【本田圭佑・人生哲学】世界一にこだわる理由

2017/6/10
サッカーファンやビジネスパーソンだけでなく、すべての人のために本田圭佑選手が自らの哲学を語る、本田圭佑のオフィシャルメルマガ「Change The World by KSK」(毎週水曜配信)の人気連載コンテンツ『人生哲学』。本連載は5日間の限定連載として、その一部を特別にお届けする。

30歳まで褒められたことがない

なんで自分がこんなにも世界一にこだわるようになったんかなあって。
やっぱり教育なんですよね。
考えれば、振り返れば振り返るほど、自分が小さい頃、親、親戚、先生、サッカー指導者、この辺から基本的に何かを教わってきた。
いわゆる子どもとして、大人から学んだ大体の枠組みになってくるんですけど、当然ながら親から学んだこと、父親から学んだもの、祖母・祖父から学んだものが一番大きいですね。すごく影響を受けてきた。
で、その父親の言葉を思い出すと「2番はベッタと一緒や」と。鮮明に覚えてるわけですよ、そんなことばっかり言われたから。
──それは幼稚園の頃からとか?
いつから言われたかも覚えてないわけですよね。
負けてヘラヘラするだとか、誰か先輩のことを「あの人すごい」って褒めてたら、めっちゃ怒られたりとか。「誰のことそんな褒めてんねん、かっこ悪い」と。「お前がやったらええ話やろ。人のこと『すごいすごい』言うな」みたいな。はっきり覚えているわけです、そんな言葉ばっかり。
そんな言葉ばっかり覚えてるんです。他のことはめっちゃ忘れるのに。
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自分のゴールシーンとかも忘れてるんですよ。自分がどんな風に点取ったかなんて思い出せないんですよ。
でもそういう言葉はいつまでたっても覚えてて、そういう言葉を覚えてるってことは、そういう言葉が生活の軸になってて、いろんな知識が入ってきた時に、特に最近やったら、サッカー選手で少し名前を知られるようになったおかげで、いろんな新しいサッカー界以外の人に出会うきっかけが多くて、その時に新しいゾーンに突入するような知識がたくさん入るわけですよ。
で、その新しいゾーンに入る時に、その分野に行って、じゃあうまい具合に成功して、お金稼いで……とかそんなイメージはたくさん湧くけど、そんな人生をよしとして生きてきた記憶がなくて、どうしても自然と、「面白そうやな? やろうかな? 2番は駄目だな」っていう。
──親に、2番が駄目って言われたのが、どんなことだったか覚えてますか? 例えば100メートルとかかけっことか、もしくは何かしらの、その、これじゃ褒めてくれないんだと思う瞬間というのがあったんですか?
おやじの教育がすごいのは、30歳になるけどまだ褒められたことがない。一度も。本当に。
──「W杯のゴールすごかったね」みたいなのは?
これを言ったら日本国にはあまり称賛はされないやろうけど、父親も俺の考えもオリンピックに俺が出ることをなんとも思ってなくて。
北京オリンピックの時(2008年)、あんだけ近いでしょう?おそらく、俺以外の選手の家族は全員現地入りしてたけど、うちの家族・親戚含め一人も来てなかった。
──ええ、何でですか? 晴れ舞台で北京近いのに。3時間くらいで行けるのに。
たぶん俺を満足させへんような教育も絡んでるかもしれない。オリンピックに出てゴールという感覚はどこにもなかったね。北京の時も。
2008年の北京五輪に出場したが、3戦全敗の一次リーグ敗退に終わった(写真:アフロ)
──実際どんな感じだったんですか?
「俺、今度、北京オリンピックに出る」と。家族は別にしらーって感じ。普通やったらね「摂津の星!」とかね。しーんって感じで。
「じゃあお前いつ北京に行くねん?」みたいな感じで。日常、日常やねん。だから、やっぱその、そういう常識を作る家族としては、絶品やった。
要は、基準が高い。
何をやるにしても、「これじゃダメなんや」っていう基準がすごく高かった。運動会で1番とか、かけっこで1番とか何かで表彰状もらう、サッカーの大会でMVPもらう、地域のやつで。話題にさえならへんね。
でも、最近の子どもを考えてみて。何かあるたびにそれがトピックになるのがほとんどよね? 自分の息子、自分の娘、「頑張ったね」って。「え、何? 頑張ったねって」という教育やったから。
頑張るのなんて論外や。2番は論外だし、1番になって、別にそれも称賛されるもんじゃない、と。上には上が居る、と。
モハメド・アリやペレを超えないと何も称賛されない、と。そんな基準だった。
──なんでそんな(世界一にこだわる)基準を持ったんだろうね?
やっぱりずっとおやじを見てきたから。
──そこは欠かせないポイントだとは思うけど。じゃあ、本田圭佑自身が思い当たることはないってことだよね? お父さんは普通に、自然にそれをやってたってこと? そういう本質的にお父さんがわかってたのか……。
うん、わかってるよね。要は、何が本物かを見抜くセンスは父親は抜群やったね。
──本物志向ってことだよね?
そう。本物志向が強い。
例えばボクシングにしても、「なんで体重差があんねん? サッカー見てみろ。体重差で競技が分かれてるのか。100キロのドリブラーもいれば、60キロの香川も一緒にプレーする」と。
──確かに。ヘビー級と戦わなきゃいけない。
そう。
「それでも(体格差があっても)ゴール前のパワーを要する所で、結局戦わなあかん。でも、それでイブラヒモビッチが、勝って当たり前のヘディングで勝って称賛されんのやろ」と。
「アジリティー(瞬間的な速さ)駆使しろ。かわしまくれよ。別に逃げまくってもええんやけど。戦術考えろ!」と……ボロクソよ。
その辺の考えがすごいあれやから。
© HONDA ESTILO

サッカーじゃなくてもよかった

──それも子どもの頃から聞かされてる?
聞かされて、その知識だけ得られていってたから、すごく俺は自己中心的な考えに近い形で育ってきたんですよ。
で、もともと僕が世界一を目指そうと思ったきっかけも、要は、それをあんだけ言ってる、世界一、世界一、ペレやモハメド・アリや、アレキサンダー大王だとか三国志とか、ローマ帝国やゴッドファーザーとかいろんなものを僕は、子どもの頃に見せられたんですけど、そんな父親を喜ばせるには世界一にならないと喜んでもらえないっていうような発想から、僕はたぶん子ども心に「世界一なったら家族が喜んでくれる」と。運動会で1番になっても誰も喜んでくれないんでね。
で、小学校6年の時にそういうのを書いたっていうのもあると思うんですよ。
その時にはサッカーもはまってたけど、別にサッカーで試合に勝っても誰も喜ばないわけですよね。
──お父さんも褒めてくれない、と。
やっぱり人間って、誰しも人に認められたいとかあると思うんですよ。特に好きな人に認められたいとかあると思うんですよ。
で、僕はそこで、恩返しをしようと思ったんですよね。小6くらいの頃はスパイクたくさん買ってもらってたし。
で、世界一になっておやじが車のことが好きなのわかってたし、フェラーリが好きって。で、いわゆるおやじ含め家族を“俺が世界一になったら、金持ちになって、幸せにできる”って、こんな考えのもとにスタートしたんですよ。
正直、何でもよかったんですよ、サッカーじゃなくても。だからいつも俺は、サッカーで成功するのなんか別に、俺はあくまでも本田圭佑として挑んできたと思ってるとか、そんな発言をよくしていると思います。
──本当の意味で世界一があるっていうの?
世界一というのがあるっていうか、世界一にならないと家族は誰も俺を認めてくれないのが、逆算していくとあったんかなあって。よくよく考えるとよくわからないんですね、なんで世界一、世界一って。
ただ、性格はこうなってしまってて、何かやって成功しても、本当の意味では称賛されへんみたいな、コンプレックスがあるのかなって思ってて。とてつもない。
とてつもないって言っても「あいつもやったよね、あいつもやったよね、あいつもやったよね」ってことは絶対にやりたくない。
なんで世界一を目指すかって言われたら、ホントのところ俺もよくわからない。
でも自然に、「みんなが誰かがやってるようなことをやるっていうのは面白くない」って思ってるし。
その「面白くない」って思ってる中身は今言ったような、ホントの意味でみんなが、特に家族が、自分が一番大事にしてる家族が、あんまり喜んでくれへんのじゃないかな?って思ってる根底があるのかな、っていう。でも「そんな気がしてる」っていうぐらいでしかなくて。
一言で言ってしまうと、「誰かがやってることやってしまうと面白くないよね」ってだけなんで。
それは本当にすごいヤツがやってても嫌で、でも実際自分が考えたアイデアなんて誰もがやってるから。そういう意味では面白くて、自分よりすごいヤツがいるってのはもうわかってしまったから。
──それはサッカーにおいて?
サッカーも、勉強も、自分より、身体能力が高いやつ、自分より賢いやつがいるってことははっきりわかったから。「ああ、すげえな」と。
俺が唯一、世界一になる分野はなんやねん、って考えたら、我慢強さというか……。
──不屈の精神というか。
そうそう。“Never give up”の精神は、自分が、ここまで歩んできて、「ん? こいつ根性のあるっていうヤツ、意外にこんなんで折れるの?」って。
不屈の精神で俺の右に出るのは今のところ見たことないから。今、ちょうど30年間トーナメント戦勝ち上がってきてるから。
このまま行って挫折がなかったら、“Never give up”をこの先も続けられれば、何のタイトルかわからへんけど、優勝カップを手にするかもしれないよね。何やろなあ? 何のカップかわからへんけど、チャレンジし続けるカップやね。こんなに負けてんのに。
揚げ句の果てに、ドリブルとか技術とか、サッカーで勝たれへんのわかったから、
今、自分がやろうとしてる世界一は有言実行せなあかんっていうプライドがあるから。
*明日の「かっこいい人物像」に続く
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