建築ピッカー・吉田雅史さんがめざす「多彩なまちづくり」

2017/7/29
NewsPicksでご活躍中のピッカーさんをご紹介する連載、24人目は吉田雅史さんです。
大手設計事務所で都市開発に携わったのち、現在はリノベーションを得意とするデザイン事務所で、街の魅力を引き出すプロジェクトを手がけられています。
建築デザインや都市開発に関するニュースを中心に、ピック・コメントくださっている、人気のピッカーさんです。
そんな吉田さんがNewsPicksに感じている価値、そしてコメントを続ける理由とは?
8月19日(土)に東京・恵比寿で、不動産・建設・建築業界で活躍するピッカーさんの懇親イベントを開催予定です。詳細は本記事の最後をご覧ください。

NPは新しい視点をくれる

──吉田さんは2014年初頭からNewsPicksをご利用いただいています。使い始めたきっかけから教えてください。
新しいものの見方に気づかせてくれるニュースメディアを探していて、出会ったのがNewsPicksでした。
NewsPicksを使う前は、海外のメディアやツイッターを活用し、情報収集していたのですが、欲しい情報を手に入れるのが大変でした。
偉そうなコメントで恐縮なのですが、日本のニュース、特にテレビは同じ素材を使いまわしながら、同じ切り口で報道する印象が強くて、また、感情的な分析や印象論ばかりで、面白さを感じられませんでした。
そんなときに、ツイッターで「NewsPicks面白い」とつぶやく人がいるのを見かけました。
実際に使ってみると、さまざまな分野の専門家たちが、同じニュースについて多様な読み方を提示してくれ、異なる視点のコメントが読める。さらに専門家の分かりやすい解説まで読めてしまう。
何より、経済ニュースに特化していて、芸能ニュースなど余計なものが入ってこないのも魅力でした。ようやく求めていたものが見つかった、と思いました。
吉田雅史(よしだ まさし)
東京工業大学で都市計画を学び、交換留学したヘルシンキ工科大学と東京大学大学院で建築を学ぶ。卒業後は日建設計にて都心の開発プロジェクトに従事。海外留学を志すも失敗。現在はブルースタジオに転職し、ハコモノ・道路・補助金に頼らず、経済的に持続できる地方のまちの実現を目指す。

都心から地方のまちづくりへ

──吉田さんは都市開発や建築に関するニュースにコメントを寄せてくださっていますね。いずれも専門知識の裏付けを感じる内容です。
どのようにして身に付けてこられたのでしょうか。
僕は大学時代から都市開発を学び、海外留学を経て、東大大学院で建築学の修士課程を修了しました。
卒業後は、大手設計事務所の日建設計に入社。都心の開発プロジェクト・マネジメントを担当する部署に所属し、様々なまちづくりに携わってきました。
そこでは特に、トランジット・オリエンテッド・ディベロップメントと呼ばれるタイプのプロジェクトを手がける機会があり、鉄道沿線の開発について学ばせてもらいました。
──トランジット・オリエンテッド・ディベロップメントとは?
僕が解説するのもおこがましいのですが、日本は戦後、とりわけ都心で住宅が不足していました。公共で出せるお金にも限りがある中で生まれたのが、「鉄道沿線の都市開発」というモデルなんですね。
個々人に住宅ローンを組んでもらい、そのお金で住宅を建てることで、公共が支払う開発費用を抑えながら、戦後不足していた住宅を供給していくことが可能となります。
そこで生活する人々は、電車に乗って通勤・通学し、駅の商業施設を利用しますから、鉄道の運賃収入、駅の不動産収入を得ることができます。個人は夢のマイホームを手に入れ、鉄道会社、金融機関、ハウスメーカーも儲けることができるモデルでした。
住宅が不足し、人口が急増する時期の開発モデルとしては、とてもイノベーティブな形でした。
ただ、時代は変わり、これからの日本は人口が減少していきます。そんな時代では、このモデルはリスクが大き過ぎるので使うべきではありません。
住宅に限らず、人口減少の時代では「まずハコや道路を整備する都市開発モデル」に限界を感じています。
──吉田さんはコメントをつうじて、興味深いまちづくりの事例もご紹介くださっていますね。
地方に目を向けると、交通利便性の面で都心には負けてしまってますので、都心と同じ様なモデルは通用しなくなってきています。逆に、都心には無い魅力を発信しないと人は集まりませんし、ありきたりではすぐに真似されてしまいます。
そうした中で、広島県尾道市のせとうちホールディングスの取り組み、北海道帯広市とスノーピークの連携など、地域の人口減少の問題を、ローカルな魅力とアイディアで乗り切ろうとする例も生まれ始めており、NewsPicksでもご紹介するようにしています。

専門的な内容を分かりやすく

──吉田さんがコメントを書くときに、気をつけていることは?
よくサボってしまうので、実践できているとは強く言えないのですが、意識していることはふたつあります。
ひとつは、専門的な内容を別の分野の方でも分かる様に分かりやすくすることです。
僕の従事する建築業界は、専門用語も多いですし、簡単には説明できないことが多いのも事実です。それによって、業界として孤立してしまっているように感じることにも問題意識を感じていました。ですので、専門的な内容を、できるだけ分かりやすく噛み砕きながら共有することに気をつけています。
もうひとつは、いい記事を書いてくださった記者さん、そしていいコメントを書かれたピッカーさんには「ありがとう」とお伝えすることです。
建築のコンペでも、提出した作品に対し、フィードバックをいただけることがあります。こうしたご意見から学ぶこと、気付かされることは少なくありませんし、ポジティブなフィードバックはすごく嬉しいものです。
記事を書いている記者の方にも、網羅的に分かりやすく、本質を突く記事であれば、ありがとうと伝えたいと意識してます。
そう思うようになったのは、僕の留学体験が影響しているかもしれません。
吉田さんが留学した、フィンランドのヘルシンキ工科大学キャンパス。

ヘルシンキで味わった挫折

──フィンランドに留学されていたそうですね。
東工大では、都市計画制度や空間デザイン、そして経済活動について包括的に学んでいたのですが、建築デザインについても興味を持ち、勉強したいと思うようになりました。そこで、大学3年生のときに交換留学制度を使ってフィンランドのヘルシンキに留学しました。
──吉田さんは語学には自信が?
まったくです。さらに、建築の知識も経験もほぼ0でした。
ですから、必死にプレゼンテーションしても、「君の発表、全然分からないよ」と一蹴されてしまう。僕の出番になると、他の学生が一斉に立ち上がって出て行ってしまうことがしばらく続きました。
「ガムシャラだった」と吉田さんが振り返るヘルシンキ留学時代の写真。
──それは、想像するだけで辛いです……。
はい、あまりにも寂しかったので、戦い方を変えることにしました。
意外に思われそうですが、ヨーロッパの大学院は、構造や法規、設備についての理解が問われるガチガチに実務的な教育内容なんです。というのも、資格試験がある日本と異なり、大学院卒業が建築士の資格があることを意味するからです。
周りのみんなは学部と留学やインターンを経ていて、経験も知識もある中で現実的なプランを練ってくる。その分野ではどうせ負けるので、僕は企画力で勝負しようと。
あとは体力勝負で(笑)、図面だけでなく巨大な模型も作りました。
苦手なプレゼンテーションは、ひたすら何度も練習し、丸暗記してのぞみました。
最終プレゼンでは、オリジナリティのある提案を、何とかカタチに落とし込んだことから、幸いにもトップの成績を収めることができました。

──努力が報われたんですね、よかった!(拍手)
プレゼンが終わって、みんなの方を見たら、「マサ、よかったよ!」「お前はいつかやると思ってた!」なんて、手のひらを返すって表現でも足りないような褒め方をしてくれて(笑)。先生方からも日本ではありえないぐらい大げさに褒めてもらって。日本では褒められることがあまり無いので、すごく新鮮でした。
「分からない」と率直なフィードバックがもらえていなければ、ここまで頑張らなかったかもしれないですし、「よかったよ!」というポジティブな反応を海外で得られたことは、今でも努力を続ける支えになってます。
いいことも悪いことも、フィードバックは大事だと実感した体験でした。

まちの宝探し

──現在はどんなことに取り組んでいますか?
これからの日本において、「人口が減少していく中でも持続できるまちをどうデザインすればよいか?」と考えるようになりました。場所の価値をアイディアで高める、ローカルな魅力でグローバルに人を惹き付ける、そんなことに挑戦したいと思うようになりました。
2017年5月には、生活環境のリノベーションを得意とする、ブルースタジオというデザイン事務所に転職しました。
そこで携わっているのは、リノベーションの考え方を応用し、地方や郊外の都市の魅力を引き出すプロジェクトです。
まちの魅力を活かしたブランディング、ブランディングと併せた建築設計、マーケティングリサーチに基づく事業収支の概算、まちや建築のプロモーションなど、建築・都市・広告・不動産などの領域を横断して、事業としての成果に貢献できる提案・ストーリーづくりに励んでいます。
──吉田さんのこれからのチャレンジについてお聞かせください。
「まちの宝探し」の力を鍛えたいです。
今の上司が、新しいプロジェクトに携わるとき、最初に実施することです。
まずそのエリアに足を運び、そこのユニークな点、外から見たときにポテンシャルを感じさせる空間、貴重な自然や歴史、さらには地元の歴史に詳しいおじいさんや、センスのいい店のオーナーさんなど、そこで暮らす人までを含めて、「まちのお宝」を探します。
──人もお宝になるんですね。

見つけたお宝や、データでみたまちの課題を編集して、ひとつながりのストーリーに仕立てて発信する。そのストーリーにより、まちに関わる人々の共感を連鎖させることで、実際にまちをかえていくことができるのだと教わりました。
僕の実現してみたいことは、ローカルな魅力を磨いて、そこでしか実現できないライフスタイルを提供できるまちをデザインすることです。
当然、経済的に持続できないと意味もないので、その仕組みも提案したいです。そうして、ニッチでローカルな魅力を発信し、グローバルにも人を惹き付けることができるまちが増えていけば良いなと。
多彩なまちがあって、好きなライフスタイルを選ぶように住むまちを選ぶことができれば、人生はもっと楽しくなりそうです。

吉田雅史さんのおすすめピッカー

「丁寧にエビデンスを書かれていて、誠実な姿勢に頭が下がります。ときとして分かりにくい建築・建設関連のニュースについて、江頭さんは誤解を解きほぐそうと、先人切ってコメントくださっています。」
「職人さんを多数抱える会社を経営されているとのこと。非常に説得力のあるコメントが多く、参考にさせていただいています。」
「緑化資材の販売会社にお勤めのピッカーさんで、施工に関する専門知識をお持ちです。僕は疎い分野なので、コメントを読んで勉強しています。」
「NewsPicksをいい空間にしよう、という気持ちを感じさせるコメントが特徴的なHanabusaさん。学生時代からコメントされているのをお見かけしていますが、幅広い分野のニュースをご紹介いただいています。」

【イベント告知】
NewsPicksでは、関心領域の近いピッカーさまの仲間探しや発信の場として、交流イベントを企画しています。今回は「まちづくり」をテーマに、8月19日(土)に東京・恵比寿で開催します。
不動産・建設・建築業界で活躍するピッカーさんの、親睦を深める機会になればと願っております。

さらに今回は、まちづくり関連のニュースでコメントをお見かけする、神の味噌汁さんHanabusa Soichiroさんも、会の運営に協力くださるとのこと、準備段階からワクワクしております!

本記事でご紹介した吉田雅史さんもご参加予定です。皆さまにお会いできるのを楽しみにしています。《詳細・お申込みはこちら》