建築士ピッカー・江頭浩さん「私がNPで発信する理由」

2017/8/12
NewsPicksでご活躍中のピッカーさんをご紹介する連載、25人目にご紹介するピッカーさんは、一級建築士の江頭浩さんです。
江頭さんは大手電気メーカーの関連建築会社から独立され、現在は個人住宅を中心に共同住宅、シェアハウスなどの建築設計を手がける建築設計事務所をやられています。
NewsPicksでは、都市開発や建築・施工から子育てまで、幅広いニュースにコメントくださっています。
「専門家の生の意見に触れられるのがNewsPicksの魅力」と話す江頭さんに、コメントする理由、ポリシーを伺いました。
8月19日(土)に東京・恵比寿で、不動産・建設・建築業界で活躍するピッカーさんの懇親イベントを開催予定です。詳細は本記事の最後をご覧ください。
建築士として背負う「安全への責任」
──2013年12月からご利用いただいています。かなり初期からお使いですが、きっかけはご記憶にありますか?
NTTドコモで「iモードの父」として知られる、夏野剛さんのツイッターで知りました。ニュースに対するコメントをツイートされていて、リンク先のURLに「NewsPicks」とあって、「これは何だろうか」と。
当時のNewsPicksは、まだオリジナル記事どころかカテゴリ別のタブもなく、「タイムライン(現マイニュース)」しかありませんでしたが、夏野さんをはじめ、著名な方も多数コメントされていて、驚いたのを覚えています。
そして、ユーザーが増えていくなかで、建築に関するニュース記事を目にする機会も増えていきました。そこでコメントをするうちに「どうやらNewsPicksには、建築について詳しい方が少ないようだ」と感じたんです。
金融やIT、海外のニュースなど、NewsPicksにはさまざまな知見をお持ちの方がいて、皆さんコメントをつうじて専門性を活かしていらっしゃる。
「少しでもお役に立てるなら、私も自分の領域についてコメントしていこう」と、
自然に思うようになりました。
──建築士としてコメントくださるとき、何を意識していますか。
職業病かもしれませんが、「安全かどうか」が一番気になりますね。私たち建築士は、設計した建物の安全性に責任を負います。安全かどうか分からないものを、気軽に「ルールを変えて、新しいことを取り入れよう」とは言いにくい。
もしかしたら、イノベーションにブレーキをかけるような発言だと、鼻白む方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、私の立場からは、ブレずに淡々と、安全・安心に配慮したコメントをしていくのが役目だと思っています。過度な安全神話とならないように意識しているつもりですが、先駆的なことは他の方にお任せしたいな、と(笑)。
江頭浩(えがしら ひろし・写真中央)
C+E建築設計事務所 代表、一級建築士。住宅・集合住宅を中心とする住空間・生活空間を計画・設計を手がけている。NECコンストラクション株式会社で、DRAM半導体工場プロジェクトなど大規模な意匠設計・現場設計監理を経験。住宅設計にも携わりたいと独立し、2003年から現職。RC造・S造の現場・施工図経験も豊富で、ディテールに関しても強みを持つ。
世界最高クラスの工場で奮闘
──現在はご自身の事務所を構えられ、住空間の設計をされているそうですが、以前は大きな工場を手がけられることもあったそうですね。
そもそものところからお話すると、大学の建築学科時代にコンピューターが好きで、「PC-8801」というNECのパソコンを使って、BASICを使った簡単な構造モデルで遊んだりしていました。
そんな中、就職活動をする時期になり、ふと「愛着のあるNECで建築の仕事に就くことはできないだろうか?」と考えたんです。
そこで、NEC関連の建築・設計事務所の社内見学会に参加したところ、社員がオフィスで高価なパソコンを使ってCADをやっていて、「うらやましい、自分も使ってみたい!」と思ったんです(笑)。
そんな志望動機ではありましたが、無事に採用してもらうことができました。
入社後は設計部に配属され、念願のCADを使いながら意匠設計を担当していました。デザインばかりに傾倒するという勘違いをしていた頃、「自分の設計した建物がどう建つのか、現場も経験してこい」と、現場常駐を命じられたのです。
向かった先は、広島にあるNECの半導体工場でした。
──いきなり現場常駐、うまくいったのでしょうか。
自分では一人前のつもりでしたが、現場に出てみたら分からないことだらけ。
あっという間に「あいつは使えない奴だ」と言われるようになりまして、文字通り叩きのめされましたね。
そんななかで、たった一人だけ、私を見捨てなかった上司がいらっしゃった。
上司の期待に答えなくちゃいけないと奮起し、「現場にガッツリ向き合って、とにかくここで、やりきるしか無い」と腹をくくって、3年間を必死に過ごしました。
トラブルも起こしました。
私の計画ミスで、操業中だった工場の従業員が、全員避難してしまったり……。
この時も上司が「任せた俺の責任だ」と、すべての責任を引き受けてくれたんです。
本体工事が終わった後、後工事のために一人広島に残りました。
その頃には、お客さまから新規計画など様々な相談を受けるようになっていて、信頼をえていたと思います。
個人的な相談などで飲みに誘ってもらえるようになり、距離が近づくにつれて、次第に「人と向き合うことの面白さ」に目覚めたんですね。
工場建設は規模も大きくてやりがいがあるけれど、人を深く知り、暮らしに密着した場を作る仕事にも、違った面白さがあるのではないか、と。
そこで、30歳になった年に会社を辞めました。
NewsPicksは訓練の場
──江頭さんのコメントをさかのぼって読むと、扱われているニュースの幅の広さにも驚きました。
会社を辞めてからも、決して順風満帆だったわけではないんです。
当初は生活のために、現場で施工図を書いて暮らしていました。
もしかしたら、大規模工場から個人住宅など幅広い設計を経験したり、このような現場の中を経験したり、紆余曲折の経歴が、思いがけず役に立っているのかもしれません。
とはいっても、私がコメントしていることは、建築に携わる人なら誰もが知っている、ごく一般的なことがほとんどです。
私の専門性にもとづいてコメントしているというよりは、自分の見識を高めようと思ってニュースの背景を調べ、事実関係を確認するようにしています。
──江頭さんご自身は、コメントすることにどんな意味があるとお感じですか。
後学のためにと、自分で調べた知識を、コメントとしてアウトプットすることによって整理したり、記憶に定着させたりすることができていますね。
それから、発信する訓練にもなっていると感じます。
もともと私は、オタク気質というか、必要がなければ内にこもるタイプだったんです。
妻は真逆のタイプで、「思っているだけではダメ、発信せねば!」と後押しされました。
漠然としている思考を言葉にまとめる練習を、NewsPicksでさせてもらっています。
──影響しあえるご夫婦って、素敵ですね。
コメントとして発信するときに、気をつけていることがあれば教えてください。
まずひとつは、なるべくフラットに、建築業界の一般的な意見を書くようにしています。
私の立場にプラスになるように作為的に書くこともできるでしょうが、それでは読む方にとってニュースへの深い理解につながりませんから。
どんなに心がけても、実際にやるのは難しいことなので、それをポリシーにしています。
もうひとつは、「他の方のコメントにコメントしないこと」です。煽られるとつい、やってしまうこともありますが……。
NewsPicksは記事について自分の考えを述べる場なので、矛先が人に向かってしまうと、結局楽しさが損なわれると思うんです。
実際、過去には私が書いたコメントに対して、批判されたこともありますが、気持ちのいいものではないです。
せっかく皆さん、それぞれの專門性を持ち寄って参加しているのですから、純粋に楽しみたいですし、お互いの貢献に感謝しあっていきたいですよね。
江頭さんが設計した自宅のリビング・ダイニング。「妻の意見も聞きながら、いろいろ実験的なことをしてみました」
「どこまでオープンにできるか挑戦してみようと思い、南側に大きな窓を設置しました。妻からの要望でもあり、たしかに開放感はありますが、“やりすぎだ”とたしなめられました。(江頭さん)」

住まいづくりから地域づくりへ
──江頭さんのプロフィールには「育児参加しながら地域活動する」とあります。どんな活動をなさっていますか?  
川崎市男女共同参画センター内の「イキメン研究所」を拠点に、地域で活躍する男性を増やそう、という取り組みをしています。
イケメンでもイクメンでもなく、「イキメン(家庭でも地域でもイキイキしている男性)」を増やす、というものです。
私自身も二児の父親ですが、はじめは何をすればいいのか分かりませんでした。父親である私たち世代が実際に手を動かして、いかにして子育てや家事をやりながら、当事者として地域に関わっていくことができるか。
そんなことを考えながらやっています。
最初に手がけたのが、お父さんのための子育てサロンの企画・運営です。私のように手探りで育児に取り組んでいるお父さんに参加してもらい、交流をつうじて悩みを解消できたらと思いました。
そのサロンで、参加者を交えながら「もしも父子手帳を作るなら、どんな内容がよいか」をテーマに話し合ったのをきっかけに、2014年度に作成したのが「ちちしるべ」です。
いわゆるマニュアル本のように、正解を押し付けるのではなく、私たち自身が主体的に子育てスタイルを探していけるようにと、工夫を凝らしました。
デザインにもこだわり、プロのアートディレクターのパパ友の協力を得て、キッズデザイン賞を受賞することができました。
──今後、実現したいことはありますか?
私のバックボーンでもある建築の知識を活かして、次は地域の男性を中心とした防災イベントを企画中です。
もし地震などの災害がおきたとき、どんな建物ならば安全性が高いのか、そしてどんな避難生活が待っているのか。
普段、地域コミュニティとの関わりが薄いであろう、働く男性にも参加してもらえたら、いざというとき心強いですから。
もうひとつは、世代を超えた交流ができるような場を作ることです。
地域が抱える課題は、ひとつの家庭はもちろん、現役パパ・ママ世代といった特定の年齢層だけで取り組めるものばかりではありません。特に防災は、すべての地域住民に関わることですから、コミュニティ全体で話し合っていく必要があります。
そして、このようなイベントを通じて、空き家など眠っている資産を掘り起こせたら、誰もが使えるコミュニティスペースを作れるかもしれません。
そういった場に日頃から集まって、コミュニケーションを取っておけば、いざというときにもお互いを支え合うことができるのではないでしょうか。
私が当事者としてできることから少しずつ、活動の輪を広げていきたい。世代やグループから、地域全体へと、イキイキ暮らす仲間を増やしていきたいです。
江頭浩さんのおすすめピッカー
「学生時代からNewsPicksを使われていたHanabusaさんは、ご専門の都市計画に関する知見が素晴らしいです。よく調べられているな、と思うコメントが多かったので、社会人になられてお忙しいかと思いますがぜひ続けてほしいです。」
北欧に留学経験がおありだという吉田さんは、欧州の建築事情に関するコメントを楽しみに読んでいます。建築や都市計画全体に関する俯瞰的なコメントもあり、特に先端技術について、よく勉強されているなあという印象です。
「「施工の神様」というメディアの編集長をされている方です。NewsPicksをご利用の皆さんがなかなか触れる機会のない、現場からの目線で書かれているリアルな記事が多く、参考にさせてもらっています。」
不動産や建設業界のコンサルタントをされているのか、デベロッパーにお勤めの方なのではないでしょうか。謎の多いピッカーさんですが、いつかお会いしてお話を伺ってみたいです。

【イベント告知】
NewsPicksでは、関心領域の近いピッカーさまの仲間探しや発信の場として、交流イベントを企画しています。今回は「まちづくり」をテーマに、8月19日(土)に東京・恵比寿で開催します。
当日は、2017年6月マンスリープロピッカーの光村圭一郎さんに「ライフシフト時代の都市の未来」をテーマにお話いただきます。また、本連載でご紹介した吉田雅史さん、江頭浩さんにもご登壇いただく予定です。残席わずかですが、よろしければぜひご参加ください。

会の運営にご協力くださるピッカーの、神の味噌汁さん、Hanabusa Soichiroさんとともに、皆さまにお会いできるのを楽しみにしています。