最新の製造ロボットが勢ぞろい、スマート化が進む米EMS企業の進化
2017/6/1
シリコンバレー郊外の大きな建物
シリコンバレーに、数々の新しい製造ロボットが見られる場所がある。
人間と並んで作業をするコー・ロボットも、アメリカのリシンク・ロボティクス社製、デンマークのユニバーサル・ロボッツ社製、スイスのABB社製、日本の川崎重工業製などがそろっている。
それ以外にも、細かな作業をするロボットが収まったセルがいくつも並んでいたり、3Dプリンティングの最新機器が積まれていたりする別の部屋もある。
ここは、ジャビルという大手委託製造業者(EMS)のイノベーションセンターで、サンノゼ郊外の大きな建物の大部分を占め、自社の製造体制や最新技術をアピールする場所になっている。最新のロボットが並んでいるのもそのせいだ。
シリコンバレーでのロボット関連のイベントもよくここで開かれ、いくつものロボットアームが動いているのをガラス越しに見られるのは、雰囲気満点といったところだ。
多岐にわたる顧客企業の産業数
このジャビルという会社は本社がフロリダにあり、EMSとしては珍しいアメリカ企業である。シリコンバレーにイノベーションセンターを作ったのは、数年前。やはりテクノロジー関連の顧客企業の近くに位置していることが重要だと感じたからという。
もちろん、本当の製造現場はこことは様子が異なるのだろうが、このイノベーションセンターに来るとEMSがどんどんスマートになっていて、常に新しい製造技術を取り入れ、データも駆使して製造方法や製造地を不断に最適化しているのが感じられる。
日本は垂直型産業でメーカーが製造部門も抱えてきたのだが、こうしたEMSを見ていると、まるで別の生き物という感じだ。中国のEMSのイメージともまた違っている。
まず、顧客企業の産業が多岐にわたっている。デジタルデバイスに限らず、自動車、家電、IoT製品、医療製品、航空、そして一体何を作るのか、スマートシティまで挙げられている。
また、世界数十カ国に100カ所以上の製造拠点を構えていて、顧客の拠点、市場、運送費などを考慮して、最も適した場所で製造を行っている。
もちろん、考慮するのはそれだけではなく、労賃や工場の不動産、税金、燃料、為替レートなども関わってきて、その変化を刻々とデータで把握し、途中で製造場所を変えたりすることもあるようだ。
すでに多品種少量生産に対応中
そして、ここはラボでもある。ロボットや3Dプリンティング技術を特定の製造プロセスにどう統合できるかを試す場所でもあると同時に、顧客企業がやってきて製造や設計、プロセス開発について短期間でブレーンストーミングしたりする場所でもある。
要は、多様な顧客や産業での経験から蓄積される知識は、どれほど大きいだろうと感じさせるのだ。
以前話を聞いた時に興味深かったのは、こうしたEMSでもすでに多品種少量生産に対応し始めているということだった。これまでは多品種中量生産が主だったというが、若者向けのウェアラブルやフットウェアなどはもう生産のパーソナル化という範疇に入っているらしい。
もうひとつ、これから製造は市場に近い場所で行われるようになるという点。中国での労働コストが上がって欧米と同程度になり、また製造技術がさらに進むので、高くても技能のある労働力こそがそうした技術を用いて優れた生産性を達成できるというのはよく聞く話だ。
普段ロボットを近視眼的に見ていると、こうした大きな絵を忘れがちになるが、新しいロボットもこうした大きなコンテキストの中でこそ、その意味がよりわかるのだ。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文・写真:瀧口範子)