日本で“産業の新陳代謝”を進めるためには、何が必要か

2017/5/29
NewsPicksは、J-WAVE「STEP ONE」(毎週月~木 9:00~13:00)と連携した企画「PICK ONE」(毎週月~木 11:10~11:20)をスタートしました。
29日は、Groove Xの林要さんが出演。「スタートアップに挑戦できる最後の世代」(Taka Umada)を題材に、日本の産業を取り巻く「新陳代謝」の問題について解説しました。

産業の新陳代謝が必要

サッシャ 今日は、「スタートアップに挑戦できる最後の世代」というトピックにフォーカスです。
寺岡 解説してくださるのはNewsPicksの公式コメンテーター「プロピッカー」の林要さんです。
林さんは、トヨタ自動車でスーパーカー、レクサスなどの開発に携わった後、人型ロボット・Pepperの開発も担当されました。
そして2015年末、ロボットベンチャーGroove Xを起業しています。おはようございます。
 おはようございます。
サッシャ これはどういうニュースなのか、改めて内容を教えていただけますか?
 最近話題になった経産省の「次官・若手プロジェクト」でも提起された、今後のシルバー民主主義、いわば高齢者が多くなった時に、「私たちがどうやって経済を発展させていけばいいのか」という問題と関連したものです。
今の時代は、選挙でいうと、全体の投票数の約半数が、55歳以上によるものです。ということは、「55歳以上の人々の不安をもとにした民主主義になっている」と言えるわけです。
サッシャ 当然ながら、その世代の意見が通りやすくなっていると。
 そのなかで、「どういう未来にかけるか」というとき、どうしても挑戦的な産業の革新などには、目が向きにくくなります。
寺岡 老後の不安とかになりますよね。
サッシャ 医療費とかね。
 そうです。その政策を見て、残りの半分である若い人たちが、不安になってしまう。「僕らは、それを支えるためだけの人生になってしまうんじゃないか」と。
その結果として、この経産省の若手メンバーが「不安な個人、立ちすくむ国家」と言ったわけです。こうした議論をするうえでは、非常にいい呼び水になったと思います。
私も、これを課題だと思っています。私自身、もともと大きな会社にいて、「この閉塞感の中で、どうやったら次世代をつくれるのだろうか」と考えていました。
私がたどり着いた結論は、「産業には新陳代謝がいる」ということ。組織は、どうしても自己保身をしてしまう。組織を継続させるために、色んなバイアスが働いてしまう。
けれど、たとえば自分の体を考えてみると、僕らは「いかに自分の新陳代謝を促進するか」を頑張りますよね。古い細胞を出して、新しい細胞をつくっている。
それなのに、組織単位ではなかなかできないわけです。この話と、今回の次官・若手プロジェクトの話が、私の中で非常にマッチしているんです。

“シリアス”なスタートアップ

サッシャ この記事では「スタートアップに挑戦できる最後の世代」とされていますが、今後はそれができにくくなるということですか?
 今、見方を変えなければできなくなります。これまでの延長であれば、新しい未来を築くことができない。でも、その不安を乗り越えて、未来に対する一歩を選択することができれば、きっと新しい世界をつくることができると思います。
これは、たとえば先週話題になったマーク・ザッカーバーグがハーバード大学で行った卒業スピーチともつながります。
彼が大事にしているのは、各人が役割を持って自分の人生を生きられること、そして、その役割に対して、ちゃんと周囲からの評価を得られること。
このサイクルを回していくことができれば、みんなが思う存分チャレンジができて、新しい産業が生まれるんじゃないか、新陳代謝が出来るんじゃないか、と言っているんです。
これらは、私の中では全部つながっています。結局、僕らはお金のある既存の成熟産業にぶら下がっているだけでは、新陳代謝は決してできない。そこを、あえて新しい世代が壊しにかからないといけない。
それを、ザッカーバーグのように成功した人でさえも「やらなきゃいけないんだ」と言っているわけですから、日本でもやらなければいけない。
今、日本のスタートアップやベンチャーで盛り上がっているのは、ゲームやSNS、動画共有サービスといった、比較的ライトな産業です。
けれども、アメリカの西海岸や中東では、シリアスな領域まで、スタートアップが進出しています。
サッシャ たとえば、どういうものでしょうか?
 分かりやすいもので言うと、イーロン・マスクのテスラやスペースXです。
いわば、フォードやNASAができなかったことを、スタートアップがやってしまう。こういった流れが、産業の新陳代謝でとても大事なんですよね。
でも、日本ではまだ本格化していません。ザッカーバーグのスピーチも、次官・若手プロジェクトも共通して私たちに訴えているのは、未来を見て挑戦し続けなくちゃいけない、ということじゃないかと思っています。
寺岡 もともとある産業や歴史のある会社には、そこにおける信頼が強いので、新規参入や若手が頑張っても、認められにくいイメージがあります。
 それがネックになって、大企業の中で新規事業開発部とか、立ち上がらないわけですよね。彼らは社内ではすごく一生懸命やるんですけれど、結局自分の会社のブランディングに傷をつけないような選択しかできないので。
寺岡 リスクを恐れるんですね。
 それで結果として、新しいことが起きない。これは、イノベーションのジレンマとして、知られていることなんですよね。

日本で増やすべき“体験”

サッシャ 日本は戦後の焼け野原から高度成長期にかけて、若い人たちが新しい産業をゼロからつくっていきました。ところが、今は成熟しているがために、なかなか違うことをするハードルは高いんじゃないですか?
 おっしゃる通りだと思います。やはり、アメリカはこの課題に一足早くぶつかっているわけですね。なので、高度成長期の日本について勉強して、日本の方法を学んで体系化しているわけです。
これに対して、日本は高度成長期に上手くいってしまったので、その世代の人が親として「大企業に入ればいい」「安定して生きればいいんだよ」という教育を子どもにしちゃっているんです。
サッシャ 昔のレールをそのまま走れ、と言っているんですね。
 そうした親の成功体験をベースに子どもたちが生きているので、なかなかチャレンジできない。だけど、もう切り替えないと次にいけない。
サッシャ そのためには、どこをどう変えればいいですか? このコーナーでは教育から変えることがよく話題になるのですが。
 一番大事なのは、「隣の友達がチャレンジをして何かで成功した」という体験を増やすことだと思うんです。
次官・若手プロジェクトでも言われているんですけれど、転職者の数は昔と今で比べると、若干減っているくらいだそうです。
やはり、流動性が確保されていないんですよね。シリアスな産業を立ち上げるために大事なのは、実はシリアスな産業に携わってきた人が外に出ることなんです。
なので、今の大企業にいる人たちがチャレンジすることによって、「軽くて勢いでウェーイ」ではないスタートアップが、生まれると思います。
サッシャ そこで必要なのは、応援してくれる空気感ですね。
 「それをやらないとカッコ悪いよね」というくらいの勢いが必要だと思います。
サッシャ その空気感が、実は一番根っこが深いのかもしれませんね。また、この点は掘り下げてみたいと思います。ぜひ続きの話もさせてください。
林さん、ありがとうございました。
 ありがとうございました。
※本記事は、放送の内容を再構成しています。
今回のニュースをはじめとした林さんのコメントは、ぜひ以下からチェックしてみてください。
30日は東京大学大学院准教授の牧野泰才さんが出演予定です。こちらもお楽しみください。

【番組概要】放送局: J-WAVE 81.3FM
番組タイトル: PICK ONE
ナビゲーター: サッシャ、寺岡歩美(sugar me)
放送日時: 毎週月~木曜日11:00~11:20(ワイドプログラム『STEP ONE』内)
番組WEBサイトはこちらをご覧ください