「LINEさえあればなんでもできる」を実現する

2017/8/10
LINEは、今や日本最大のコミュニケーションプラットフォームと言っても過言ではない。この巨大なプラットフォームを生かして、様々なBtoBビジネスが広がっている。新しい顧客とのコミュニケーションを可能にする「LINE ビジネスコネクト」の立ち上げ初期に大手通信業界から転職した杉本浩一氏に、この事業の醍醐味と未来像について聞いた。
「再配達」という社会課題に向き合う
LINE ビジネスコネクトが実現する課題解決の姿を、最も身近に感じてもらえるのが、ヤマト運輸の事例でしょう。荷物のお届け予定や不在連絡をLINEで通知することができ、ユーザーは送られてきたURLをクリックすれば、受け取り日時や場所を変更することができます。
さらに昨年6月からは、会話AIを使ったサービスも開始しており、ユーザーは荷物の問い合わせなどを、LINE上での通常の会話のように気軽に行えるようになりました。
LINEが2014年に構想を掲げた当初から、宅配事業との連携は筆頭に挙がっていました。
しかし、当時のLINEは個人間のコミュニケーションツールやゲームとして認識されていました。法人が連絡手段として使うことには抵抗感のほうが大きかったのでしょう。LINEとしても、大手企業へのパスもなく、営業はテレアポからのスタートでした。
コーポレートビジネスグループ ビジネスコネクトチーム マネージャー 杉本浩一氏
潮目が変わったのは、宅配業界の「再配達」による配達員への負担が、社会的な問題となったことです。ヤマト運輸のミッションは、「お客様に良いサービスを提供すること」と「再配達の削減」。お客様に一番伝わるツールでの発信が求められる中、LINE ビジネスコネクトがマッチしたのだと思います。
では、どんなサービスにするのか。これが次のフェーズです。
LINE ビジネスコネクトは、LINEからはAPIを企業に提供するだけで、極論、ただの「土管」に過ぎません。ゴールに向けてどう接続して、いつ何を実現していくかが重要です。
企画メンバーには、現場に課題感を持ち、「お客様にとってのあるべき宅急便の姿はこうだ」と考える、熱い人間が集まっていました。
「こうすれば課題解決できるのでは」「UI、UXにもこだわった良いアカウントにしたい」「現段階では無理だが、新たな仕組みを開発するべきだ」などと理想をぶつけ合い、企画を練り上げていきました。
また、創業者の小倉昌男さんが掲げた標語「サービスが先、利益は後」が示すように、ヤマト運輸側からの熱意もひしひしと感じました。本来は週1回の定例会を、週3回まで増やして、夜まで議論を交わしていましたね。
自然に毎日3000人の「友だち」が増加
今、ヤマト運輸のLINE公式アカウントには約750万人の「友だち」がいます。リリース当初の無料のLINEスタンプ配布で既に数十万人の追加がありました。
驚いたことに、スタンプ配布期間が終わっても、毎日2000〜3000人ずつLINE友だちが増えていったんです。ブロック率が非常に少なく、むしろ、自らアカウントを検索して、友だち追加してくれるケースも多かった。
つまり、ユーザーが検索してでも使いたい、便利だと思うサービスだったということです。
ヤマト運輸のアカウントから、不在通知などの配達情報が届く
思わぬ反応は、ヤマト運輸のセールスドライバーの方々からもありました。再配達の減少は彼らにとっても有益ですから、配達時に直接お客様にアカウントを紹介してくださったんです。
発見だったのは、ユーザーが便利だと感じ、社会的な課題の解決になるアカウントであれば、自然に使われていくということです。ユーザーに真に必要なアカウントは登録され、そのアカウントの価値自体を高めるのです。
LINEはそれまで広告ビジネスが主体でしたが、ヤマト運輸のケースは、予定通知をするだけのアカウントとして広告的な見せ方はしませんでした。これは、ユーザーが便利だと思えるサービスと「つながる」新たな事例となりました。
「土管」で終わらせないために
リリース時のサービスにあるのは最低限の機能です。どのサービスにも最終的な理想像があるので、大きなアカウントには追加機能をどのタイミングで出すか考えていくことも必要です。
はじめはAIでの会話もできませんでしたが、今では、LINE上で送り状(伝票)を完結することもできれば、希望の配達時間を選ぶこともできます。
LINE ビジネスコネクトはただの「土管」を提供するのではなく、エンドユーザーに届くように、どういうサービスにするかを最後まで一緒になって考える。ビジネスの枠を超えたパートナーシップを強固にし、信頼関係を築くことが大切だと思っています。
営業は「ないものを作る」時代
ヤマト運輸以外でも、コミュニケーションアプリの枠を超えてリアルとつながるビジネスは数多く生まれています。
たとえば、キリンビバレッジバリューベンダーと4月にリリースした自動販売機サービス「Tappiness(タピネス)」です。「LINE Beacon」による、近くの自動販売機の通知機能や、LINE Payでの決済機能があり、ポイントを貯めるとドリンクが無料になります。
このサービスは、お客様の購入情報を得るという意味で、飲料メーカーにとっても非常に有用なサービスとなっています。
自動販売機サービス「Tappiness(タピネス)」にはLINE Payでの決済機能などがある
今や、営業はあるものを売るのではなく、ないものを作る時代です。
そもそも前例のないサービスをどうするか、様々な分野の意見をすり合わせるのは、非常に大変です。キリンの場合は、ビーコン、サーバー、飲料メーカー、自動販売機の会社が一堂に会し、構想段階から1年以上詰めていきました。
やる領域が広く、企画開発その他もろもろ、全て私たちの部署でとりまとめていかなければなりませんが、自分と違う分野のプロから、「発想の種」をもらえます。お客様から望まれる仕事でもあり、達成感はひとしおです。
ビジネスコネクトの誕生で感じた危機感
私自身、LINE ビジネスコネクトの構想に衝撃を受けてLINEに転職し3年が経ちました。「タップ一つでピザの宅配ができる」「位置情報でタクシーの予約ができる」といった構想を聞き、「大変なことが起きた」と思いました。
当時の私は、大手電気通信事業者として、クラウドサービスや新しい通信基盤に携わることができ、やりがいを感じていました。不満があったわけでもありません。
しかし、一番使いやすいコミュニケーションツールのLINEで、直接企業と顧客がつながれるようになってしまったら……。「企業のコミュニケーションが全部取られるのでは」と危機感を感じました。
同時に、ワクワク感もありました。「LINEさえあれば、なんでもできる」。こんな世界ができたら、本当に便利な社会になると思いました。
発表の翌日、SNSで今の上司である田端信太郎の「大手SIerの営業が向いていると思います」というコメント付きで、LINE ビジネスコネクトの求人情報が目に入りました。転職なんてまったく考えていなかったのですが、直感的に応募していました。
あれから3年。あのときの衝撃が単なる夢物語ではなく、着々と実現しているのを感じます。私は今、LINEという「思い描いた世界を実現する世界」にいるんだと思います。
今のLINEには、リアルな製品を作っている人、カスタマーサポートに強い人、決済分野のスペシャリストなど、様々な専門分野を持つ幅広い人材が求められています。「このインダストリーの知識なら誰にも負けない!」といった知見のある法人営業なども、活躍の場があるでしょうね。
「世の中を便利にしたい」というマインドセットがあり、自分の専門分野を持ち、時間がかかっても理想に向かって着々と頑張れる人。そして何より、自由でスピード感があるカルチャーの中で「これがやりたい」と主張できる意志の強さが求められます。
「LINEさえあれば、なんでもできる」。そんな世界の実現が私たちの目標です。
日本には便利なサービスがたくさんありますが、LINEはコミュニケーション性とリアルタイム性が強みのツールです。この2つを便利なサービスにしっかり結びつけたいと思っています。
(編集:大高志帆 構成:湯川うらら 撮影:稲垣純也)
LINEの挑戦は止まらない。新規事業開発の醍醐味とは