SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回はオンライン予約が趨勢となっている旅行業界において、従来型の旅行代理店の現状と未来を考える。

旅行のオンライン販売率は上昇の一途

かつて旅行の予約といえば旅行代理店の店舗で行うことが一般的であったが、Expediaや価格比較サイトなどが充実し、現在ではほとんどのユーザーに旅行サイトの利用経験があるのではないだろうか。
実際、宿泊や旅行にかかる輸送機関などのオンライン比率は年々上昇し、2015年は約40%に達した。これは募集型企画旅行と呼ばれるいわゆるパッケージツアーが考慮されていない値であるが、旅行手配においてインターネットによる予約は広く普及していることがわかる。
主要旅行業者の取扱額をみると、近年は横ばいで推移しているため、従来型の店舗での取扱いは減少していることになる。
ここで、一度旅行市場について内訳をみておきたい。
旅行消費額では、個人による国内旅行が過半数を占め、次いでパック・団体による国内旅行、出張・業務による国内旅行が大きい。つまり、ボリュームゾーンは個人の国内旅行である。
個人による国内旅行は市場の大きさに加えてオンライン販売との親和性が高く、オンライン販売が伸びたこともうなずける。

取扱額では未だJTB1強

これだけオンライン販売が拡大する中で、従来型の旅行代理店と店舗を持たない旅行サイトはどのような立ち位置にあるだろうか。
楽天の成長には目を見張るものがあるが、意外にも従来型の旅行代理店も健闘している。何より取扱高ではJTB1強の状況は変わっておらず、2~5位の企業群の約3倍もの規模を持つ。売上高も2016年度は減収となったが、2015年度までは増加傾向で推移していた。


ではJTBの何がそれほど強いのだろうか。JTBの事業を細かくみてみよう。

JTBは法人事業で稼ぐ

JTBの部門別取扱高をみると、国内旅行が最も多い。市場規模と比較して考えると海外旅行部門の比率が高いが、粗利率でいえば国内事業と海外事業はほぼ同じ水準である。

では個人向けと法人向けでみるとどうか。
法人向けというとあまりイメージできない人もいるかもしれないが、出張等の手配、団体旅行のほか、JTBでは、コンベンションや展示会などのサポート・コーディネイトなどを展開している。
売上高では個人向けが過半数、法人向けは3割程度と、法人向けがやや多いものの、市場全体とそれほど乖離はない。しかし、営業利益では法人向けが6割以上と、利益では法人向け事業が柱となっている。営業利益率は0.7%と、取扱高を母数としているにしても低い。個人向け市場はボリュームゾーンだが、相当な薄利多売のビジネスといえそうだ。

KNTでも個人向け事業は低利益率

KNTもJTBと概ね同じ構図である。個人向けが売上高では過半数を占めるが、利益率が高いのは法人向けだ。
市場全体と比較すると企画旅行(パッケージツアー)の割合が高いのは、旅行代理店の強みであると同時に収益確保の面もあるだろう。しかしそれでも個人向け事業の利益率は低い。

HISはハウステンボスが稼ぎ頭

HISは代理店としては後発という立ち位置上、海外旅行に特化し、その中でも個人向けが売上の8割を占める。チャネル構成比をみると国内296店舗を構えるだけあって店舗の比率が高いが、コスト負担も重く利益率は高くない。
収益性という点では2010年に買収したハウステンボスやオーストラリアなどに保有するホテル事業、運輸(国際チャーター)事業が目立つ。自ら固定資産を持ち運営する姿勢は、大手代理店の中では珍しいが、地震の影響が出る以前の2014年度までは最大の増益要因となっていた。

将来的な懸念

以上のように、大手代理店ではいずれも個人向けの旅行手配以外を利益の柱としている。市場は大幅な成長とまではいえないが比較的堅調に推移しており、訪日客の増加など今後の拡大可能性もある。
一見安定した収益基盤を持つようにみえるが、今後を考えると課題は多い。
売上の大部分を占める個人向け事業は、付加価値要素が低いだけでなく、実店舗などかなりのコストを要する事業でもある。旅行代理店の営業利益率は大手の平均で2%台前半、個人向け事業では1%前後が一般的だ。薄利多売の代名詞であるスーパーなどよりも低いことを考えると、やはり改善が必要だろう。
また、今大手代理店が強みとするパッケージツアーも、需要減少の可能性がある。

高齢者はいつまで「優良顧客」か

代理店需要の減少が懸念される要因の一つに、利用者の年齢層の問題がある。
添乗員がつくようなフルサービス型のパッケージツアーは、現状高齢者による利用が多い。海外旅行におけるパッケージツアーの利用率をみると、60代以上では40%近いが、50代以下では20%前後である。
消費額の点でも高齢者は重要だ。一人当たりの旅行単価でも年齢が上がるほど増加する傾向にあり、現在の「資金も時間もある元気な高齢者」層は、大手代理店にとって優良顧客といえる。

しかし、今の高齢者は高額なパッケージツアーを多用していても、今後はわからない。パッケージツアーの利用率やネットショッピングの利用率をみると、50代以下の世代はネットを駆使して自分で手配できると見られる。
また、これからの高齢者はリタイアしても資金的に余裕のある層は減少するかもしれない。
高齢者においてもオンラインによる個人手配が増え、低価格志向になれば店舗やサービス水準を強みとする大手代理店は苦しい状況となるだろう。
旅行業の未来を考える上で、世界の旅行代理店の状況をみてみたい。

世界ではオンライン系をトップに代理店も

旅行事業者で現在最大の企業はPriceline.comやExpediaなどのオンライン取引事業者がトップを走る。しかし、旅行代理店も依然として一定の勢力を保っている。

法人事業特化型や資産保有型が存在感

上位の旅行代理店企業からいくつか企業をみてみよう。
BCD Travelを含むBCGグループをみると年々売上が拡大している(2015年の微減はドル高による)。売上の9割はビジネス向けと完全にビジネス特化である。こうしたビジネストラベル事業者の場合、グローバル企業との一括契約を獲得すれば、安定的かつ比較的大きな収入が見込める。
また欧州の大手代理店であるTUIグループやThomas Cookは自前の航空路線やホテル、クルーズなどを保有・運営し、旅行代理店ではなく固定資産を持つ旅行サービス提供者として事業を展開している。リスクを持つことで利益を確保する戦略だが、TUIグループのホテル稼働率は78%、クルーズでは103%と高稼働を誇る。こうした運営ノウハウは容易には真似できない、独自の強みだ。
JTBは中期経営計画のテーマの一つに「仕入れ改革」を挙げているが、自社でホテルを持てば仕入れ枠の問題も緩和される。こうしたサービス事業者を傘下に持つ方式は旅行代理店の一つの類型といえるだろう。

こうした世界的大手の戦略は、日本でも代理店の方向性の一つとして考えられるだろう。HISは既にテーマパークを保有しているが、さらに「変なホテル」を2021年に100軒体制にすると掲げており、明らかに資産保有型の道を進んでいる。

個人向け事業の大部分はオンラインに吸収される

現在はオンラインと並列で店舗による手配が実施されているが、近い将来、旅行需要のボリュームゾーンである個人向け事業の大部分はオンラインに吸収されるだろう。
店頭でのきめ細かいサービスは、人件費や店舗にかかる費用など本来かなりの手数料を取らないと割りに合わないものであり、このまま進んでも利益なき多忙と無意味な価格競争に陥りかねない。システム化されたサービスで効率的に捌くのが妥当な手法と思われる。
では、店頭でのサービスは対象外となり、パッケージツアーを好まない顧客が大半になったとき、代理店の強みはどこになるのか。旅行代理店も既存の旅行サイトと同じような単なる予約システムに特化するのだろうか。

トレンドの体験型旅行もネット系サービスと競合

一つの方策として体験型ツアーの発掘と取り込みがある。
2000年代後半から、ニューツーリーズムと呼ばれる体験型・交流型の観光の推進が必要といわれていたが、最近体験型を打ち出すツアーが散見される。最終的には、各個人の好みにあったプログラムを自由に組み合わせて利用する形になるだろう。
こうしたローカルツアーの魅力を発掘し、ユーザーに届けることはExpediaではできないため、旅行代理店の強みとなりうる。
しかし、ここにも懸念材料がある。Airbnbなど投稿型プラットフォームの存在だ。
Airbnbは2016年からローカル体験、ガイドブック機能などを果たす「Trips」を開始した。現在のところ東京と大阪のみが対象だが、体験型旅行がローカルのサービス提供者に依存する以上、こうしたプラットフォームを活用した代理店の中抜きが進んでもおかしくはない。

早期の構造転換が必要

現状だけをみれば、大手代理店はまだ一定の勢力を保持しており、店舗に行けば気配りのきいた手配を望む顧客で賑わっている。しかし、オンライン化と脱パッケージツアーが進めば、状況は大きく変わる。
やや極端かもしれないが、BCDグループのように法人に特化するか、TUIグループのように資産を保有してバリューチェーンを拡大するか、いずれにしても現在の事業構造を大きく変える必要があるだろう。
もちろんビジネストラベルは既に大手がシェアを持っていたり、ホテルやテーマパークなど資産を持てば災害などによる影響を大きく受ける可能性もあるが、利益を上げるにはリスクをとる必要がある。
国内・海外ともに旅行需要はまだ堅調であり、訪日旅行も増加している今だからこそ、攻めの革新を期待したい。