【新】亀っちと小松美羽が語る「アートとビジネスと現代人」

2017/8/10
昨年3月から今年1月にかけて連載された対談企画「亀っちの部屋」では、DMM.comの亀山敬司会長がホスト役となり、毎回、経営者や文化人を招待。脱力系ながらも本質を突く議論から、新しいビジネスやキャリアの形について考えていった。
大反響を巻き起こした同コーナーが、今回、特別編として復活する。
ゲストは、小松美羽氏。ペイント画の「神獣」や有田焼の「狛犬」など、日本の神話や独自の死生観に基づく作品を次々に発表し、今もっとも注目を集める現代アーティストだ。
小松美羽(こまつ・みわ)/アーティスト
1984年、長野県生まれ。2004年、女子美術大学短期大学部卒業。銅版画、絵画、陶芸などの分野で制作活動を展開。2014年、出雲大社に「新・風土記」を奉納。2015年、大英博物館が有田焼の狛犬「天地の守護獣」を永久所蔵。2016年、ニューヨークのワールドトレードセンターに 「The Origin of Life」が常設展示される。
小松美羽氏が描く「神獣」
現在の作風が生まれるまでに、どのような幼少期を歩み、そしてアーティストへの道を開いていったのか。作品が世界に受け入れられるようになるまでに、どのようなストーリーがあったのか。
亀山氏との縦横無尽な対談が展開される。

神の世界と自分たちをつなぐ存在

亀山 美羽さんに会うのは今日で3度目だけど、最初に会った時から「不思議な子だなあ」と思っていた。俺はそもそも、アートをいまいちわかってないけど、美羽さんはキャラ的に面白いと感じたよ。
先日、紀尾井町で行われた個展(「小松美羽展 神獣〜エリア21〜」)に行って作品を見たけど、ちょっと怖い感じがしたな。美羽さんが描くあれは何なの? 神っぽい感じもするんだけど。
2017年6月に開催された「小松美羽展 神獣〜エリア21〜」
小松 私が描くのは神そのものではなくて、神の手前にいる「神獣(しんじゅう)」です。
亀山 神獣? もののけみたいな感じ?
小松 もののけというか、神社にいる狛犬みたいなものです。神様は直接的に人間の世界に関わってくることはないので、神獣は、神の世界と人間の世界を行き来できる唯一の存在です。
キリスト教でも、神様は天使を使ってこちらに啓示を与えますよね。それと同じような感じです。
亀山 神の世界と俺たちの世界をつないでるんだ。動物園にいる獣じゃないんだね。
小松 はい、違います。神の使いです。
亀山 じゃあ神でもないんだよね。神は描かないの?
小松 神は描けないですね。神は高エネルギーだと思っているので、形にできないんです。でもその手前にいる神獣を描くことで、神のエネルギーを表現したいと思っています。
「Pray for Prosperity~幸せに生まれ、幸せに栄える」

体験を共有できる人物との出会い

亀山 そういう「神の使い」みたいな存在は、いつから感じ始めるようになったの? 子どもの頃にはすでに感じていた?
小松 はい。確かにそれが存在していることは、子どもの頃から感じていました。でも最初は、本当に獣として物質的に存在するのか、何らかのエネルギーが形になって見えているのか、区別がつかなかったんです。
ある時、雪の日に神獣が見えたのですが、足跡がなかったんです。それで初めて「物質じゃなくてエネルギーなんだ」とわかりました。
亀山 えっ。物質と非物質の区別がつかないくらい、はっきり見えてたんだ。
小松 はい、見えていました。きっと小さい頃から神獣のエネルギーと私がリンクしていて、目に見える。大人になった今もそれが続いている感じです。
亀山 他の人には見えないものが見えていて、周りから「変な子」と言われたりしなかった?
小松 はい。母親はそういうのが嫌いなタイプだったので、他の人が見えないものが見えると言ったら「怖っ」「美羽が見えても私には言わないで」と言われました。
小学校の時に「私、花としゃべってるから、友達と遊ばなくてもいいです」と先生に言ったら、職員室に呼び出されて心配されたりもしました。
亀山 ほとんどの人は見えないんだから、まあそういう反応になるよね。友達や身近な人で、神獣とかが見える体験を共有できる人はいたの?
小松 高校生の時に、初めてその体験を共有できる友達と出会いました。その頃、学校で怪談やオカルトがはやっていたんです。
亀山 こっくりさんとか、そういうの?
小松 そうそう、そんな感じ。それで、その友達と遅くまで学校に残って、怖い話をしながら歩いていたんです。すると、後ろからニョキニョキと影が廊下に伸びてきました。
どんどん伸びるから、「この影、何?」と思って振り向くと、上半身だけで足がないおじさんがいたんです。
亀山 めっちゃ怖いな、それ。
小松 はい。怖くなって「きゃー!」と走って逃げたんですが、その時に「今の、見たよね?」と確認したら2人とも見えていて「あ、私だけじゃないんだ」って。それが初めて、見えたことを共有できた瞬間でした。
それに以前からその友達と2人でいると、なぜかお互いに鼻血が出ていたんですよ。きっと共鳴するものがあったんでしょうね。
亀山 すごく通じ合ってたってことだね。鼻血友達か(笑)。
でもその体験は怖かったんでしょ。見えたことが共有できても、あまりうれしくない体験だね。
小松 そうですね。それは怖い体験でしたが、後にうれしい共有体験もありました。
数年前、勉強をかねて仏教の修行をするためにタイの山奥に行きました。そこで、マントラという呪文を唱え、何もないところから何かを出現させる術を教えてもらいました。
それを真夜中に唱えると、ジャングルと洞窟しかない場所に、神獣のようなものが本当にいっぱい見えたんです。私はうれしくなって、月明かりの下で必死になってその神獣たちをスケッチしていました。
朝になって、タイ仏教の聖者の方にそのスケッチを見せると「ああ、この動物は洞窟の中にいるやつだね」「この猿のようなものは、岩の上にいたね」と言ってくれたんです。
亀山 へえ。その聖者にも、神獣たちが見えていたんだね。
小松 はい。一時期は「私は妄想が見えているのかな」と不安になったこともあったので、その共有体験にはすごく救われました。

薬のように効く作品

──小松さんが本格的に作品づくりを始めたのは、2002年に女子美術大学短期大学部に入学してからだそうですね。
小松 はい。故郷の長野から東京に出てきてからです。
亀山 それまでは見えたものを描いてなかったんだ。なぜ描かなかったの?
小松 自分が見たものを表現するための、適切な手段がわからなかったんです。水彩画でもないし、油絵でもない。「この絵の具では表現できない」という感じでした。
それがある時、授業の中で版画を刷った時に「これだ!」と鳥肌が立ちました。短大には洋画専攻で入学していましたが、すぐに版画専攻に転籍しました。今の作品があるのは、版画に出会ったからだと思います。
2006年制作の銅版画作品「四十九日」
亀山 なるほどね。展覧会とかに来る人は、作品を見てどんな感想をもってくれるの。
小松 以前から見てくれている人は「はじめは怖いと思ったけど、だんだん見守られているような気がしてきました」と言ってくれます。サブリミナル(洗脳)効果があるのかもしれませんが(笑)。
亀山 でも見に来るほとんどの人は、美羽さんが描くものが見えないわけでしょ。「あ、私が見たのとそっくりだわ!」と絵を買うわけじゃないだろうし。それでもこうして多くの人の注目を集めるということは、みんな、何に引かれているんだと思う?
小松 うーん、そうですね…。「悪いものを取り除いてくれるようだ」と絵を玄関に飾ってくれる人もいますし、中には「今は見えないけど、子どもの頃に見たことがあります」と言う人もいます。
武田鉄矢さんは、私の作品を人に紹介するときに「小松美羽さんの作品はいいでしょ」でなく、まるで薬みたいに「効くでしょ」と言ってくださいます。ご自身が具合の悪い時に作品を見て、何か感じるものがあったそうです。
それに以前、展覧会を手伝いにきた妹に「お姉ちゃんに話しかける人の8割が、手首に数珠をつけてるよ」と言われました。だからやっぱり、そういうものを感じる人や信じている人が見てくれるのかなと思います。
亀山 何か共通するものがあるんだろうね。
「小松美羽展 神獣〜エリア21〜」で来場者を前にアートを披露する小松氏
*明日に続きます。
(聞き手:野村高文、構成:合楽仁美、撮影:遠藤素子)