昔ながらの資産管理会社は、いかにして世界有数の重要なテクノロジー投資会社になったのか。

創業109年、スコットランドの「ユニコーンハンター」に迫る(前編)
「デジタル取引市場」の急速な成長
ベイリー・ギフォードは機関投資マネージャーの色合いが濃い。管理している総資産の64%は年金資金であり、残りのうち19%は「サブ・アドバイザリー」、つまり別の金融機関に代わって運用する資産だ。
また、顧客の45%はカリフォルニア州職員退職年金基金(CALPERS)やフロリダ州管理理事会を始めとする北米の投資家となっている。
ベイリー・ギフォードのシグネチャーファンド、スコティッシュ・モーゲージの共同マネージャーであるトム・スレーターによると、公開市場の枠組みにこだわらず「急成長するテクノロジー企業が新規株式公開を行う前に支援を始める」という同社の方針は、必要に迫られて始めたものだったという。
ウーバーやエアビーアンドビーのような「デジタル取引市場」は、労務費や資本コストなど関連コストの多くを負担しなくてもサービスを提供できるため、通常よりもはるかに急速な成長が可能だ。
資金調達のために株式を上場したり、支援してくれるベンチャーキャピタルに出口を提供したりする必要がない。したがって、投資家がこうした企業にアクセスするには、後期の非公開資金調達ラウンドに参加するしかないのだ。
「株式市場には、エアビーアンドビーのような会社はない」と、スレーターは言う。「わたしたちはVCの役割を果たすつもりはない。これらの企業は、そういう特殊条件さえなければ、上場されている可能性が高い立派なビジネスだ」
「非上場企業への投資」というリスク
しかし、この戦略にはかなりのリスクも伴う。
たとえば、イギリスの広告テクノロジー会社であるビー・インタラクティブや人事管理と保険サービスのゼネフィッツ、クラウドコンピューティングのクラウドフレアなど、一時は高く評価されたユニコーンでありながら、数十億ドルの評価額が一気にしぼんだ例も数多く存在する。
また、非上場企業の株は公開株式よりもはるかに流動性が低い。ベイリー・ギフォードが非公開企業への投資をもっぱらクローズドエンド型ファンドで行うようにしている理由は、そこにある。そうすれば、投資家への償還に応じるために、非流動資産の売却を強いられる可能性を回避できるからだ。
それでもなお、スコティッシュ・モーゲージの理事会はファンドの非上場企業へのエクスポージャーを25%以下とする規則を公式に定めている。
スクエア・ミル・インベストメント・コンサルティング&リサーチのシニア投資調査アナリスト、アンドリュー・ジョンストンによれば、そうした非公開企業への投資は本質的にリスクが高いが、並外れて大きなリターンを生むポテンシャルは無視できないという。
既存の価値基準を破壊する企業を探す
39歳になるスレーターは、エジンバラ大学でコンピュータ科学と数学を学んだ。彼はシリコンバレーのエコシステムをより深く理解するべく、視察にかなりの時間を費やしている。家族全員でサンフランシスコへ引っ越して、数カ月にわたって生活する長期滞在を3度も経験してきた。
だが、スレーターは自分自身、あるいはベイリー・ギフォードの長所がテクノロジーそのものの理解にあるとは思っていない。いくつかの注目すべき例外はあるものの、ベイリー・ギフォードは、ハードウェアメーカーや純粋なソフトウェア企業は避けてきた。
スレーターによると、探しているのはテスラが目指すような家庭とクルマの両面でのグリーンパワーの成長、あるいはアマゾンの「何でもストア」のアイデアのような「複合的な大きなチャンス」であり、既存の価値基準を破壊するようなビジネスモデルだ。
ネットフリックスのようなエンターテインメントであれ、アリババのような小売業であれ、あるいはフェイスブックやテンセントのような広告主導型ビジネスであれ、そうしたものの多くが、たまたまテクノロジーによって実現しただけなのだ。
また、ベイリー・ギフォードが関心を持つのは、たとえばアリババやテスラのように、いまも創立者が采配を振るっている企業だ。
「ベゾス会長が、いまだに積極的に実務に関わっていることが重要だ」と語るスレーターは、アマゾンとほぼ同時期にイーベイを創立したピエール・オミダイアは「ハワイでいい暮らしをしている」と指摘する。
つまり、その違いを知っていれば、アマゾンが支配的な立場に立ち、イーベイが苦戦している理由は簡単に説明できるということだ。
本腰を入れなかった理由を検証する
スレーターによると、ベイリー・ギフォードは自分たちの失敗から学ぶことに相当な時間をかけている。
ここで彼が「失敗」と言うのは、100ドルで買った株がすぐに50ドルに下がったというようなことではない。50ドルから250ドルに跳ね上がった株に、おそるおそるしか手を出していなかったことを反省し、なぜもっと本腰を入れなかったのかを明らかにする検証作業に多くの時間を費やしているのだ。
そのひとつの例が、現在スコティッシュ・モーゲージのポートフォリオの約1%を占めるエヌビディアだったとスレーターは話す。
ベイリー・ギフォードは、エヌビディアへの投資が人工知能分野の成長に賭けるひとつの方法になることを理解していた。エヌビディアのGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)は、機械学習関連の用途で大きな需要があったからだ。
しかし、ベイリー・ギフォードはテック・ハードウェアへの投資における予想の難しさを懸念したとスレーターは言う。「わたしたちは、弱気すぎるポジションサイズを取ってしまった」
ベンチャーキャピタルとは異なり、ベイリー・ギフォードは純粋な金融投資家だ。よって、ポートフォリオに収めた企業に役員を送り込んだり、経営上のアドバイスをしたりすることはない。
またスレーターが言うように、VCではないがゆえに投資をする時点で出口戦略を考えることもない。「うまく行っている限りは、株を売って儲けようとは考えない」
企業文化への信頼が損なわれるケース
とはいえ、これはベイリー・ギフォードがもっぱら受動的な投資家であることを意味するものではない。
スコティッシュ・モーゲージでスレーターとともにマネージャーを務めるジェイムズ・アンダーソンは報道機関に対し、2016年6月にテスラが不振にあえいでいたソーラーエネルギー企業であるソーラーシティの買収を決めたとき、最初は不満を感じたと述べている。
ただし、スレーターによるとベイリー・ギフォードは入念な分析とテスラとのディスカッションの末に、ソーラーシティを買収するというテスラの決定を最終的には支持することにしたという。
ベイリー・ギフォードにとって通常最も難しい判断は、投資をするかどうかではなく、いつ売るべきかの判断だとスレーターは話す。
投資先の会社の何かが変わった結果、その企業文化への信頼が多少なりとも損なわれると、それは離脱を考えるひとつの理由になる。たとえば、創立者CEOの退職がそれにあたる。
また、潜在的能力を長年にわたって発揮できていないと思われる会社も、売却を検討する対象と見なされる。「特に明確な問題がなくても、潜在的長所が衰えている」と、スレーターが表現するようなケースだ。
アップルの株を売却した本質的理由
そして、あらゆる面で順調であるにもかかわらず、大きな成功を収めすぎたせいで、もはやそれまでと同様に成長する余地がなくなった会社がポートフォリオから外される場合もある。
スレーターによると、2016年にベイリー・ギフォードが2008年以来所有していたアップルの株を売却した理由はそこにあった。アップルには「もう出荷数が何十億台にもなるような新しい市場はない」と彼は述べる。
いっぽう、アルファベットやフェイスブックへのベイリー・ギフォードによる投資については、アップルと同様の懸念があるとは思わないとスレーターは言う。多くのアナリストが、両社にはこれまでと同様の高いレベルの成長を続ける余地はなくなりつつあると予想しているにもかかわらずだ。
「人工知能と機械学習がカギとなるなかで、フェイスブックやグーグルのようなリーダー的企業は、ネットワーク効果によって他社を凌駕し続けると考えている」
機械学習技術の多くは、大量のデータで訓練されることでより良い結果をもたらす。つまり、莫大な量のデータにアクセスできるアルファベットやフェイスブックのような企業が有利になるということだ。また、これらの企業には膨大な計算能力があり、コンピュータ科学のトップレベルの人材も揃っている。
だが、スレーターも認めているように、ベイリー・ギフォードはごく少数のビジネスが重視されすぎることも懸念している。
「本当に世界を変えるような潜在能力を持った企業は、それほどたくさんあるわけではない。難しいのは、こうしたわずかな有名企業が集中する一方で、過小評価されている企業が見当たらないことだ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jeremy Kahn記者、翻訳:緒方亮、水書健司/ガリレオ、写真:ChrisHepburn/iStock)
©2017 Bloomberg News
This article was produced in conjuction with IBM.