【SPEEDA総研】明暗分かれるフィットネスクラブの今後

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2017/07/29
SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。
夏になりスポーツを始める人が再び増える時期となった。そのようななか、国内のフィットネスビジネスは拡大と変化の時代に入っている。今回は、国内のスポーツ市場動向の国内フィットネス事業の概況と英米と比較した国内環境の違い、課題について考察する。
夏になりスポーツを始める人が再び増える時期となった。そのようななか、国内のフィットネスビジネスは拡大と変化の時代に入っている。今回は、国内のスポーツ市場動向の国内フィットネス事業の概況と英米と比較した国内環境の違い、課題について考察する。
フィットネス業界は景気変動の影響を受けながらも好調
国内のフィットネス事業売上高は増加が続いており、2016年も過去最高額を更新している。
経済産業省の動態統計によると、国内のフィットネス事業売上高(調整済み収益率を用いて逆算したもの)は、2016年に前年比2.7%増の2,375億円となった。2008年以降は金融危機で業界売上高の伸びは停滞したが、2012年以降は堅調な伸びが続いている。
なお、フィットネスクラブ会員のうち、法人会員はさらに景気の変動を受けやすいが、全体に占める割合は1%程度のため、影響は小さい。
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会員数増加が売上高の増加要因
売上高を会員数と会員当たり売上高に分解すると、その背景には、会員数の増加が売上高増加要因となっている。2010年から2016年まで会員単価は3.6%低下したのに対し、会員数は同20.8%増加している。会員単価は景気によって変動しやすい特徴があるが、長期的にはフィットネスクラブの会員費は価格弾力性が低く、値上げがしやすいため、単価は緩やかな上昇傾向が続いている。
フィットネスクラブの行動者率は上昇
次に、フィットネス利用動向をみるため、2017年7月に発表された生活基本調査の「器具を使ったトレーニング」のデータをみる。器具を使ったトレーニングの行動者率は、一般的に若い人ほど高い傾向にある。そして、2016年は全年代で行動者率が高まっていることに特徴がある。
器具を使ったトレーニングの行動者率でも、年々その割合は上昇しており、2016年は全年代で行動者率が高まっている。フィットネスクラブでの活動が増加していることがうかがえる。
事業者のタイプは多様化が進む
国内のフィトネスクラブ運営事業者は、近年は増加しており、運営のタイプも多様化が進んでいる。コナミやルネサンスは総合型ジムだが、RIZAPグループは高価格な成果志向型のジム、カーブスは女性の高年齢層を主なターゲットとする。24時間営業を行うコンパクトなセルフ型ジムを運営するAnytime Fitnessなどもある。
総合型ジムの運営者も近年は多様化するニーズを捉えるべく、新たなサービス・事業を開始している。コナミスポーツクラブはボルダリングを併設した施設を2017年にオープン。ルネサンスはヨガスタジオの「ドゥミルネサンス」やリハビリ施設「元氣ジム」を運営するほか、セントラルスポーツはホットヨガを取り入れた「ジムスタ」、ティップネスは24時間セルフ型ジムの「ファストジム24」を運営する。
個別企業では明暗が分かれる
市場が拡大するなかで、各社の業績は明暗が分かれる。最大手のコナミは、他社の低価格化や景気の影響を理由に売上高は減少が続く。直営店舗の退店や施設のリニューアルを進めている。
高成長を遂げているのはRIZAPとカーブスといった新興ジムである。高価格路線のRIZAPは積極的なTVCMも活用し、急速に業績を伸ばす。また、フィットネスの行動者率が高まっている女性の高年齢層をターゲットにしているカーブスも高い成長が続く。
営業利益率・セグメント利益率も新興企業の利益率が高く、総合型ジム運営者は低位安定、コナミホールディングスの健康事業は赤字の転落もみられる。
基本的に、利益率の変動要因は出店・退店費用や広告宣伝費の影響が大きい。
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高年齢層の利用が各社ともに拡大
各社共通で見られる特徴は、高年齢化が進んでいることである。セントラルスポーツやルネサンスでは、ここ5年の間に50代以上の会員が半数以上を占めるまで上昇している。
成果志向型ジムを運営するRIZAPでも50代以上の会員比率は、2016年1月の13.8%から2017年4月の22.4%まで上昇している。
その中でも高年齢層にターゲットを絞って好調なのがコシダカホールディングスのカーブス事業である。カーブスは、40代以上が2016年8月末時点で95.9%。店舗や会員も増えているが、会員向けの物販売上高が増収要因ともなっている。
統計的に見ても、若年層は男性の行動者率が高いが、50代~60代は女性の方が行動者率が高い。この高齢女性層にターゲットを絞ることで顧客を増やすことが可能となっている。
日本の市場は国の規模と比較すると小さい
以上が国内市場の概況だが、米国と英国を比較対象として、違った視点で考えてみたい。
売上高の規模でみると、日本はアメリカの約6分の1、イギリスの3分の2の規模である。
人口比で考えると、アメリカが約3.2億人、イギリスが約6,500万人であるため、日本の市場規模は人口の約1.2億人に対して非常に小さい。
売上高成長率は、2010年から2015年の年率平均成長率(CAGR)で日本が1.1%、アメリカが5.2%、イギリスが3.3%である。
低いフィットネス普及率
日本の市場規模が小さい最大の要因は、参加率が低いことにある。
参加率とは、人口に対するフィットネス人口の比率である。参加率はアメリカが17.3%、イギリスが13.7%なのに対し、日本は3.3%である。参加率の違いはスポーツ文化の違いも大きく、Fitness Businessによるとスポーツ参加率は日本が約3割なのに対し、アメリカは約6割である。
日本は会員当たり売上高が高い
また、日本は会員当たり売上高が高いことにも特徴がある。
会員あたり売上高は日本が1,041ドルなのに対し、アメリカが469ドル、イギリスが781ドルである。アメリカは緩やかな上昇傾向にあり、イギリスは下落傾向にあるとはいえ、日本は横ばい推移が続いており、その差は大きい。
日本のフィットネス市場は、運動参加率をあげることを条件に市場拡大の余地は残ると思われるが、立地の視点でみると条件がつく。
フィットネスクラブの立地は、基本的に人口の多い地域、移動人口の多い駅のターミナル地をターゲットとしている。特に、総合型ジムの場合は、他社と競合しない立地での運営を行っており、今後の出店余地は限られているとみられる。
一方、総合型ジムとはターゲットが異なるカーブスやRIZAPなどは、小型店舗ということもあり、他社の出店状況に関わらず、自社のターゲットに合わせた出店余地が残っている。RIZAPは2017年3月の130店舗から2018年3月に190店舗まで拡大させる予定である(関連事業を含む)。カーブスは2016年8月期の1,722店舗から2017年8月期まで年間90店舗ペースでの出店計画を立てている。
まとめ
日本のフィットネスクラブ業界は拡大が続き、ジム運営者の多様化も進んでいる。しかし、米英と比べると市場規模はまだ小さく、市場が拡大するためには、参加率をあげていくことが欠かせない。
実際に、高年齢層をターゲットとした会員拡大施策は各社で進んでおり、高年齢層のフィットネス参加率を上げることにも成功している。今後も高年齢層の利用は、介護予防の観点からも拡大が続くとみられる。
また、ターゲットを明確にした料金体系やサービスの充実を実施することも求められる。特に日本では利用者当たりの会員費が高いことが特徴としてあるため、低価格ジムの出現に機会が存在すると思われる。
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株式会社ルネサンス(英称:Renaissance, Inc.)は、東京都に拠点を置くスポーツクラブの運営などを行う会社である。DICの関連会社。 ウィキペディア
時価総額
194 億円
業績

株式会社コシダカホールディングスは、カラオケボックス「カラオケ本舗 まねきねこ」を運営する株式会社コシダカ、フィットネスチェーン「カーブス」を運営する株式会社カーブスジャパンなどを傘下に持つ持株会社である。本社機能は東京都港区に置くが、本店は群馬県前橋市。 ウィキペディア
時価総額
928 億円
業績

RIZAPグループ株式会社(ライザップグループ、英称: RIZAP GROUP, Inc.)は、健康食品やダイエット食品の製造・販売などを行っている傘下子会社を総括する持株会社。 ウィキペディア
時価総額
868 億円
業績

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