携帯電話からネットワーク事業へ
ノキアの携帯電話は完全に消えたわけではない。マイクロソフトは昨年、ノキアの携帯電話事業を中国の電子機器製造企業フォックスコン・テクノロジー・グループの子会社に売却した。
フォックスコンは、フィンランドのHMDグローバル社と提携し、ノキアブランドの携帯電話とタブレットを製造している。グーグルのアンドロイドOSを使った最初の携帯電話は、今年初めに出荷を開始した。
ノキアは電話関連の知的財産も保有しており、かなりの収入源であるとともに摩擦の原因にもなっている。
ノキアは特許についてアップルと何度も争っているが、今年5月に全面的に和解した。今回の和解を受けて、両社は事業提携にも合意。ノキアがアップルにネットワーキングサービスを提供し、アップルは店舗でノキアの製品を販売することになる。
だが、現在のノキアの収益の大半は、無線送信機、スイッチ、サーバー、アンテナ、ソフトウェアといった機器をベライゾン、AT&T、コリアテレコム、ドイツテレコムなど通信サービスのプロバイダに販売する事業から生じている。
ノキアはネットワークを構築し、テストし、有料で運営を請け負う。アルカテル・ルーセントの買収により、現在はケーブル事業者向けのいわゆる固定通信システムも販売している。
また、移動体通信サービス提供者はインフラの一部をつねに入れ替え、更新する必要があるが、ビジネスとして最大のうまみがあるのは、各社が一斉に最新の世代のプラットフォームにアップグレードすることだ。
「世代」とは、すべての機器の通信が確実に行われるように国際的な会議で協議を重ねて決定された一連の技術要件を意味する。
1年以内に結論が出るとみられる5Gの要求条件には、ダウンロード速度や信頼性、特定の領域でサポート可能なデバイス数、レイテンシ(情報が要求されてから受信されるまでの遅延)の著しい改善が含まれるだろう。
ベライゾン、AT&T、およびT-モバイルは、アメリカの一部都市での試験を発表しており、サウスコリアテレコムは2月の冬季オリンピック開催までにシステムの導入を約束した。
5G移行のカギとなる「2つの技術」
全体としては、5Gへの障害は簡単ではないとしても、解決はできるという合意ができている。ノキアの研究開発部長ラウリ・オクサネンによれば、「本当の障害は、アンテナから携帯電話までの間の空気だ」
オクサネンの研究チームは障害を緩和するために、いくつかの相互に関連する技術的修正を行っている。
ひとつの解決策は、高い周波数帯への移動だ。ノキアと競合会社は、マイクロ波と赤外線波の間の帯域で送受信するアンテナを設計している。これは、今使われている携帯電話よりもはるかに高い周波数帯だ。
ただし周波数が高くなればなるほど、波長が短くなり、壁や樹木や人をよけて進むことができなくなる。アンテナ上のプラスチックカバーでさえ信号を妨げかねない。
つまり、サービスプロバイダーは柱や屋根、建物内部など、いたるところにアンテナを設置しなくてはならない。そのためには不動産所有者との交渉が必要になる。
オクサネンのチームにとって解決の決め手は、アンテナをよりスマートで効率のいいものにすることだった。
ノキアが販売するシステムのパフォーマンスは、信号とデータを送るソフトウェアによって決定される。5Gの要件を満たすためには、主にノキアがすでに使用している技術を洗練すればいい。
そのひとつが「マッシブMIMO」。多数の超小型アンテナを配列し、データの送受信がより迅速かつ確実に分配されるようにソフトウェアで調整する技術だ。
もうひとつの重要な技術が「ビームフォーミング」だ。信号をあらゆる方向に放射するのではなく、スポットライトのように特定の場所に向ける。これは異なるアンテナ素子からの送信のタイミングを操作することで可能になる。
「信号をアンテナに供給するとき、それぞれの信号の位相をわずかに変える。そうするとアンテナ間に位相差ができて、無線ビームの方向を変えることができる」と、手でアンテナの群れの形を作りながらオクサネンは言う。「もっと視覚的に説明する方法を考えているが、おそらく、私の言葉を信じてもらうしかない」
5Gは本当に革命か、誇大宣伝か
ノキアとそのライバルたちが約束する高い能力に、消費者が気づくかどうかはわからない。今春、バルセロナで開催された「モバイル・ワールド・コングレス」での主な話題は、5Gは本当に革命か、それともマーケティングの誇大宣伝かどうかということだった。
ノキアのラジーブ・スリ最高経営責任者(CEO)は懐疑論を理解している。 iPhoneやアンドロイドの一般的なユーザーにとって、4Gの遅延時間は十分に低い。
「今日、ネットワーク接続中なら50ミリセカンド(1000分の50秒)だ。それが1ミリセカンドになれば、それはすばらしい。映画を3秒でダウンロードできるかもしれない」と、彼は言う。「それは素敵だろうけど、そのために余計に料金を支払う気にはならない」
5Gの本当の可能性は、それとは別の使い方にあるとスリは主張する。
遅延が1ミリセカンドになると、無人走行車をよりよく制御できる。工場のロボットにケーブルがいらなくなり、組立ラインをより流動的にすることができる。住宅はインターネットと無線でつながり、現在の寡占的なケーブル市場に競争が導入される。遠隔ロボット手術の話さえでてくる。
だが一部のアナリストによると、問題は、仮にこうした夢が現実になったとしても、5Gへの飛躍とノキアが期待している徹底的なネットワークのアップグレードは必要ないということだ。
「トウモロコシ畑に野球場を作るなら、『それを作れば、彼らはやってくる』と言えばいい」と、リサーチ会社ガートナーのビル・レイは言う。「だがワイヤレス関連の企業に数百万ドルを投資してくれと頼む場合は、それじゃ無理だ」
ノキアとその競争相手が話題にしている未来の5Gアプリケーションは、既存のワイヤレスネットワークやWi-Fiのサービスに手を加える形になると彼は言う。
ノキアブランドの電化製品も復活
もちろん過去のワイヤレス世代もそれぞれ、同様の懐疑主義に迎えられた。ノキアの幹部は、ワイヤレスデータの高速化・大容量化に対する需要は増え続けると断言する。ノキアには、それが必要だ。
アルカテル・ルーセントとの合併後でさえ、ノキアはネットワーク機器の販売でファーウェイにリードされており、回線事業者は5Gへの移行を見越して購入を控えているため、近年の業績は低迷している。
ノキアはまた、家庭用電化製品事業への再参入をはかっている。昨年は、ヘルスケア機器を製造するフランスの企業ウィジングズを買収した。ウィジングズの洗練されたフィットネストラッカーや温度計、ベビーモニターなどが、現在はノキアブランドの製品になっている。
また、プロの映画製作のために、オゾ(OZO)という4万ドルのバーチャルリアリティ用カメラの販売を開始した。実体験のような感覚を維持するために超高速データと超低遅延を要求するVRは、平均的なユーザーでも4Gを超える能力が必要になるテクノロジーだ。
ノキアが売り出す新製品のラインアップが増えることで人々がより多くのデータを使い、要求するようになれば、それは5Gのアーキテクトらにとってすばらしいことだ。
またノキアが、普通の人々がまた購入したいと思うような製品を作ることができれば、もっとすばらしい。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Drake Bennet記者、翻訳:栗原紀子、写真:© 2017 Nokia All rights reserved.)
©2017 Bloomberg Businessweek
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.