュネーブ条約に関しては、現時点で改正のめどは立っていない)。
レベル3の機能を実現するため、同モデルには超音波センサ12個、360°カメラ4個、フロントカメラ1個、中距離レーダー4個、長距離レーダー1個、レーザースキャナー1個、赤外線カメラ(ナイトビジョンアシスト用)1個の、合計24個のセンサが搭載されている。
同モデルは2017年に発売されるが、自動運転機能の導入自体は2018年以降で段階的に行われる予定となっている。

LiDARの低コスト化が進行

センサについて、試験場や高速道路、あるいは速度制限(A8の場合は60km/h以下)など、限られた走行環境であれば、これまで通りカメラとミリ波レーダーの組み合わせでも十分に対応可能だが、一般道や市街地への本格的な展開を視野に入れた場合は「LiDAR(レーザーレーダー)」が不可欠とされる。
現状のLiDARは高価格であることが難点だが、MEMSミラーの採用により、小型化の実現とともに低コスト化のめども立ち、2020年代半ばまでには、車載への採用目安である部品1点あたり100ドルという水準を下回ることが予測されている。
自動車部品としてはそれでも高価格帯にあたるが、今後の新規参入や長期的な利益化などに対しては期待が持てる。
なお、車載ステレオカメラのコストは、すでに限界まで下がっているといわれており、今後は画素数向上などの地道な改善により、実質のコスト低減が進むと想定される。
ミリ波レーダーについても、すでに50~150ドル程度である。また、化合物半導体SiGe仕様の送受信チップを、Siを使ったCMOS(相補型金属酸化膜半導体)技術で代替する動きも進んでおり、実現すればさらに大幅なコスト低減につながると推測されている。

自動運転の研究開発の概要

自動運転システムに関する研究は、交通事故と渋滞の解消を主な目的とし、1950年代から始まった。
1950~60年代に登場したのは、道路に誘導ケーブルを敷設しラテラル制御を行う協調システムである。これは、工場内の無人搬送車(AGV)の誘導方式として開発されたシステムが基盤となっている。
この方法では、走行コースを予め設定することができる反面、道路へのケーブル埋設という工事が毎回必要になることや、ケーブルへの電流供給などが、運用面での負担となった。そのため、一般道での利用は限定的なものにとどまった。
1970~80年代にかけては、テレビカメラとコンピュータを組み合わせたマシンビジョンと呼ばれるシステムが登場した。このシステムを搭載した車両は、知能自動車と呼ばれた。
マシンビジョンとデッドレコニング機能(車両の位置と方位を車載装置のみで測定する機能)の組み合わせにより、1980年代後半までに、テストコース内での車両による自律走行が実現された。
なお、予防安全の先駆けである「アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)」も、このような自律制御システムの開発の過程で生み出されたものである。
1980年代以降は、各国のITS(高度道路交通システム)プロジェクトにおいて、さらに研究開発が活性化した。それまでは、単独の車両が自律走行を行うことに焦点が当てられていたが、欧米の大学や研究機関により、先行車の検出や隊列走行、磁気マーカーなどを用いた走行制御など、実際の走行環境を想定した手法が次々と生み出された。
なお、1980年代後半から普及し始めた電動パワーステアリング(EPS)も、自動運転および運転支援システムを支えるのに欠かせない部品の1つである。自動車における電子制御の比率が高まるなかで、電装品・電子部品の出荷額も増加傾向が続いた。
2000年代に入ると、基礎技術の研究から一歩踏み出し、実用化に向けた研究開発が本格化した。2000年代初期には、車車間通信や複数の隊列の合流、車線変更などの実証実験も着手されている。

「自動運転」の定義を再確認

ここで、改めて自動運転の定義について確認しておきたい。
2016年9月、米国道路交通安全局(NHTSA)が発表した政策において、従来の定義から米国自動車技術会(SAE)による6段階(レベル0~5)の新たな定義が採用された。基本的には、これまで知られていた定義のうち、主にレベル4を細分化したものとなっている。
それに伴い、日本で展開されていた「官民ITS構想・ロードマップ」も見直しが進んでいる。新たな定義では、SAEレベル3以上は「高度自動運転システム」、SAEレベル4、5は「完全自動運転システム」と区別されている。

各社「自動運転」への方針を表明

2017年に入り、自動運転に関する各社の目標や方針が続々と表明されている。
しかし、実際には各社の表現方法には細かい違いがみられる。
日産自動車は、2016年8月発売のセレナから搭載を開始した「プロパイロット」について、「自動運転技術」であることを明確に謳っている。また同社は、国内メーカーで唯一、2020年までに一般道での自動運転実用化を表明している。
一方、トヨタ自動車は、ユーザーへ誤解を与えないようにとの配慮のもと、現時点では自動運転という言葉を使わず、「高度運転支援技術」という表現にとどめている。
同社の高度運転支援システムに関する2013年の発表でも、運転の主役であるドライバーが、「クルマを操る楽しみを損なうことなく、安全・安心」に移動することを、早期実用化の目的としていた。
同社は2017年8月、衝突回避支援パッケージの「Toyota Safety Sense」と「インテリジェントクリアランスソナー(ICS)」による事故低減効果を公表した。上記2システム未搭載の台数と比較した結果、追突事故発生率は、Toyota Safety Sense Pのみの搭載では約5割、ICSと組み合わせた場合は約9割減少した。
今後同社は、2017年中に日本、北米、欧州のほぼ全ての乗用車へToyota Safety Senseの設定を完了させる計画としている。
あくまでシステムは人をサポートする位置付けであるという姿勢がみられる。

地図データの基盤整備も進行

環境面に目を向けると、自動運転システムにおいて、ダイナミックマップ(高精度地図データ)の整備は欠かせない。
自動運転システムに関わる情報収集技術は「自律型」と「協調型」に分けられる。自律型は、車載機器・システムを通じて認識したデータ、協調型は、モバイルや路車間・車車間(V2X)などでの通信により得られる地図や道路交通、車両の位置や速度などのデータを、それぞれ取得する。
具体的には、自律型データとダイナミックマップとの突合により、車が自己位置を推定し、車の周囲状況を表す占有格子地図(Occupancy Grid)を構築。そのOccupancy Gridに基いてシミュレーションを実施し、数ステップ時間先(数秒レベル)のOccupancy Gridを予測するプロセスを繰り返すことで、安全な走行を維持している。
走行における優先度は自律型データの方が高いものの、協調型データとの突合、補完により、データの精度や安定性を高めることができる。

次世代通信規格5Gの実装を目指す

協調型データの中核であるV2Xについては、情報通信会社を中心に、ダイナミックマップよりもさらに広範囲での提携が進んでいる。
2016年9月、次世代移動体通信5Gを活用したモビリティシステムおよびインフラ構築を目指して「5G Automotive Association(5GAA)」が創設された。当初は独Audi、独BMWグループ、独Daimler、スウェーデンEricsson、中国Huawei、米Intel、フィンランドNokia、米Qualcommの8社であったが、業種を超えて連携が広がり、2017年8月末時点で54社となっている。
米Intelは、完全自動運転システムの実現により、自動車1台が1日あたりに生み出すデータ量は4TB以上に達すると予測している。
さらに、2017年8月に創設された「Automotive Edge Computing Consortium(AECC)」によると、コネクテッドカーとクラウドコンピューティングの間で送受信される1か月当たりのデータ量は、2025年には現在の約1万倍にあたる10エクサバイト(1,000万テラバイト)に達すると予測されている。
当然ながら、データ通信自体は自動車以外の分野でも大量に発生するため、超高速、超低遅延かつ多数のデバイスを同時接続できる5Gは、今後のインフラを支える上で欠かせないものと考えられている。
自動車に限っていえば、膨大なデータを遅滞なく処理しきることができなければ、人命の危機につながる恐れもあるだろう。
総務省によると、日本では、2020年の東京オリンピック・パラリンピックでの5G実現を目標とし、2019年頃までに総合的な実証実験や主要国との連携、周波数帯など具体的な技術条件の策定が進められている。
一方、国際標準化にあたっての議論の長期化や、自動車の新車種開発に要する時間軸との釣り合いなども懸念されている。
5GAAは、すでに標準化が完了している4G LTEによるV2Xを推進する方針も示している。

共通化、協調、競争の領域が混在

2015年頃の自動運転開発では、日本では国土交通省主導のもと、日本の技術や基準での国際標準化を推進することで優位性を保とうという動きがみられた。
しかし、自動運転において協調すべき領域はあまりにも広く、標準化と確実な対応というやり方だけでは対応しきれないことも多い。
地図データに関しては、2016年6月、国内自動車メーカーと、電機メーカーやTech企業との共同出資により「ダイナミックマップ基盤企画株式会社(DMP、現ダイナミックマップ基盤)」が設立された。ダイナミックマップのうち、共通基盤部分に関する整備や実証、運用について検討を進めることを目的としている。
さらに、膨大すぎる研究開発コストを分担する意味合いもある。海外メーカーも、地図データに関しては基本的に協調する方針を示している。
これまで競争関係であった企業群とのつながりが一気に拡大していくなかで、協調のための最適な連携体制を作っていくことも、課題の1つとなるだろう。
一方、協調領域の先に、個社レベルの競争領域も関わってくるため、情報や人材の共有を実際にはどこまで行うかは、各社にとって判断の難しい問題かもしれない。


まとめ~自由で安全な移動の実現に向けて~

自動車業界における、自動運転技術の確立に向けた長期に渡る取り組みも、地道な研究開発活動や異業種を巻き込んだ技術革新により、実現の可能性が徐々に見えつつある。
しかし、通信インフラの整備や国・地域間での法規制改正などを始め、長期的なロードマップにおける課題は依然として多い。
道路上での車両の混在問題もその1つである。
すでに議論が進んでいる内容ではあるが、人間とシステムの双方が運転操作に参加すると、想定外の事象が多く、システム構築の難易度が高い。Ford MotorやGoogleなどの一部企業からは、一気にレベル4を目指した方がよいとする考えも出てきている。
ただし、実際には各社の目指す自動運転の在り方は異なる。中長期的な保有車両との入れ替わりなどもあり、一定期間はレベル2からレベル4未満の車両が路上で混在する状況を避けられないだろう。また、当然ながら路上には歩行者も存在する。
高度モビリティ社会では、高齢者の移動やラストマイル問題などの解消が期待される。一方で、人が自分で運転する、歩いて移動する、といった選択肢が残されることも、本来の自由な移動といえるだろう。
衝突回避支援システムなどの予防安全技術は、自動車の乗員と歩行者の双方を保護する技術として生み出された。自動車産業で蓄積されてきた技術が、自動運転の過渡期を経て、どのような形で新しい基盤に取り込れるのか、今後も各社の動きに注目していきたい。