[東京 16日 ロイター] - 新日鉄住金<5401.T>が原料炭価格をスポット価格(インデックス)基準に変更することは、売り手である資源メジャーの寡占化に加え、買い手となる鉄鋼業界における中国やインドの台頭という大きな環境変化を反映している。中国の政策や需給に翻弄されることが増えている日本の鉄鋼業界の影響力が一段と低下する事態となっている。

新日鉄住金と海外資源メジャーとの原料炭価格交渉は「チャンピオン交渉」と呼ばれ、ここで合意した価格は国際的なベンチマークとして用いられてきた。こうした「ベンチマーク方式」は、30年以上続いてきたが、4―6月期から、市況連動に切り替える。

価格決定方式を変更した理由の一つは、原料炭市況の乱高下にある。4半期ごとの価格交渉では、1―3月期ならば12月、4―6月期ならば3月に価格を決めることが多い。しかし、中国の石炭政策や頻発する自然災害によって大きく価格が変動することで、3カ月先の価格が見通し難くなった。加えて売り手・買い手の双方の構造が大きく変化したことも大きな要因だ。

新日鉄住金で原料を統括する谷水一雄常務執行役員は「世界の貿易に占める日本のシェアがだんだん小さくなり、インド、中国のシェアが上がり、バーゲニングパワーがなくなった。3カ月先の価格を見通すこともできないし、その値段をマーケットに定着させる力もなくなった悲しい現実がある」と話す。

かつては世界最大の原料炭輸入国だった日本。一方、原料炭の輸出国だった中国は、旺盛な国内需要を背景に輸入国に転じた。英調査会社クラークソンズ・リサーチによると、2008年には日本が6150万トン、インドが2650万トン、中国が320万トンだった原料炭の輸入は、13年には一時、中国が日本を逆転。16年は日本が5340万トン、インドが4670万トン、中国が3570万トンとなっている。

原料炭最大手の英豪系資源大手のBHPビリトン<BHP.AX><BLT.L>は、11年に一部を、15年には全量をインデックス連動に切り替えた。炭鉱権益の取得などで原料炭事業を拡大してきたBHPは、ベンチマーク交渉の対象となっていた高品位の「一級強粘結炭」で50%を超えるシェアを持つ。同社が世界でインデックス化を推進したことで、欧州の鉄鋼メーカーなどでもインデックス採用の動きが広がり、ベンチマークの意味合いが薄れる結果となった。

新日鉄は、英アングロ・アメリカン<AAL.L>や米ピーボディ・エナジー<BTU.N>、英豪系資源大手のリオ・ティント<RIO.AX><RIO.L>など、BHP以外の資源メジャーと「チャンピオン交渉」を続けてきたが、市況の低迷や地球温暖化対策の国際的枠組「パリ協定」などを背景に、これらの会社でも権益売却などの動きが活発化。

リオが石炭事業から撤退を進めているほか、実現こそしなかったがアングロ・アメリカンが豪モランバー炭鉱などの売却に動いたことも「(インデックスへの切り替えの)かなり大きなきっかけになった」(谷水常務)という。

谷水常務は「飛車角がなくなってきたら、歩で勝負しなければならない。歩ではベンチマークにならない」とし、交渉相手の減少も決断の要因と話した。

今後、焦点はトヨタ自動車 <7203.T>などとの鋼材価格交渉にどのような影響を及ぼすかに移る。谷水常務は「これからの相談事。価格発見機能が置き換わるだけで、それほど大きな影響はない」としている。

(清水律子 大林優香 編集:田巻一彦)