増える倉庫用フォークリフトに商機

プラグ・パワー(Plug Power)のアンディ・マーシュCEOには、自分の未来が見えている。それはフォークリフトが担っている。
プラグ・パワーは、水素燃料電池を製造する小さな会社だが、20年近く顧客を見つけようと奮闘してきた。しかし、もうその必要はない。2017年4月にアマゾンが、自社倉庫のうち10カ所で使うフォークリフトでこの技術を試すことに合意したからだ。
さらに、アマゾンとの6億ドルの取引に続き、7月にはウォルマートが同様の取引に合意した。プラグ・パワーの電池で動くフォークリフトを使う自社倉庫を2倍に増やし、58カ所にしたのだ。
「ウォルマートもアマゾンも、未来を見据えているのは明らかだ」とマーシュCEOは語る。「小売業界最大手の2社が『この製品は自分たちのビジネスをさらに良くする』と言っているのだから、ここからがスタートだ」
スイスの発明家フランソワ・イザック・ドゥ・リヴァが1808年に初めて水素燃料自動車を製造して以来、多くの発明家や未来派たちが水素をエネルギーに変換するそのクリーンな技術に夢を抱き、多額を投資してきた。
だが水素は、燃料としてはまったく採用されなかった。他の技術と比べてコストが高いのが主な原因だ。
しかし現在、オンライン小売業者や大型小売店の倉庫ネットワークが増えているおかげで、水素は増加するフォークリフトの燃料として活躍の場を見つけた。台数が問題を解決したのだ。
水素燃料電池パックを備えたフォークリフトの価格は、1台5万8000ドルにもなる。鉛蓄電池を使った標準のフォークリフトと比べると約2倍だ。
しかし、米エネルギー省に属する国立再生可能エネルギー研究所が行った2013年の研究によれば、平均的なフォークリフトの寿命である10年で考えれば、水素モデルは10%安くなるという(このコストは、研究が行われた時点から、現在はさらに改善されているとプラグ・パワーは主張している)。

トヨタも水素燃料モデルを開発中

コストが安くなるのは、充電が数時間でなく数分間で終わるため、バッテリーを充電する人件費が減少し、倉庫のスペースがあき、24時間連続で製品を動かせるからだ。
水素燃料電池では、液体水素が膜を通過するときに電子化学的プロセスで電子が取り除かれ、電気と少量の水がつくられる。米国の倉庫で使われているフォークリフト60万台のうち、水素を燃料としているものは3%未満だが、その数は増加してきている。
世界最大のフォークリフト製造会社であるトヨタ自動車は、水素を燃料としたモデルを開発中であり、2017年に日本にある自社工場の1つでプロトタイプを使い始めた。
また、別のフォークリフト製造会社大手ハイスター・イェール・マテリアルズ・ハンドリング(Hyster-Yale Materials Handling)は、2014年にヌベラ・フューエル・セルズ(Nuvera Fuel Cells)を買収し、その技術を自社製品に取り入れた。
「鉛蓄電池は効率が悪い」とヌベラのジョン・テイラーCEOは語る。「水素燃料電池は、そうした欠点のほとんどを解決する」
バラード・パワー・システムズやハイドロジェニックス(Hydrogenics)など、ほかの燃料電池会社は、フォークリフト以外での使い方を推し進め、バスや配達用トラック、ドローンの燃料に水素を利用している。
こうした市場では、車両やドローンは補給所に戻って燃料補給するため、水素ステーションをあちこちに設置する必要はない。

水素燃料電池の有効性を示す市場

1997年に設立されたプラグ・パワーは、水素燃料電池の適切な市場を何年も探していた。
家庭向けや携帯電話基地局向けの発電などを開拓しようとしていたが、マーシュCEOに天啓が訪れたのは2008年だった。カナダの倉庫管理者が、フォークリフトがぴったりだと率直な意見を述べたのだ。
水素を燃料とするフォークリフトを使えば、充電時間を節約でき、予備のバッテリーを置いていた場所を解放できるだけでなく、電池が減ってきても動きが鈍ることはない。極寒の冷凍室でも、その動きは鈍らない。
だからといって、簡単に鉛蓄電池に取って代わるというわけではない。鉛蓄電池は、耐久性があり完全にリサイクル可能で、ほとんどの車両が馬に引っ張られていた時代からフォークリフトを動かしてきたのだ。
別の問題もある。米議会が、クリーン・エネルギーを促進するための法律から燃料電池を除外したため、連邦税額控除が2016年末で終了してしまったのだ。
それでもマーシュCEOは、2017年のプラグ・パワーは売り上げ増に向かっており、2018年にも黒字化すると見込んでいると述べる。
「何年もの間、水素燃料電池は次の破壊的技術だと言われてきた」。そう述べるのは、投資銀行コーウェン・アンド・カンパニー(Cowen & Co.)のアナリスト、ジェフリー・オズボーンだ。「フォークリフトが、ついにその有効性を証明したのだ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Joe Ryan記者、Chris Martin記者、翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、写真:bugphai/iStock)
©2017 Bloomberg News
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.