1年で需要の高いスキルを徹底的に身につける

アダム・ブラウン(33)は最近、最高に楽しい仕事をした。サンフランシスコに立ち上げた学校「ミッションU」の入学許可者全員に、電話で吉報を伝えたのだ。
「合格だ!」
そんなことができるのは、9月に開校するミッションUの一期生が、わずか25人だから。出願者4700人から厳選されたグループ(ミッションUでは「コホート」と呼んでいる)だ。
「合格率は1%未満。ハーバードだって5%程度だ」とブラウンは笑う。だが、いつまでも少数精鋭にしているつもりはない。学生数は2020年までに数千人に増やし、最終的には数万人規模にしたい考えだ。
ミッションUは19〜29歳をターゲットとする1年制の非認定校。データ分析やビジネスインテリジェンスなど、企業で需要の高い科目とともに、コラボレーションやクリティカルシンキング(批判的思考)といったビジネススキルを教える予定だ。
伝統的な大学に代わる営利教育機関を立ち上げるスタートアップは少なくないが、ミッションUは独特のシステムをとる。
まず、卒業前に学費を払う必要はない。そのかわり卒業後、年俸5万ドル以上の仕事に就いたら、その年俸の15%を3年間収める。「平均的な大学生は、21年かけて学費ローンを返済する」と、ブラウンは言う。「ミッションUなら3年だけだ」

リフトやスポティファイとも提携

また、ミッションUはテクノロジー企業数社と提携している。
スタッフはワービーパーカー(メガネ販売)、リフト(配車アプリ)、バーチボックス(化粧品サンプル)、スポティファイ(定額制音楽配信)、キャスパー(ベッドマットレス)、ハリーズ(ひげそり)、ボノボス(男性服)などの採用担当者と定期的にミーティングを持ち、その意見がカリキュラムに影響を与える。
パートナー企業の人材ニーズに基づき、ミッションUは専攻科目を設定し、教員を雇い、授業を計画する。パートナー企業はケーススタディーの作成に協力し、ゲストスピーカーやメンターも派遣する。そのかわり、これらの企業は卒業生を優先的に雇用できる。
こうした企業と教育機関のコラボレーションは「決定的に重要なのに、米国には欠けている」と、ハーバード大学学習政策研究所のトニー・ワグナー上級研究員は言う。
「企業の採用担当者の間では『学位に何の意味がある? そんなものはその分野で熟練している証拠にはならない。教室に座っていた時間の証書に過ぎない』という見方が広まっている」
ミッションUは「大人の成功に必要不可欠な」スキルを教えると、ミッションUの顧問を務めるワグナーは語る。

大学を中退しても残る学費ローン

ブラウンは早熟な少年だった。中学に上がる時までに、将来の仕事を決め(投資銀行)、人生の目標を定めた(億万長者)。16歳の夏休みにはヘッジファンドでアルバイトをした。
そんな彼が「世界を変える」ことに目覚めたのは、大学2年生のとき。「セメスター・アット・シー」(米国版ピースボート)で4つの大陸を旅して、貧困を目の当たりにしたのがきっかけだった。
貧困と戦う最高の武器は教育だ──そう考えたブラウンは、2008年に非営利団体「ペンシル・オブ・プロミス」を設立。これまでに途上国に400以上の学校を建設してきた。
ところが全米の大学でその話をするうちに、多くの学生が自分の受けている教育に疑問を抱いていることを知った。「多くの学生が『教室で学んでいることが、現実世界で夢の仕事を得るために必要な能力と結びついていない気がする』って言うんだ」
もうひとつよく耳にしたのは「『いつ返済が終わるかもわからない莫大な負債を負っている』という不安」だった。
ブラウンを動かした出来事はもう一つあった。2015年に婚約したテヒラ・ボスレビッツが、金銭的な理由から大学を中退していたのだ。「彼女は学士号さえ取れなかったのに、10万ドル以上の学費ローンを抱えていた」と、ブラウンは語る。「そのせいで彼女は多くの自由を奪われていた」
ニューヨーク連銀によると、米国の学費ローン残高は1兆3000億ドルを超える。さらにブラウンは、学費ローンは破産法適用申請をしても免除されないこと、伝統的な大学に入学した学生で、4年で卒業できる学生は19%しかいないこと(非営利研究/権利容疑機関コンプリート・カレッジ・アメリカによる)も知った。

仕事への最短ルート求める若者対象

ブラウンはミッションUを「最小限のコストで良質な仕事に就くための最短ルートを探している19〜29歳」の若者のための、代替的教育機関と位置付けた。
似たような教育機関はほかにもあるが、いずれも学費がかかる。最もよく知られるフラットロン・スクール(15週間コースで就職率は98.5%)も、1万5000ドルの学費がかかる。コードアカデミー(CodeAcademy)など無料のオンラインコースは、修了しても高賃金の仕事と直結しない。
ブラウンはそこにビジネスチャンスを見出した。そこでペンシル・フォー・プロミスを新しいCEOに任せると、ファーストラウンド・キャピタルなどから300万ドルのシードマネーを調達した。
ブラウンはペンシル・フォー・プロミスで、いま最も勢いがあるスタートアップの多くと手を組んできた。これらの企業と、チャリティー目的のプロモーション活動を展開したこともある。
そしてニール・ブルメンタール(ウォービー・パーカー共同CEO)や、ヘイリー・バーナ(バーチボックス共同CEO)ら起業家たちと個人的にも親しくなった。
ミッションUの構想は、有能なスタッフが常に不足している成長企業のリーダーたちの支持を得た。
「ぼくら共同創業者は、いまだに仕事時間の25%を面接などの採用活動に費やしている」と、キャスパーのニール・パリクCOO(最高執行責任者)は語る。「優秀な人材を採用するチャンスが優先的に与えられるなら、どんな企画でも真っ先に関わりたい」
「4年制大学の学位が必ずしもいらない技術職はたくさんある」と、パリクは言う。「精神的に大人で専門的なスキルのある人なら大歓迎だし、会社にとって貴重な財産になる。だからミッションUは、大成功する可能性がある」

課程の大部分はバーチャル授業

ミッションUの一期生に応募した4500人のうち、学士号保有者は17%。それ以外は「さまざまな大学経験」の持ち主で、卒業まで学費が払えないか、大学に通い続けることに意味を見出せずにいると、ブラウンは語る。
ミッションUの出願プロセスは、オンラインで試験、面接、エッセー、そしてグループ課題(プレゼンテーションとその自己評価とピア評価)からなる。
晴れて合格した生徒は、3分野からなる課程を受講する。
第一分野では、プロジェクトマネジメント、ビジネスライティング、チームワークなど、ビジネスの基本的なスキルを学ぶ。第二分野は、専攻科目の突っ込んだ学習だ。講師は、現在または最近その業界で仕事をしていた実務家だ。
パートナー企業からのフィードバックに基づき、一期生はデータ分析が専攻科目となる。この科目は「資格以上に適性が重要になる」とブラウンは言う。第一分野と第二分野は、基本的にライブのバーチャル授業となる。
第三分野は、企業でのインターンだ。学生たちはグループにわかれて、主に人手の足りない小企業や非営利団体で仕事をする。パートナー企業がインターンを受け入れる場合もある。
インターン業務の大部分もバーチャルで行われる。ただし学生は、年間を通じてパートナー企業のキャンパスを訪れたり、共同ワークペースでクラスメートと会ったりして作業をする。そのため学生たちは、半径80キロ以内に住んでいる必要がある。

多様性をもたらす卒業生輩出へ

ミッションUは今後、運営地域や専攻、入学時期を増やして、事業を拡大する計画だ。一期生25人の授業はこの9月に始まるが、来年1月には二期生、5月には三期生を受け入れる。人数も増やしていく考えだ。
ブラウンはまた、テクノロジー分野で現在極めて重要と考えられているもの、すなわち多様性をもたらす卒業生をミッションUから輩出したいと考えている。
そして事前の学費支払いを不要とすることで、伝統的な大学には少ない社会経済的なグループからの入学希望者が増えることを期待する。
「金銭的な理由からチャンスが絶たれてしまった人、あるいはいろいろな仕事を経験したけれど、キャリアにはなっていない人は大勢いる」と、ブラウンは言う。
「そういう人たちも優秀でモチベーションがある。ミッションUは、彼らが高賃金でハッピーな仕事を得る助けになるはずだ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Katlin Smith/Editor-at-large, Inc. magazine、翻訳:藤原朝子、写真:BrianAJackson/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.