常勝・鹿島アントラーズに学ぶ「勝ち続ける組織文化」 

2017/7/25
幸運なことに、日本での夏休み中に、「Jリーグワールドチャレンジ2017」が開催され、Jリーグが世界に誇る鹿島アントラーズと、スペインはラ・リーガの強豪セビージャとの試合が行われましたので、7月22日に観戦に行ってきました。
日本サッカーの現在位置を探るうえで、大変勉強になりましたので、下記に今回の学びを記します。

地域に根付くJリーグ

都内から1~2時間程度で車で行けるため、車で行ったのですが、鹿嶋市に近づくに連れて改めて気づきました。周りにはあまり何もなく、地方の都市とも呼べぬような、人口が6万7000人くらいのとても小さな町だということ……。
そこに、突如、素晴らしいサッカー専用スタジアムが出現するわけです。もちろんスタジアムだけではありません。いったん鹿嶋市に入ると、そこかしこにサッカーの息吹が感じられます。
そして、何より感銘を受けたのは、こんなほとんど何もないようなところ(申し訳ありません、鹿嶋市の方には失礼な表現ですが……)に、最多優勝をはじめJリーグにおいて圧倒的な戦績を誇る常勝軍団・鹿島アントラーズが君臨しているということです。
これもひとえに、鹿島アントラーズ関係者による並々ならぬ努力の賜物だとは思いますが、そもそも1993年にJリーグが始まらなければ、鹿島アントラーズは存在すらしなかったかもしれないのです。
7月10日に、「Jリーグのビジネス戦略」というNewsPicksのイベントが開催され、Jリーグの村井満チェアマンと一緒に登壇したのですが、「サッカーが文化として人々の生活に根付き、地域の人々の生活を豊かにすることができれば理想」といったようなことをお話しされていました。
鹿島の例は、まさにその成功例だと思います。
ただサッカーの1試合を見るために、鹿嶋市の人口のおよそ半分にあたる約3万人が茨城県立カシマサッカースタジアムに集まっているのを見て、改めて感銘を受けました。
セビージャ戦に訪れた鹿島サポーターたち
世界のサッカー界が急速な勢いで成長を続けているため、Jリーグも変革を続けていかなくてはいけないのは自明ですが、地域の象徴として深く根付いたクラブを目指してきたJリーグの方向性は間違っていないし、そういう意味では「過去25年のJリーグの歩みは成功だ」と、改めて実感した夜となりました。

Jリーグワールドチャレンジ

今年からJリーグ主導で始められた「Jリーグワールドチャレンジ」ですが、素晴らしい試みだと思います。
日本サッカーのファンにとっては、UEFAヨーロッパリーグ3連覇やUEFAチャンピオンズリーグでも活躍するラ・リーガの強豪セビージャ相手に、鹿島アントラーズが金星をあげたので、素晴らしい結果となりました。
しかし、何よりもうれしかったのは、試合後の監督や選手たちのコメントです(「サッカーダイジェストweb」参照)。金星に浮かれることなく、実際に対戦してわかる欧州サッカー強豪との「差」を肌で感じて、今後の成長に生かそうという姿勢です。
特に、前半はJリーグでは経験できないほど鹿島はボールを回されていましたし(「サッカーダイジェストweb」参照)、鹿島の中盤のダイナモであるブラジル人選手レオ・シルバ以外は、フィジカルを含めてあまり対応できていない感じでした。
セビージャは、夏休み明けでシーズン開幕前の調整中であり、時差ボケもある中、地中海性気候の欧州とは異なる不慣れな日本の高湿度に苦戦して、当然ながら欧州で普段見ているセビージャではなかったですが、それでも選手交代の影響やアジア遠征の疲れが出てくる前の前半は、質の高いサッカーを披露していました。
あのような、Jリーグでは経験できない強い相手との試合を繰り返していかないと、日本サッカーが世界の強豪入りすることはかなわないと思うので、「Jリーグワールドチャレンジ」を続けるのはもちろんのこと、似たような国際試合の機会をもっと増やしていってほしいと思います。

ジーコが鹿島に植え付けたイズム

相手は本調子ではなくあくまでも親善試合にすぎないですし、また前半は「差」を見せつけられたにもかかわらず、最終的には勝利という「結果」を残す鹿島は、やはりすごいと改めて実感しました。
選手やスタッフの方々と話しているとすぐにわかるのですが、とにかく鹿島アントラーズの人たちは、浮ついたところがなくどこかピシッとして芯が通っているのを感じます。
何て言えばいいのかわかりませんが、あえて言うなら、「勝者のメンタリティー」というか「勝ち続けるチームの組織文化」でしょうか。
20年以上にわたる海外生活で、シリコンバレーのIT企業、欧州やアジアのサッカー組織やメディア会社などさまざまな分野で世界に冠たるトップ組織を見てきましたが、どの組織にも共通して、「勝ち続けるチームの組織文化」みたいなものがあります。
結果を出すことに対して妥協を許さないプロたちが集まり、浮ついた心を許さない「緊張感」が組織内に存在して、皆が共通の目標に向かって日々切磋琢磨している組織文化です。
以前読んだアメリカのビジネス書ベストセラーに、「勝ち続ける組織には、勝ち続けるための会社文化や組織文化が必要である」「組織文化は、最初の数週間か数カ月で築き上げられ、いったん根付いてしまうと変革することが容易ではない」というようなことが、書かれていました。
鹿島の場合は、Jリーグが始まる前のまだアマチュアチームだった初期に、先人であるジーコが「プロフェッショナリズム」と「勝者のメンタリティー」をチームにたたき込み、25年以上にわたって「ジーコイズム」という「勝ち続ける組織文化」が脈々と受け継がれてきたのだと思います。
しかし、まさに言うは易く行うは難しであり、人口たかが6万7000人くらいの地方都市に突如創られたJリーグチームが、初期に「勝ち続ける組織文化」を築き上げ、25年以上にわたって常勝軍団として君臨しているのは、とてつもない偉業です。
サッカーのみならずスポーツを通した地域創生を目指す地方都市にとって、大変参考になる成功モデルだと思いますので、NewsPicksでも今後、鹿島の「勝ち続ける組織文化」づくりを取り上げていきたいですね!
(写真:Masashi Hara/Getty Images)