【本日決戦】四面楚歌。ハリルホジッチの「2つの問題点」

2017/8/31

最大の問題は、監督の手腕

勘違いだと思いたかった。力があると信じたかった。
だが、最終予選ラスト2試合を目前にした今、はっきりと言えるのは、日本代表はチームとして大きなハンデがある、ということである。
現在、日本はW杯アジア最終予選B組の1位に立っているものの、ともに勝ち点16で並ぶ2位サウジアラビアと3位オーストラリアとの勝ち点差はわずか1。8月31日にホームでオーストラリアと、9月5日にアウェーでサウジアラビアと対戦する。
一昨日、サウジアラビアがUAEに敗れたため、日本はオーストラリアに引き分けるか敗れた場合でも、サウジアラビア戦に引き分ければ本大会出場が決まる。しかし、2連敗、もしくは、オーストリアに引き分けてサウジに敗れた場合、3位に転落する。
3位に転落した場合、まずA組3位と“アジア5位決定戦”があり、次に北中米カリブ海4位との大陸間プレーオフが待っている。厳しい道のりだ。日本としては、是が非でも今回の2試合でW杯への切符を確定させたい。
では今回、なぜこれほど予選で苦しんでいるのか?
本田圭佑や長友佑都ら中心選手の年齢的な運動量の衰え、台頭する若手の不足、アジアのライバルの成長など、いろいろな要因が関係している。だが、現状を詳細に分析すると、予選で苦しんでいる最大の理由は、監督の手腕にあると結論できる。
ヴァヒド・ハリルホジッチは、実績のある監督だ。
2000年にリールをフランス2部で優勝させ、翌年には1部の3位になった。その後、パリ・サンジェルマンやコートジボワール代表などの監督を歴任し、2014年W杯でアルジェリア代表をベスト16に導いた。フランスやアフリカを主戦場にするタフな指揮官である。
2014年のW杯では、アルジェリア代表監督としてベスト16に進出。優勝国となったドイツを延長戦にまで追い詰めた(写真:アフロ)。
なのに日本では、その実績のすごさをほとんど感じさせていない。
選手、コーチ、日本サッカー協会の技術委員、あらゆるところから、ハリルへの不満の声がもれている。日本が1998年W杯に出場して以降、これほど褒める人が少ない監督はいなかった。まさに四面楚歌で、ハリルは協会さえも信じられず、疑心暗鬼になっているだろう。

社長が部下の信頼を失った会社

ハリルへの不満の声をまとめると、2つの問題に集約される。
1つ目は「マネジメントが下手」ということだ。アフリカではハマっていたかもしれないので、“日本人選手のマネジメントが下手”と言った方がより正確だろう。
ハリルは若手に対して、自由に主張することを求めている。活気ある闘うグループにしたいのだ。ところが現実には、若手は萎縮しておとなしく、意見を伝えるものは限られている。
なぜか? 選手からすると、ハリルが恐怖政治を行っているように見えるからだ。
これまで練習や試合でハリルの指示を忠実に実行しなかった選手が、次の招集メンバーから外されたケースを彼らは目にしてきた。ハリルには確固たる理由があるのかもしれないが、選手たちからするとブラックボックスで、どうしても行動が無難になってしまう。
また、ハリルの議論のスタイルとして、何かを言われると、まずは「ノー」から返すことが多い。相手の意見を尊重して認めてから、でもこういうやり方があるだろ、と柔らかく言えるタイプではないのだ。そうなると余計に選手は進言しづらい。
とにかくよく聞くのは、「ハリルは頑固だ」という感想だ。
ハリルホジッチ監督はボスニア・ヘルツェゴビナ出身で、母国のリーグでは大きな年俸を見込めず、国外で職を求めるいわゆる“傭兵監督”である。少しでも隙を見せると足をすくわれるため、一切の隙を見せない指導スタイルになったのだろう。
ところが、規律よりも自主性に欠点がある日本人選手たちに対しては、そのマネジメントスタイルがかみ合わない。フランス人コーチが選手たちの不満を伝えても、ボスは変わろうとしない。
今の日本代表は、社長がほとんどの部下から信頼を失った会社、なのだ。

ハリルは日本に合わない

2つ目は「戦術の乏しさ」。
ハリルは欧州トップの試合をよく引き合いに出しており、自分の頭の中ではビジョンができているのだろう。だが指導現場になると、それを言葉にして、具体的な戦術に落とし込むことができていない。
ハリルは縦への速さ、運動量、激しさを求めている。個人が闘ううえで、悪くないコンセプトだ。
しかし、守備のプレスのかけ方など、組織としての動きについて、指示に具体性が乏しい。6月のイラク戦ではプレスがほとんどかからず、格下の相手にいいようにボールをまわされ、1対1の引き分けに終わった。
初戦のUAE戦でつまづいたハリルジャパン。その後も薄氷の勝利が続いている(写真:田村翔/アフロスポーツ)
個々の戦場で戦士がいくら奮闘しても、全体の軍略が間違っていたら負けてしまうように、今のハリルのチームでは個々が頑張っても報われないケースが多い。
ハリルジャパンの大一番の試合では、負傷交代する選手が目につく。今年3月のアウェーのUAE戦では今野泰幸と大迫勇也が、6月のイラク戦では井手口陽介と酒井宏樹が負傷交代した。組織戦術がほぼないため、個人に負担がかかる戦いになっている。
上の2つのことは、アルジェリアでは問題にならなかったかもしれない。だから、ハリルが悪い監督というわけではない。現時点で言えるのは「ハリルは日本に合わない」ということである。

番狂わせの夜になるか

とはいっても、今日の夜にオーストラリア戦があり、5日後にサウジアラビア戦が迫っている。
監督を代えるのは、W杯出場が決まってからでも遅くない。今できることは監督の指導力不足というハンデを抱えたまま、選手が決戦の舞台に立つことを、多くのサッカーファンが認識することではないだろうか。かつてない危機にあるのなら、応援の力でカバーするしかない。最も残念な負け方は、楽観主義のまま何となく負けてしまうことだ。
個人をつなぎ合わせる戦術を持ったオーストラリアと、それを持たない日本。どちらが有利かは言うまでもない。だが、前評判通りにいかないのが、サッカーのおもしろいところだ。不思議なことに、監督が頼りなくて、選手がまとまるという現象が起きることもある。
期待したい、番狂わせの夜になることを。
(バナー写真:田村翔/アフロスポーツ)