宇宙のニュースを楽しむための豆知識【ピッカー懇親会リポート前編】

2017/7/16
NewsPicksコミュニティ・チームは6月25日(日)、ピッカー懇親会を米国ロサンゼルスで開催しました。当日は、NASAのジェット推進研究所でシステムズエンジニアとしてご活躍中のピッカー、石松拓人さんが「NewsPicks×宇宙」と題した講演を行いました。
その模様を2回に渡ってレポートします。

福岡から東京、そして米国へ

初めまして、石松拓人ともうします。
この講演のタイトルは「NewsPicks×宇宙」です。
(コミュニティ・チームの)小野さんから「NewsPicksで宇宙関連のニュースを読むときに、知っておくと理解が深まる豆知識を話してほしい」というお題をいただきました。
まずは簡単に自己紹介させていただきます。
石松拓人(いしまつ たくと)
米国航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所システムズエンジニア。東京大学非常勤講師。福岡県福岡市生まれ。東京大学航空宇宙工学専攻修士課程を修了後、マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科に留学。同学科博士課程を修了したのち、博士研究員を経て、2016年夏より現職。趣味はギター、将棋(四段)。
福岡県福岡市で育ち、地元の県立高校を卒業しました。
偶然なのですが、本日、同じ母校の先輩が参加くださっていまして、お会いできて嬉しいです(笑)。
高校卒業後に上京し、東京大学工学部の航空宇宙工学科に進みました。そこで修士課程を修了して、2006年からは米国ボストンにあります、MIT(マサチューセッツ工科大学)の航空宇宙工学科で修士と博士課程、そしてシステム工学科で博士研究員を3年ほどやりました。
そうして2016年、私はNewsPicksのピッカーになりました。(会場笑)
ついでとなりますが、2016年には、グリーンカードを無事に取得できまして、NASAのジェット推進研究所のシステムズエンジニアとして就職しました。
福岡から東京、ボストン、そしてロサンゼルス。
自分としては、かなりの大移動をしてきたつもりですが、この図をご覧いただくと分かるように、太陽系の規模で考えると、こんなに小さな話なんですね。
Image Credit: Roberto Ziche/NASA
こちらの図は、太陽系の惑星を、実際の大きさの比率で描いたものです。
水星、金星、地球、火星。ここまでを内惑星と呼びます。太陽から比較的近い、といっても、たとえば地球で1億5000万キロメートルも太陽から離れているんですね。
そして、地球のひとつ外側の軌道を回っているお隣さん、それが火星です。
今の人類、少なくともNASAが、最もフォーカスしている惑星です。

着陸するロケット

それでは、本題に入りましょう。
NewsPicksで宇宙関連のニュースを読むときに、知っておくとさらに理解が深まるような豆知識を、現在起きている「宇宙をめぐる競争」をご紹介しながらお話していきます。
ひとつ目にお話するのは、ロケット開発競争についてです。
一見、ロケットを打ち上げているように見えるこの写真、実は、着陸の様子をとらえたものなんです。
この「着陸するロケット」を開発しているのが、ロサンゼルスに本拠地を置く、SpaceXです。民間企業として初めて、宇宙に物資を輸送することに成功しました。
SpaceXのCEOは、言わずとしれたイーロン・マスク。テスラのCEOでもあります。NewsPicksでは彼を紹介する記事がよくピックされていますから、皆さんには馴染みのある会社ではないでしょうか。
SpaceXを特徴づけるのが、打ち上げたロケットが地上に戻ってきて、ちゃんと着陸できるところです。これはNASAもやったことがありません。
2015年に成功させてから、今も改良を重ねていて、ものすごい数の注文が殺到していると聞いています。
なぜこの着陸するロケットに注目が集まっているのかというと、戻ってきたロケットを再利用できるからなんですね。
宇宙開発の世界で“地球の低軌道”と呼ぶ、高度300〜400キロメートルあたりにロケットを打ち上げる場合、現状では1キログラムあたり100万円ほどかかる、といわれています。
「宇宙に物資を運ぶためにかかるこのコストを、ロケットを再利用することによって抑えられないか」。そんな発想でロケット開発をしているのがSpaceXです。
ニュースを読むときに注目いただきたいポイントのひとつが、「民間企業がロケット開発に参入することで、打ち上げコストをどれだけ下げられるか」ということです。

競争に参入する起業家たち

民間企業でロケット開発に注力しているのは、SpaceX以外にも多数あります。代表的な企業をご紹介します。
Image Credit: SpaceX
アマゾンCEOであるジェフ・ベゾスが率いる宇宙開発企業。ニューグレンやニューアームストロングという名の、再利用型のロケットを開発中。
ロッキード・マーティン社とボーイング社の合弁会社。アトラスVやデルタⅣといった伝統的な「使い捨てロケット」を開発、NASAや空軍などからも受注している。
NASAからの委託を受けて、国際宇宙ステーションへの物資輸送を担う。一時期までSpaceXと競り合っていたが、打ち上げの失敗などを経て、やや失速気味。
ヴァージン・レコードの創業者であるリチャード・ブランソン会長が設立。垂直に打ち上げるのではなく、飛行機に吊り下げられて水平離陸し、一定の高度に達すると空中発射でローンチする、小型人工衛星向けのロケットを製造している。
ロサンゼルスに拠点を置く宇宙開発ベンチャー。超小型人工衛星向けに低費用なロケットの開発を手がける。
SpaceXの立ち上げに関わったメンバーが設立。超小型衛星向けのロケットを手がけている。昨年設立されて、2017年5月にサブオービタル(弾道飛行)のテストフライトに成功しており、開発の速さを感じさせる。
ここまでは、アメリカの企業に絞ってお話ししました。日本の企業も2社ご紹介しておきます。
堀江貴文さんが設立。小型衛星用のロケットを北海道大樹町で開発している。サブオービタルのテストフライトが終わっていないので、やや予定が遅れている印象。
(編集部注:2017年7月末にテスト予定との報道あり
航空機のような形状の完全再使用型宇宙往還機を開発する、名古屋発の企業。ジェットエンジンを用いて水平離陸し、途中からロケットエンジンに切り替えを行うため、技術的に難易度の高い打ち上げ手法に挑戦中。
以上が、ロケット開発に注力している日米の代表的な民間企業です。
ちなみに、NASAではSLS(Space Launch System)という超大型ロケットを開発中です。これはアポロ計画やスペースシャトルの技術を受け継いだもので、月や火星に物資を運ぶことを想定したロケットです。
ただ、NASA内でも「ロケット開発は民間でもできるのだから、NASAがやらなくてもいいのではないか」という批判の声もあるんですね。
一方で、NASAがSLS開発を続ける背景には、雇用を守るという側面もあります。
というのも、このプロジェクトには、アポロやスペースシャトルから受け継いだロケット開発の技術や施設や技術者たちが関わっているからで、これを中止にすると彼らにやってもらう仕事がなくなってしまいます。
そんな雇用問題もあるのだと頭の片隅に置きながら、この開発競争のゆくえを見守ってみてください。

再利用VS使い捨て

民間企業も参入して、競争が繰り広げられるロケット開発分野で、もうひとつ、注目したいのが「再利用と使い捨て、どちらがよいか?」という議論です。
先ほどご紹介した、SpaceX、Blue Originは、「打ち上げコストを下げるためにロケットを再利用しよう」という理念で開発を進めています。
堀江貴文さんはどうやら「使い捨て・量産のほうがコストダウンできる」というスタンスのようですね。
どちらのほうが理に叶っているか。
ビジネスですので、コストの観点での結論は、早晩出るのではないかと思います。
とはいっても、一方が勝って、もう一方が廃れてなくなるのではなく、用途によって使い分ける時代が来るのではないか、と思います。
たとえば、超小型衛星の打ち上げには使い捨てロケット、大きな物を運ぶ大型ロケットの場合は再利用、といった共存があり得るでしょう。
ロケット開発のニュースを読むときには、それが使い捨て型か再利用型か、という点にも注目してみてください。

衛星インターネット競争

ロケット開発技術を応用した分野でも、競争が起き始めています。
そのひとつが、衛星インターネットの分野です。
Image Credit: Airbus D&S/OneWeb
衛星インターネットとは、高度1200キロメートルに膨大な数の人工衛星を打ち上げ、地球を覆うように配置することで、全世界どこからでもインターネットに接続できるようにするものです。
この衛星網が確立されれば、先進国だけでなく、インフラが整っていない途上国からでもインターネットにアクセスできるようになり、情報格差の問題を解消できると期待されています。
このレースで注目すべき点は、2つあります。

技術開発と資金援助

ひとつは、この開発競争に参戦している顔ぶれです。
宇宙開発とITの、名だたる人たちが参戦する、象徴的な競争になろうとしています。SpaceX、OneWebと、ボーイング社です。
SpaceXは先ほどもご紹介したとおり、自社でロケット開発から人工衛星の打ち上げまでをやろうとしています。
それに対してOneWebは、高性能な小型の人工衛星の開発に注力する一方、打ち上げに関してはSpaceXのライバル会社であり、ジェフ・ベゾスが率いるBlue Originのニューグレンロケットに委託予定です。
技術面の競争に加えて、資金面での競争もあります。
SpaceXを資金面から援助しているのは、Googleです。
OneWebに対しては、ヴァージン・グループのリチャード・ブランソンに加えて、ソフトバンクの孫正義さんが2016年12月に10億ドルを出資すると発表したことが話題になりました。
どちらも2020年頃に打ち上げを計画していますので、しばらくはやり合いが続きそうです。

宇宙のゴミ問題

衛星インターネットは、ビジネスと人類の発展という側面から見ると良いところばかりなのですが、宇宙でも環境問題が起こり始めていることも、知っておいていただきたい点です。
宇宙に浮かぶゴミのことを「デブリ」と呼んでいます。
デブリは、これまでに人類が打ち上げたロケットの部品や破片、使わなくなった人工衛星、これらが衝突して粉々になったものなどで、地球のまわりを高速で回っています。
そんなところに、この衛星インターネットの衛星網が加わるわけです。
OneWebは約700機もの小型衛星を打ち上げると発表していますが、SpaceXはなんと1万2000機。
もしも競合する3社が、計画どおりに衛星を打ち上げると、高度1200キロメートル地帯はものすごく混雑することになります。
衛星インターネットが実現する頃には、宇宙デブリ問題も合わせて解決が必要になるでしょう。
そして、この分野にもビジネスチャンスがあるのではないかと、目を付けている企業があります。日本の宇宙ベンチャー企業のアストロスケールが、宇宙ゴミを除去するための技術開発を進めています。
とかく宇宙産業のニュースに目を向けがちですが、その影で、こうした環境問題が深刻化していることも、知っておくと理解が深まると思います。(後編につづく)
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