『サイエンティフィック・アメリカン』誌がスポットを当てた、近々急成長する可能性を秘めた5つの有望分野を紹介する。

世界を変えるソリューション

わたしたちの未来はどんなものになるのだろうか。その一端を垣間見てみよう。
『サイエンティフィック・アメリカン』誌は6月26日付で、「従来の価値基準を打ち砕き、世界を変えようとしているソリューション」と同誌が呼ぶ、新しいテクノロジーに関する年次レポートを公開した。
このリストに載るための要件は、投資を呼び込みつつあるか、あるいはブレークスルーが間近に迫った兆候が見られ、なおかつ、まだ広く採用されるには至っていないテクノロジーであることだ。
リストに登場する最先端のテクノロジーの一部と、それらを手がけている各社について紹介しよう。

1. 患者への負担が少ない生体検査

がんの生体検査(バイオプシー)では、がん細胞の存在が疑われる組織を採取しなければならず、作業が難しいうえに患者に苦痛を与える可能性がある。また、結果の分析にも時間がかかりがちだ。そして、時には腫瘍に到達さえできない場合もある。
血液などの体液を使って検査を行うリキッドバイオプシー(液体生検)は、こうした問題のすべてに対する解決方法になりうる。
この技術では、腫瘍から血中に漏れ出した、がん由来の遺伝子物質「血中循環腫瘍DNA(ctDNA)」を分析することで、がんの存在を検出でき、治療に向けた医師の判断にも役立てることができる。
さらには、従来の生体検査の限界を超えて、遺伝子変異を特定し、より強力な治療が必要かどうかを示してくれる可能性もあるという。
2017年に入ってライフサイエンス企業イルミナ(Illumina)からスピンアウトしたグレイル(Grail)は、ジェフ・ベゾスやビル・ゲイツを含む投資家たちから10億ドルの資金を集めている。現在このスタートアップは、最初期のがんでも検出できる血液検査の開発に取り組んでいる。

2. 精密農業

農業にも精密科学を取り入れることは可能だ。人工知能、GPS、解析用ソフトウェアのおかげで、現代の農家は作物の収穫量を以前より正確に管理できるようになっており、効率性の高い農業運営が可能になっている。
特にリソースや気候の面で農作物の栽培にあまり適さない地域では、効率の良さが決定的に重要だ。
屋内農業を手がけるエアロファームズ(Aerofarms)、グリーンスピリットファームズ(Green Spirit Farms)、アーバンプロデュース(Urban Produce)といったスタートアップは、いずれもこうしたツールを用いて作物を綿密に分析し、生産高の最大化と味の最適化に努めている。
また、ブルーリバーテクノロジー(Blue River Technology)など数社は、画像認識技術を肥料の無駄づかいの削減に利用しており、90%もの削減に成功した例もあるという。

3. 持続可能なコミュニティの設計

持続可能な地域社会を築くことは、環境的に良いだけではなく、良いビジネスにもなりうる。企業や住民がエネルギーコストを節減できるからだ。
グーグルからスピンアウトしたサイドウォークラボ(Sidewalk Labs)は、その実現可能性の大規模な研究を行う場所を探している。
自動運転の電気自動車のためのインフラや太陽エネルギーのようなサステイナブルなエネルギー源を作り出し、ひとつのコミュニティ全体を使って未来の都市がどのようになるかのショーケースとするためだ。
2016年の時点では、デンバーとデトロイトがこのプロジェクトの最有力候補と噂されていた。2017年5月、カナダのトロントでデジタルシティの実験を開始することが明らかになった。

4. ディープラーニングを用いた画像認識技術

人工知能による画像識別の精度は、さまざまな用途において衝撃的とさえ言えるほど高くなっている。すでにフェイスブックには、写真に写っている人々や物体の多くを識別し、言葉で指定すればそれに応じた画像を検索してくれる機能がある。
画像認識ソフトウェアを基盤としたグーグルの新しいプラットフォーム「プラネット」(PlaNet)は、標識やランドマーク、植生などのヒントに基づき、写真が撮影された場所の推定が可能だ。
また、スタンフォード大学の研究者たちは2017年、皮膚がんを90%の精度で正しく識別できるように人工知能を訓練したことを明らかにした。これは、同じ条件で判定を行った、皮膚科の専門医の精度よりも高い値だった。

5. 空気中からきれいな水を収集する技術

空気中から水分を取り出すことができたら、素晴らしいことだ。極度に乾燥した気候であればなおさらだ。
『サイエンティフィック・アメリカン』誌は、カリフォルニア大学バークレー校とマサチューセッツ工科大学の研究チームが、まさにそれを目指したシステムを開発中だと報じている。
研究者たちは、金属有機構造体(MOF)と呼ばれる結晶体を、さらに多孔質となるように改良し、大量の水分を収集して容器に水を集められるようにした。
アリゾナ州に本拠を置くスタートアップ、ゼロマスウォーター(Zero Mass Water)は、また違った方法で水を収集している。
同誌によると、同社は太陽エネルギーを使って、吸湿性素材に空気を通すシステムを製作した。1枚のソーラーパネルを含めて一式3700ドルほどのユニット1基で、1日2リットルから5リットルの水を作れるという。
同社はすでにアメリカ南西部だけでなく、ヨルダン、ドバイ、メキシコでもこのシステムを設置しており、最近ではシリア難民に水を提供するため、レバノンに複数のパネルとシステムを送り届けた。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Kevin J. Ryan/Staff writer, Inc.、翻訳:水書健司/ガリレオ、写真:sdominick/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.