「iPhoneの終わり」を準備しているアップル

ティム・クック氏

Andrew Burton/GettyImages

iPhoneは、史上最も成功した製品と言えるだろう。販売台数は10億台を超え、アップルを時価総額世界一の企業にした。

しかし、アップルも安泰ではない。10年前にiPhoneが、iPodや他のコンピューターに取って代わったように、新たな製品がiPhoneの座を奪いとる可能性が出てきている。

スマートフォンは、現在のコンピューティング・プラットフォームの主流だ。しかし、マイクロソフト、グーグル、フェイスブックはすでに、コンピューターグラフィックスを現実世界と組み合わせるAR(拡張現実)への積極的な投資を始めている。今やアップルもそうした動きに加わっている。

AR技術は、いずれ軽くて、携帯可能なスマートグラス製品を生み出し、iPhoneも含めて、現在、私たちが使っているすべてのディスプレイに取って代わると考えられているからだ。

アップルも、他のテック企業と見解を同じくしている。つまり、スマートフォン市場は、もはや数年前までのような成長の原動力ではなく、それに代わる何かが必要だということだ。

アップルのCEOティム・クック氏は、ARについて積極的に発言している。「ARにワクワクしている。大声で叫びたいくらいだ」と、クック氏はブルームバーグとのインタビューで答えている。 

クック氏がAR関連の新製品の可能性に触れるのは、これが初めてではない。

「ARの普及にはまだしばらく時間がかかる。いくつか非常に大きな技術的課題が残っているからだ。しかし、必ず普及する。それも大規模な形で。そうなった時、もはやARのない生活など考えられなくなるだろう。ちょうど今、スマートフォンのない生活が考えられないように」と昨年、クック氏は述べている

秘密のプロジェクト

アップルのARのイメージ

ARKitを使って裏庭に「マインクラフト」の世界を出現させた。

YouTube/MatthewHallberg

アップルはスマートグラス製品を開発していると認めていない。だが、同社がスマートグラス製品を研究していることは以前から報じられている

アップルはもともと、具体的な製品計画を明らかにしない企業だ。しかし主に2つの観点から推測できる。買収とソフトウェアのリリースだ。

アップルは6月、iPhone向けARアプリの開発を支援するソフトウェア「ARKit」を発表した。

ARKitはすでにいくつかの驚くべき成果を生んでいる。だがアップル自身は、同ソフトウェアを使って自社開発したアプリをそれほど公開していない。iPhone 8が登場すると期待されている今秋に、まとまった数のiPhone向けARアプリを発表するつもりなのだろう。

すなわち、今後、もしアップルグラス製品が登場した時、その頃にはすでにクリエイティブで、洗練されたARアプリが豊富に揃っているというわけだ。

アップルのARに対する取り組みが本格化したのは、2015年、ドイツのAR企業メタイオ(Metaio)を買収してからだ。買収額は数億ドルと関係者は述べている。メタイオの技術と人材がARKitの基盤となった。またメタイオの元従業員の何人かが、アップルのカメラグループの「特別プロジェクト」で仕事をしている。

その後もアップルは、AR関連技術を手がける企業を複数買収している。先日もドイツのセンソモトリック・インスツルメンツ(SensoMotoric Instruments)を買収したことが明らかになった。同社は、AR系スタートアップが有望視している視線追跡技術を使ったスマートグラスを開発している。

センソモトリックの買収は、業界ウォッチャーを驚かせた。同社はこれまで知名度が低く、AR業界の調査などでも名前があがることが少なかったからだ。

しかし、センソモトリックはメタイオと同じドイツの企業だ。ドイツ出身でメタイオのCEOだったトーマス・アルト(Thomas Alt)氏は現在、自身のLinkedInのプロフィールに、アップルの戦略的買収チームの調達ディレクターを務めていると記している。

アップルは、さらなるAR企業の買収を考えているようだ。6月にカリフォルニアで開催されたAugmented World Expo(AWE)の会場では、メタイオ出身者を含むアップル社員の姿が見られたと、同イベントの出席者3人がBusiness Insiderに語った。AWEはAR業界最大級のイベントで、マイクロソフト、フェイスブック、グーグルなど、同分野の大手企業のほとんどが参加している。

しかし今回、アップルは参加企業のリストに名を連ねておらず、会場にいた同社社員は、アップル社員であることをIDカードに明記していなかったと出席者は述べている。この件について、アップルにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

まず自社製品と競合せよ

ポケモンGO

ARを使ったポケモンGO

shutterstock

アップルは、自社製品との競合を気にしない。元社員が先日明らかにしたところによると、アップルがiPhoneの開発に着手したのは、iPodに取って代わる製品を求めていたから。iPodは2005年当時、アップルのドル箱製品だった。

今後数年のうちに、また新たなプラットフォームの交代が起こる可能性がある。今回影響を受けるのは、かつてのiPodをはるかにしのぐメジャー製品となったiPhoneだろう。

こうした見方は、すでにアナリストの予測にも現れ始めている。

ベテランのアップル・アナリスト、ループ・ベンチャーズ(Loup Ventures)のジーン・マンスター(Gene Munster)氏は先頃、アップルに関する予測モデルを発表し、今後10年間でiPhoneの売り上げは鈍化し始めるとの見方を示した。

同氏は、iPhoneの売り上げは、徐々に同氏が「アップル・グラス」と呼ぶ製品に取って代わられると考えている。同氏はアップル・グラスは、2020年に1300ドルで発売されると予測している。

「アップルは『心臓移植』を行うだろう。同社は以前にも行った。今後また新たな心臓移植を計画していると私は考えている。それがどれくらいの規模になるかは、アップル・グラスが最終的にどのような製品になるか次第だ」とマンスター氏は語った。

「一般に予想されているより時間はかかるだろうが、iPhoneに取って代わることは間違いない」

調査会社IDCの予測によると、スマートフォン市場の成長率は、2021年まで年3%に留まる。アップルがこの10年間乗ってきた巨大な波はその頂点に達し、今や崩れ去ろうとしている。

しかし、新たに出現した分野が巨大な成長の可能性を見せている。ARおよびVR(仮想現実)ヘッドセットだ。2020年までの成長率は198%に達するとIDGは予測している

問題は、アップルがiPhoneの売り上げを犠牲にしてまで、次の大きな波に乗るつもりがあるかどうかだ。

ARKitを使った素晴らしいデモ動画をいくつか紹介しよう。


トーマス・ガルシア(Tomas Garcia)氏によるデモ。床に映る影もすごい。


ガルシア氏は、スペースXのロケットが裏庭のプールに着水するデモ動画も制作している。

ガルシア氏のツイッターはこちら

ARkitは新たな世界への扉を開いてくれる。

足元に注意→次元を行き来するiPhoneの扉は、案外近くに開いているかも。

Neddによるデモ。

マインクラフトが現実世界に!

マシュー・ホールバーグ(Matthew Hallberg)氏によるデモ。 

この巻き尺アプリも人気を呼びそうだ。

Laan Labsが制作したデモ。

[原文:Apple is preparing for the death of the iPhone

(翻訳:高橋朋子/ガリレオ)

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