人材不足やコストの圧迫、さらには配送スピードの高速化など、物流業界が抱える問題は山積みだ。そこにメスを入れるべく、立ち上がった企業がGROUND株式会社。代表宮田啓友氏は、かつて楽天物流を率いた、業界を知り尽くした腕利き。彼が唱えるのは、物流センター管理の概念を変える新しい提案、「Intelligent Logistics」。ここでは、業界の雄である宮田氏に、Intelligent Logisticsの全貌や、物流業界の今と未来について語ってもらった。
——まずは御社の業務内容についてご説明ください
物流センターのオペレーションを支えるプラットフォームをつくっています。たとえば、iPhoneのiosは、あくまでもAppleのための仕組みですが、我々は、iosに対してandroidのようなオープンな仕組みを物流オペレーションに提供していくことを推進しています。
——そのプラットフォームについて具体的に教えてください
そのプラットフォームを我々は「Intelligent Logistics」と呼んでいます。Intelligent Logisticsは2つのレイヤーに分かれていて、まず1つはハードウェアの提供です。現在は、インドのGREY ORANGE(グレイオレンジ)社が開発した自動配送ロボットシステム「Butler®(バトラー)」の提供を進めています。
そしてもうひとつは、ソフトウェアの開発です。具体的には、人工知能を使った物流リソース最適化ソフトウェア/DyAS(ディアス)の開発。このソフトウェアとハードウェアを組み合わせて利用することで、通常だと300人のリソースが必要な作業が、30人で済んでしまうといった環境改善が見込めると考えています。
インドのグレイオレンジ社が開発した自動配送ロボットシステム、Butler®(バトラー)。GROUND株式会社では、Butler®を日本向けにローカライズし、企業に提供している。
——物流オペレーションに革新的なソリューションを投入するに至った理由とは
企業間物流(BtoB)はもちろん、BtoCであるECに至るまで、市場は20年前に比べて格段に変化しています。その中で、ECの物流オペレーションに求められる要件は、より複雑化し、高度になっています。
その要因を4つ挙げると、まずひとつめが「ロングテール化に対する懸念」です。現状、ひとつの物流センターで100万点以上の在庫を抱えることはザラです。楽天やアスクルもそうですが、ECの物流センターに求められる商品ジャンルは多岐にわたり、扱う点数も膨大です。それらを均等に在庫して、最適なスピードで出荷するために、物流センターは非常に大型化しています。そこが問題のひとつでしょう。
そして2つ目は、BtoCは「出荷する商品の予測が非常に難しい」というところです。たとえば、自動車の製造ラインに併設されている物流センターであれば、製造計画に対して部品がいくつ必要なのかが明確にわかっていますが、ECではそれができません。消費者がいつ、どんな商品を必要としているかが読めないため、在庫管理の難解さが問題になっています。
3つ目は「スピード配送」です。今まさにヤマト運輸が当日配送を止めるというニュースもありましたが、配送する物量がいつもの3倍に増えたとしても、求められた時間内に配送しなければなりません。
しかもECの場合は、夜間の受注もあります。楽天の場合だと、21時から深夜1時くらいまでが受注のピークだと言われていて、そのオーダーをどれだけ迅速に配送会社へ引き渡すかがポイントになります。しかし、それはもう、人手で解決できるレベルの問題ではありません。
そして最後が、「静脈物流」に関する問題です。返品もそうですし、最近では、洋服などレンタルのECサービスが始まっていますよね。一方的に物流センターからお客様へ物を届ける流れは整備されていても、物が返ってくるという「戻りの物流」はまだまだ整備が必要だと考えます。
例えば、レンタルの場合は、戻ってきた洋服などをクリーニングや補修に出す、返品の場合は商品をもう一回パッキングしてから在庫に戻すという行程が入ります。手間がかかるのはもちろんですが、作業が増えることで、人件費を含めた物流費はこれまでの倍近くかかってしまうのです。
これらの問題から、ECを中心とした新しい流通モデルへの対応というのはとても難しいことです。人手によるアナログな対応が難しいのであれば、当然何らかの技術革新をする必要がある。そうしないと、おそらくECの成長に物流がついていけなくなり、破綻してしまう恐れがあるのです。
しかし、世界では少し勝手が違っています。かつて私は楽天で、2年程フランスの物流事業者マネジメントを担当していました。その時に知ったのですが、アメリカやヨーロッパのECを支えている物流事業者は、移民の労働者によって成り立っているんですね。フランスは、ポーランド人が物流オペレーションを担当していたり、アメリカはメキシコ人が中心だったりと、移民政策で人手不足への対応が取れるのです。
一方日本では移民政策を取りにくい。だから尚更テクノロジーで物流を変えないと成り立たないのです。そこで、我々の「Intelligent Logistics」というプラットフォームを使ってもらうことで、300人で運営していたところを30人体制にする、30人体制にして倉庫を24時間稼働させる、といったことを実現させていただこうと。
このように、新しいテクノロジーと人をうまく融合させ、ECを中心とした流通モデルに対する物流を成り立たせる仕組みを作ることが重要だと考えています。
宮田啓友(Hiratomo Miyata)GROUND株式会社 代表取締役社長
1996年に株式会社三和銀行入行。2000年デロイトトーマツコンサルティング(現:アビームコンサルティング)入社。大手流通業を中心にロジスティクス・サプライチェーン改革のプロジェクトに従事。2004年アスクル株式会社入社。ロジスティクス部門長として日本国内の物流センター運営を行う。2007年、楽天に入社。物流事業準備室長を経て、2008年に物流事業長に就任。以降、2010年に楽天物流を設立し、代表取締役社長に就任。後の2015年4月にGROUND株式会社を設立。2017年2月度、「ロボティクス」領域でマンスリープロピッカーに選出。
—これほど大きな問題が浮き彫りになっていたにも関わらず、どうして今までそれらの対処ができなかったのでしょうか
単純に、対処する技術がなかったからです。ハードウェアの面を見ると、ロボットが実践レベルで使われてこなかった大きな理由のひとつが「バッテリーコスト」でした。たとえば、Butler®には、1台につき12個ものリチウムが実装されていますが、それを実現できたのは、この2年半から3年の間で、リチウムイオンのコストが半分以下になったからです。
コストダウンできた要因に挙げられるのは、電気自動車の普及です。テスラ社を中心に電気自動車の開発が進み、巨大電池工場であるギガファクトリーを作った。そこで技術革新が進み、バッテリーを量産できる地盤ができたため、コストダウンが実現したというわけです。
また、ソフトの部分は「AIの進化」が大きく影響しています。近年のAI技術の発達は目覚ましく、ようやく実践レベルで使えるものになってきたと言えるでしょう。3~5年前までは、ソフトウェアもハードウェアも技術は発展途上で、諸問題を解決できるレベルではなかったのです。
—ではIntelligent Logisticsを物流の現場に投入することによって、具体的にどのような変化、改革が望めるとお考えですか
Intelligent Logisticsのハードウェアの部分であるロボットは、物流センターの「スタッフ」の代替に。そして、ソフトウェアの部分である人工知能は、物流センターを司る「管理者」の代替です。
まず、管理者の代替としてのソフト面は、人工知能を使ったソフトウェア開発を進めているところです。それが完成し、運用することで、管理者が日々判断しながら行っている業務をソフトウェアに委ねることが可能となります。最終的には、物流センターを無人化できるかもしれません。
次にスタッフの代替としてのハード面には、Butler®をあてがいます。しかし問題はその運用方法です。利便性に富んでいるものの、安易な考えで物流センターにある棚すべてに対してButler®を使うのは非常に難しい。
センター内にあるすべての商品が売れているとは限りません。売れるものもあれば売れないものもあって、出荷頻度は二極化されているのが常でしょう。その中でも、6割から7割くらい売れ行きがある商品の棚でButler®を使うのが、一番効果があると思います。Butler®は、与えられた領域の中で最適なパフォーマンスを発揮しますが、物流センター全体にある商品の動きを熟知してButler®の配置を考えるのは、管理者領域の業務になるからです。
Butler®の配置を誤ってしまうと、最適化を計るのは難しいでしょう。ソフトウェアとハードウェア、それぞれが持つ特性と対応範囲を把握してから運用するのがベストです。この2つを上手く使い、より効果を出すことで、物流センター全体を滞りなく対処してくのが、Intelligent Logisticsの醍醐味だと考えます。
Butler®のオペレーション画面。
——物流で技術革新が進む今、物流のマーケットは今後どう変わって行くのか、そしてどんな可能性を秘めているとお考えですか 
実は今、物流業界において労働力不足は、世界規模で問題になっています。それは、移民政策を取っている国も例外ではなく、絶対数の確保はどこの国でも難しいと言われています。
そこで紐づくのが、2017年2月に中国のファーウェイと、ドイツの物流会社であるDHLが、IoT分野で提携をしたというニュース。国も事業内容も異なる大手2社が手を組んだ最大の理由が、人手に頼る物流運営に対する懸念でした。
両社は移動体通信をベースとしたIoT技術に焦点を当てて共同でイノベーション・プロジェクトを進め、より統合、簡素化した物流バリュー・チェーンを実現できると考えているようです。
さらに、両社が見込んだ世界の物流業界における経済価値は、約1.9兆米ドル。1ドルが110円だとすると、200兆円もの可能性を秘めていると。しかし日本では、そこに入り込んで新しいソリューションを提供しているプロバイダがまだいません。
ですから、我々は非常に良い立ち位置でプロジェクトを進めていると自負しています。
—では最後に、今後、どんな方と一緒に事業を進めていきたいとお考えでしょうか。
好奇心旺盛であることはもちろん、業界を大きく変えて行くということに対してワクワクできる人。加えて、我々は企業のトップに提案をするので、それなりにリアリストである点も重要ですね。
今回の募集では、新しい事業の立上げから関わっていただく人材の募集です。
大和ハウス工業株式会社との資本業務提携契約(※)をした今、人工知能を活用した自社サービス「DyAS/ディアス」の立上げや、新サービスのR&Dなど、国内のみならずグローバルに事業拡大をしていくフェーズです。業界を変えるという使命感を持って、共闘して行ける仲間を募りますので、興味のある方は是非話を聞きに来てください。
※業務提携の詳細はこちら(http://www.groundinc.co.jp/cp-bin/wordpress/news