ブロックチェーン上でのさまざまな取引を自動化する「スマート・コントラクト」の実用化を後押しする新技術が開発された。ブロックチェーン経済は拡大するか。
「データの改ざんがない」ことを検証する仕組み
フェイクニュースがあふれる時代に、暗号技術者でジェイコブズ・テクニオン・コーネル(ニューヨーク、コーネル大学とイスラエル工科大学が共同で設立した大学院大学)のアリ・ジュールス教授は、インターネットで最も信頼できる情報を提供するオンライン・サービスを立ち上げようと準備している。
5月15日に公開する予定の「タウン・クライアー(Town Crier)」は、人間ではなく機械にとって意義のあるものだ(日本版編注:この記事のオリジナルは米国現地時間5月11日に公開された。その後、タウン・クライアーは予定どおり5月15日に公開された)。
スマート・コントラクトの欠点は、参照する取引データがスマート・コントラクトと同じくらい正しいことが前提となっていることだ。この点がスマート・コントラクトを使ったさまざまなアイデア実用化の発展を制限していると、ジュールス教授は話す。
スマート・コントラクトがWebからの取引データを受け付けないのは、既存システムには取引データが改ざんされていないことを検証する方法がないからだ。
「きちんとした取引データ・ソースがないので、実行できるスマート・コントラクトは限られています」
5月15日から始まるタウン・クライアー・サービスと同名のソフトウェア「タウン・クライアー」は、スマート・コントラクトの欠点を解決する方法を提供すると、ジュールス教授ら研究チームは説明する。
ジュールス教授たちのシステムは、天気予報のようなWeb上のデータを暗号化接続を通して取得し、組み直してスマート・コントラクトを構築するためのフィードを作る。タウン・クライアーのフィードはデータを暗号化してあるので、第三者がデータ・ソースを検証し改変されていないことを確認できる。
銀行やベンチャー資本から高まる期待
スマート・コントラクトというアイデアに夢中になっているのは、ブロックチェーン技術に何百万ドルも注ぎ込んだ銀行やベンチャー資本だ。スマート・コントラクトは電子マネー・ビットコインに触発されたデータと資金を管理する方法だ。
タウン・クライアーはイーサリアム(Ethereum)との統合を見込んで作られている。イーサリアムは84億ドルの価値を持つと見積もられる暗号通貨とスマート・コントラクトのプラットホームで、スイスに本拠を置く世界有数の金融持株会社UBSやマイクロソフトなどの巨大企業が支援している。
イーサリアムの考案者でイーサリアム財団の共同設立者、ヴィタリック・ブテリンは、タウン・クライアーがスマート・コントラクトに対する熱狂的な支持を行動に変えるために役立つと期待している。
「スマート・コントラクトが外部からのデータ・フィードを受け付けないことが、スマート・コントラクトの普及の大きな障害になっていることは間違いありません。タウン・クライアーは問題の解決へ向けて大きく前進させるかもしれません」とブテリンは言う。
ジュールス教授ら研究チームはタウン・クライアーでビジネスを始めようとしているわけではなく、オープンソース・ソフトウェアとして公開する予定だ。5月15日から始まるデモでは、株価、天気予報、フライト情報、暗号通貨為替レート、UPSの荷物問い合わせなどのデータ・フィードの提供を予定している。
タウン・クライアーの設計は、スマート・コントラクトが参照する取引データを当事者以外から隠すこともできる。イーサリアムのようなブロックチェーン・システムの初期設定では、一般的にすべての取引データが全員に見えるようになっている。
ニューヨーク大学のデイビット・ヤーマック教授(ファイナンス)は、タウン・クライアーのプライバシー機能はブロックチェーンに関心を持つ金融会社が別の課題に取り組むのに役立つかもしれないと話す。
「分散型台帳技術を研究している人にとって、プライバシーは大きな問題です。顧客も銀行も規制当局も、みな機密性を非常に重視します」
原文はこちら(英語)。
(執筆:トム サイモナイト/米国版 サンフランシスコ支局長、写真:a-image/iStock)
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