少子化でも競争激化。どうする、子どもの中学受験

2017/8/28
文京区44.9%、港区38.4%、千代田区37.8%──。
驚くことに、いま都内の3区では、これだけの割合の子どもが、私・国立の中学校に進む(公立学校統計調査報告書/東京都教育委員会、2016年)。
私立中学への進学率は全国で7%だが、東京では23.9%、神奈川では10.9%(文部科学省「学校基本調査」/2015年度)。首都圏の中学受験熱は驚くほど高い。
この現象に伴い、学校の数も増えている。1990年は647校だった国立、私立の中学校は、2015年には849校に増えた(文科省『学校基本調査』/2015年度)。
首都圏の小学校6年生の子どもの数は約29万8000人(2016年)、2017年は、さらに6000人程度減ったのに、受験者数は横ばいだ。結果として、受験戦線は厳しくなっている。
港区や千代田区のタワーマンションでは、ご近所の子ども同士で連なってサピックス通いする光景も見られる。誰がどこのクラスに入ったといった噂も伝わりやすいという。(写真:iStock/7maru)
そのため、数少ない名門校の枠を狙い、子どもが中学受験塾に通いだす年齢は低年齢化している。今では、小学4年の春には、受験塾に行かないと準備が間に合わないと言われる。
「20年前に比べ、子ども達が受験勉強でこなさなければならない情報量は、感覚値で3倍程度になった」(「かしこい塾の使い方」主任相談員の小川氏)からだ。
大手中学受験塾の授業に付いていくために、塾の宿題をサポートする個別指導塾も登場し、首都圏では「塾に通うための塾」に通うことも、もはや普通になっている。
なぜ、首都圏の親は、ここまで中学受験に駆り立てられるのか?

東大合格者数では中高一貫の圧勝

その大きな要因は、中高一貫校が大学受験に有利と考える親が、多いからだろう。
実際、東京大学の合格者が多い高校ランキングでは、開成(160人)、灘(94人)、渋谷教育学園幕張(78人)、麻布(78人)、聖光学院(69人)、桜蔭(63人)、栄光学園(62人)などが上位に入り(筑波大附属駒場は未公表のため、ランキング外)、私立中高一貫校が圧倒的な強さを見せつける。
子どもを中高一貫校に入れないことには、大学受験に不利……。
そう焦る親が多いのは相変わらずだが、2020年度には、その大学入試も変わる。
センター試験は2019年度に廃止され、これに代わって記述式がメインの「大学入学共通テスト」がスタートする。
各大学の個別試験も、論述式のペーパーテストに加え、面接や小論文、ディスカッションなどで多面的に評価する方式に変わろうとしている。
つまり、いま小学生の子どもの大学受験は、親世代の大学受験とは、大きく様変わりする可能性が高いのだ。
従って、現在の一流大学の合格実績が高いというだけで、子どもの志望校を選ぶのは、いささか単純過ぎる。

変わる、名門校の顔ぶれ

教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏は、「そもそも私立の中高一貫校は一流大学に入るために、行くものではない」と言い切る。
「子どもに私立の中高一貫校を受けさせる時は、どのような人間になって欲しいのか、どのような理念を体現して欲しいのかを考えて、学校を選ぶべきです」(おおた氏)
子どもの個性を伸ばす中学を選ぶ──。
そう考える親が増えつつあるせいか、最近では日本人向けではない教科書を採用し、オールイングリッシュの授業を行なったり、大学や研究機関とコラボしたサイエンス教育に注力するなどして授業に特色を出し、人気化する中高一貫校も増えてきた。
鴎友学園が使う中1向け英語教科書。日本人向けに開発されたものではなく、日本語は一文字も載っていない。
注目度が高まれば、当然、優秀な生徒が集まるようになり、結果として、進学実績が上がる──。
そんな図式から、親世代が中学受験をしていた頃には見かけもしなかった、渋谷教育学園幕張、渋谷教育学園渋谷、豊島岡女子学園、鴎友学園といった学校が軒並み東大進学者という面でも二桁の実績を出し、「新・名門校」の仲間入りをし始めた。
さらに、中学受験のメソッドも様変わりした。
親世代には存在しなかった、おおた氏が言うところの「ライザップ型受験工学」が確立。そのメソッドを身につけられるかどうかで、中学受験の成否が決するようになったのだ。
また昔から、「中学受験は親が9割」とは言われていたが、ワーキングマザーが増えたことから、母親のみのワンオペ体制での受験サポートは無理になり、父親の参加が必須になった。
本特集では、そんな今どきの中高受験の“新常識“を豊富な成功事例をもとに紹介。同時に、人気が急騰中の新・名門校と、その新興勢力を迎え撃つ、不動の人気を誇る伝統校を直撃する。
子どもを中学受験させる予定の親はもとより、挑戦させるかどうか迷っている親にも役に立つ充実の内容を届けるべく、本特集は通常の特集の2倍相当のボリュームの全12話で配信する。
具体的なラインナップは以下の通りだ。

灘、開成、武蔵校長インタビュー

特集1回目は、前出・教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が、名門校の顔ぶれの変化や、受験手法の刷新など、「中学受験の新・常識」について語り尽くす。
とりわけ見逃せないのが、「バブル偏差値校」の正体だ。
最近は、あるテクニックを駆使して偏差値上げに成功した学校が増えている。実力以上に過大評価されている学校の見分け方とは?
特集2回目は、「あなたの子どもが向く学校選び、7つの判断軸」と銘打ち、学校選びの極意を中学受験の専門家の取材をもとに解説する。
3回目、4回目は、子どもを志望校に入れた親の「合格体験記」を、父親編、母親編に分けて2本同時に配信する。
5回目は、これまでの流れとうってかわって、ヤフー執行役員の小澤隆生氏が登場し、「教育論」を語る。
小澤氏は長男が10歳になった時に、中学受験するかスイスの寄宿学校に行くか選択を迫った。そして、いま小澤氏の長男はスイス名門寄宿学校で学んでいる。その教育内容とは?
6回目は、ここ10年で偏差値が20以上上がった「新・名門校」の「学校再生ストーリー」をリポートする。
1980年代には、偏差値38だった鴎友学園、人気がなさすぎて偏差値の測定が不能だった広尾学園(当時は順心学園)。両校は、一体どのようにして、蘇ったのか。
7回目は、学費はただ同然なのに、充実したカリキュラムで人気がある、公立の中高一貫校の教育内容を取り上げる。
8回目、9回目、10回目は、名門校の顔ぶれが時代の変遷とともに変わりながらも、変わらぬ伝統を守り、不動の地位を保つ名門中の名門、灘、開成、武蔵の校長インタビューを一挙に同時配信する。
入学するには一筋縄ではいかない“高嶺の花”ではあるが、その校長インタビューは中高生の教育論としても十分読み応えがあるはずだ。
そして12回目は、中学受験に直接関係のない読者にも楽しんでもらえる、特別読物として、「男子校と女子校は、気持ち悪いのか?」を配信する予定だ。
このテーマで対談するのは、女子学院出身のコラムニスト・辛酸なめ子氏と、灘出身の名物編集者・コルク代表の佐渡島庸平氏だ。
特集の最後は、当代随一の批評家にして小説家、哲学者の東浩紀氏が登場。「中高教育論」で締めくくる。
筑波大駒場という名門中の名門で中高時代を過ごした東氏は、子どもも名門中高一貫校に入れたいと思っているのか? その回答やいかに。
(デザイン:九喜洋介)