亀山敬司と語るグローバル。成功の秘訣は「組織力」と「託す力」

2017/6/30
2016年、DMM.com Africaを立ち上げアフリカに進出したDMM.com Group。創業者の亀山敬司氏が社長を退いた今も自ら指揮を執り海外事業を本格展開している。一方、2006年に鮄川宏樹氏が設立したモンスター・ラボは設立11年ながら、すでに世界7カ国13都市に拠点を設置し、規模こそ小さいもののグローバル企業としてその地位を確立した。ともに創業者でグローバルビジネスの指揮者。その二人が、世界に出る理由、醍醐味、チーム作り、そして成功の秘訣を語った。
アフリカでの奇妙な縁
鮄川(モンスター・ラボ):亀山さんはご存じないかもしれませんが、実はモンスター・ラボは、DMM.comが買収したアフリカ・ルワンダ(共和国)のソフト開発会社「HeHe Labs(へへラボ)」と提携しています。アフリカに進出する日本企業は珍しいのですが、そうしたら、今年の4月にDMM.comがへへラボを買収した、と(笑)。
亀山(DMM.com Group):提携していたの?
鮄川:そうなんです。モンスター・ラボはモバイルアプリやWebシステム、イラスト、ゲームといったデジタルプロダクトの受託開発ビジネスをメインに手がけています。
一見すると、同じような企業はほかにも存在しますが、「グローバル」が当社の特徴で、今年で設立12年目ですが、世界7カ国、13都市に拠点を設置しています。
アジア、米国、満遍なく展開している中で、アフリカは手付かずでしたから、ルワンダで注目を集めていたソフトウェアハウスのへへラボと協力体制を敷いたのです。
亀山:遠いアフリカの国でご縁があったわけね。
鮄川:そうですね。アフリカでもデジタル化のニーズが顕在化してきましたよね。それにもかかわらず、開発・制作できる人材が不足しています。なので、私たちが培ったノウハウや世界に点在する人材をアフリカに提供・提案し、政府機関や自治体、企業のデジタルプロダクトづくりを支援しようとしているのです。
亀山さんもここ数年は海外に積極的な印象があるのですが、DMM.com Groupはなぜアフリカに進出したのですか。
亀山:うち(DMM.com Group)は、Amazonや楽天、Yahoo!とか大手がやっていないことを狙うというか、「隙間」をつねに探して商売にしているわけ。ただ、ここまでいろいろ充実してくると、日本だけで隙間を探すのは大変なのよ……。だから、アフリカ(笑)。アフリカは隙間だらけだから。
グローバルソーシングでNo.1に
亀山:それにしても、モンスター・ラボはアフリカ地域だけじゃなくて、設立11年で13拠点とは、ずいぶん思い切りがいいね。
鮄川:設立は2006年ですが、海外に進出したのは2010年でした。最初は中国から始め、その後、ベトナムやフィリピン、シンガポールといったアジア、さらにアメリカへと広げていきました。近々には、ヨーロッパにも進出する予定です。
当社の社員は、日本だけで言えば160人程度ですが、世界では約700人。開発・運用をサポートしてくれるパートナー企業も100社ほどになりました。手前みそですが、日本本社の社員が200人弱でここまで海外に事業基盤がそろっている企業はそうはないと思います。
「グローバルソーシング」と私たちは呼んでいて、世界中のエンジニアやデザイナー、クリエイターを組織し、お客様の要望に適したチームを選定して開発し、その後もサービス成功のための運用・グロースハック、ローカライズなどを一緒に行っていく。国内だけでなく、世界の人材をチーム化することで、多種多様な才能を確保していることを強みにしています。
亀山:人材を確保するために海外に出ているってこと?
鮄川:当初はそうでした。ですが、今は完全にマーケットとしても見ています。例えば中国ではすでに、マーケットとして中国国内のクライアントを獲得しています。海外の売り上げは全体の20%程度まで伸びていて、3年後には50%まで高めるつもりです。
亀山:全体の20%まできているのか。それほど目新しいビジネスではないのに、カネも時間もかかる海外に出てやっていけてるのは何で?
鮄川:単なるオフショア開発ではなく、日本でもプロダクトの企画や品質管理ができるチームを作っていることと、誤解を恐れずに言えば、「お客様のいいなりにならない」ことですね。
私たちがつくるものはお客様のビジネスの成功のためにあるもの。ですから、そのビジネスを成長させるためには、必要と思ったらご要望の見直しと新たなプランを提案します。
お客様のビジネスの上流に入り込み、一緒に成功イメージをつくってともにディスカッションしながら進めていくんです。
そして、先ほどお話ししたグローバルチームがそれを支える。お客様にとっては、単なる発注先ではなく、デジタルプロダクトの開発と成功を任せられるパートナーになる。
ほかの企業に比べて手間も時間もかかるかもしれませんが、その分、ご満足いただけるケースも多いですし、何より長くお付き合いいただけるのです。
亀山:どんな目標を立てているの?
鮄川:優秀な人材を世界規模で集め、世界規模でビジネスを展開する。「デジタルプロダクトの開発で世界No.1」が中期的な目標です。
デジタルプロダクト開発の分野は世界的リーダーがいないと思っているんですね。自国では強いけれど、他国にいくと無名という企業が多い。なので、私たちは世界でデジタルプロダクトではNo.1と言われる存在になりたいんです。
海外の醍醐味は「市場」「人材」「商売のヒント」
亀山:人材獲得先として、それと商売先としても海外を見ているわけね。それと、ビジネスのヒントを見つけるための海外という視点もあるよね。
今は、俺がパクリたいと思うサービスは、中国にたくさんあるよ。ライブ配信とか自転車レンタルとか、面白いサービスがどんどん出てきていて、日本でもこれやったら面白いんじゃないかって思うものが多い。
鮄川:それもありますよね。私たちは、企業のためにデジタルプロダクトを開発する受託ビジネスだけでなく、音楽配信サービスなど自社オリジナルサービスも手がけています。
企業のデジタルプロダクトづくりをしている中でビジネスの芽を発見することもできると思うので、可能性を感じたら海外でもオリジナルサービスを現地で始めたり、始めたサービスを他国に移植したりしたいとも考えています。
例えば最近では、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)で有名なフィリピンで、AIを使ったRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)ツールを自社開発しています。
亀山さんは、アフリカではどんなビジネスを考えているんですか。
亀山:うーん、今はECとかいろいろ試しているけれど、極論を言えばこだわりなし。受け入れられる可能性があるなら、何でもいい。それはアフリカに限らず、ほかの国でも日本でも共通だね。
うちの強みは、財務とか営業とか商売を回すための基本的な人材・組織。だから、何をやっても対応できると思っている。偏った言い方をすれば、商売のアイデアなんてパクればいい。パクって、うちの組織や人材が回せば、もっと良い商品になり、もっと売れるようになると思っているから。
人材と組織があればどこでも何でもうまくいく
鮄川:ビジネスは何でもよくて、国境も関係ない。組織力があればうまくいくということでしょうか。
亀山:そうだね。自分で見られる範囲っていうのは限界があるから、いかにちゃんと稼げて信頼できる人を配置ができるか。そいつがどんなチームをつくるかにかかっている。
鮄川:海外展開における組織力の高め方や人材育成は、どうしていますか。
亀山:「やっといて」みたいな(笑)。
アフリカで言うと、日本から3人くらい派遣しているんだけど、とにかくやらせてみる。やらせてみていたら、「これはうまくいく」とか「このやり方は失敗する」とか自然と出てくるんだよ。
うまくいけば続ければいいし、うまくいかなければやめる。それだけ。だから、基本は任せる。そもそも、俺は英語をしゃべれないし。アフリカには2年も行っていないし。教育とかそんな大それたものはない。とにかく、「お前がリーダーだ」って言って機会を与えるだけ。
モンスター・ラボもそうじゃない? お客さんからいろんな要望が出てくるけれど、そのすべての案件を一定水準のクオリティを満たして納品しているわけでしょ? しかも、それを世界規模でやっているんだから。
俺はBtoBの商売をした経験がないからわからないけれど、「あれやれ」とか「これはダメだ」とかいろいろうるさそうじゃん。
鮄川:いろいろ苦労はあります(苦笑)。私も大切にしているのは「任せて、必要ならサポートすること」です。海外でも、日本からコントロールしようとは思いません。あれこれ口を出した結果うまくいったとしても、それだと期待した以上のものにはならない。
「次はどうすればいいですか」といったご用聞きになってしまいますから。拠点のメンバーの「こうしたい」という思いを我々がいかにサポートするかに心を砕いています。
亀山:結局、仕事をまわすのは組織であって、その組織をつくるのは人だからね。
鮄川:やっぱり、人ですね。亀山さんはどんな物差しで人を選んでいるのですか。
亀山:俺の場合、見ているのは、その人の行動力かな。どんなことをやりきってきたか。やりきる根性があるかをみる。
まぁ、そもそもうちはエロもやっているから、ある意味、山っ気のあるやつしか応募してこない。だから、自然と絞られるかな(笑)。面接の時に「DMM.comに応募するなんて君、勇気あるね」ってところから話を始めるしね。
鮄川:私の選ぶ基準も似たようなものかもしれません。私は、過去も大事ですけれど、これからですかね。
モンスター・ラボは海外でもっともっと新しい取り組みを始めていきます。
一見すると、海外事業に精通していなければならないように思われがちなのですが、必須ではありません。英語や他国の言語を話せなくても全然いい。
まだまだ若い会社ですから新しいことに率先してチャレンジする意欲、情熱があって、自ら事業を起こしたい、海外に挑戦したいという気持ちがあれば、ぜひ一緒に働きたい。「どこでもいく、まずはやってみる」というマインドがあればどんどんうちの仲間になってほしいと思っています。
亀山:そんなこと言ったら、どんどん応募がきて面接とか面倒くさいよ(笑)。
鮄川:はい、大歓迎です。
(取材・文:木村剛士、写真:森カズシゲ)