イスラエル沸騰。なぜユダヤ人がイノベーションを生むのか

2017/8/21
相次ぐ日本からの来訪者
「毎週のように日本企業の相手をしていますよ。もはや、誰も彼も『イスラエル詣で』をすれば、いいみたいな」
あるイスラエルの現地関係者は、苦笑いしながらこう話す。毎週、日本からイスラエルを視察する企業らとのミーティングで、スケジュール帳が埋まっていくという。
イスラエルといえば、いわずと知れた中東の小国だ。
わずか人口870万人のこの国を日本から訪れるビジネス関係者は、ほんの数年前まで、一部の企業からだけだった。だが、この数年で、明らかに訪問者が急増しているという。
2014年に、茂木敏充経済産業相(当時)がネタニヤフ首相と会談すると、2015年には安倍晋三首相も現地訪問、今年に入ってからも、世耕弘成経産相を始め、3閣僚が続々とイスラエルへ足を運んだ。
経済界からも、2014年に経団連が派遣団を送り込んだほか、2016年には経済同友会も初の視察団を派遣、今年に入ると、新経連も視察に訪れた。このほか、官民の様々な団体がこぞって現地を訪問している。
なぜ、イスラエルがそれほど注目を集めるのか。
それは、この小国がテクノロジー分野で、世界的なイノベーションをリードしているからだ。イスラエルは、ドローンやインテルのCPU、ファイアウォールなどのテクノロジーを生み出した「発明大国」として知られている。
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つまり、イスラエルは科学技術を生み出す「頭脳」に秀でているのだ。
今も、自動運転にサイバーセキュリティ、人工知能(AI)に医薬品など、先端科学技術の開発や研究で、イスラエルは次々とイノベーティブな企業やスタートアップを生み出し続けている。
特に、自動運転は、自動車で世界を席巻する日本のお株を奪うかのように、「目」の技術をイスラエルが押さえ出している。世耕氏は、インテルが巨額買収した自動運転支援の「Mobileye(モービルアイ)」を訪れ、自動運転車に試乗も果たした。
こうした魅力に気づき、日本からもソニーやトヨタ、田辺三菱製薬など、大手企業が現地企業を買収する動きが出始めた。目下、自動車メーカーや、建機メーカーなどもイスラエルに拠点を設ける動きが加速している。
だが、世界を見渡すと、日本の動きは大きく遅れを取っている。
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例えば、IBMやインテル、マイクロソフトなどの米テクノロジー企業は数十年も前からイスラエルに開発拠点を設けているほか、2000年代になってからも、グーグルやアップルなどトップ企業たちがすでに進出を果たしているのだ。
つまり、日本は過熱するイスラエルブームの最終盤ギリギリで、その波にやっとこさ乗っているといえるのかもしれない。
なぜイノベーションが起きるのか
それにしても、なぜイスラエルは、イノベーション大国になれたのだろうか。
その理由は、特集でもレポートしていくが、自然環境や安全保障といったイスラエルに固有の要因だけではなく、イスラエルを建国した「ユダヤ人」の存在と切っても切り離せないだろう。
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「イスラエルの隆盛は最近のことに見えるかもしれないが、ユダヤ人は3000年の歴史で、世界のイノベーションをリードしてきました。それが離散を繰り返す中で、ヨーロッパで科学的な発見をしたり、シリコンバレーの隆盛に寄与したりしたんです。その歴史を見ないと、イスラエルのことも何も分かりません」
元経産省の官僚で、約5年の特訓と試験の末、ユダヤ教に改宗した弁護士の石角完爾氏はこう指摘する。
確かに、ユダヤ人といえば、人口は世界の0.2%にすぎないのに、ノーベル賞受賞者の20%以上を占めることでも知られている。また、その離散と迫害の歴史で、土地を持てなかったことから、金融やエンターテインメントのビジネスで、世界有数の存在感を放っていることも有名だ。
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最近では、フェイスブックやグーグルなど、シリコンバレーの先端IT企業でも、ユダヤ人が起業している例は、枚挙に暇がない。それゆえに、「ユダヤ人が世界を支配している」といった陰謀論が囁かれることも少なくない。
本特集では、陰謀論はさておき、なぜ「ユダヤ人がイノベーションを起こせるのか」について、イスラエルの現地取材をはじめ、ユダヤ人の技術者やビジネスパーソン、専門家らへの取材を通して、その実像に迫る。
その中では、迫害と離散をいかにしてビジネス的な成功につなげたのか、また、一般的には遠い存在だった日本との関係などについても、詳しくレポートしていきたい。
(取材・文:森川潤、デザイン:砂田優花)