昔ながらの資産管理会社は、いかにして世界有数の重要なテクノロジー投資会社になったのか。
ベゾスが英国で唯一、定期的に会合
アマゾンの創業者で最高経営責任(CEO)を務める大富豪のジェフ・ベゾス会長は、投資家とのおしゃべりに多くの時間を費やさない。アマゾンの株を所有するファンドマネージャーたちと毎年、わずかな数の会合をもつだけだ。
だから、英国にやってきた時に定期的に会う投資会社は1社だけ。その名はベイリー・ギフォードという。
ベイリー・ギフォードは、スコットランドのエジンバラを拠点に1590億ポンド(約22.9兆円)を管理する創業109年の資産運用会社だが、英国でさえも名が通っているとは言いがたい。
同社はこの10年間で、世界でも有数の活発なテクノロジー投資会社として浮上し、シリコンバレーと深センで影響力のある数少ない欧州の投資会社のひとつになった。
アマゾン以外にもフェイスブック、アルファベット、ネットフリックス、セールスフォース、NVIDIA、テスラのほか、百度、テンセント、アリババなどの株を相当数、所有している。
世界の主要なテクノロジー拠点からは遠く離れたスコットランドにある昔ながらの運用会社が、どのような経緯でトップクラスのテクノロジー投資会社になったのだろうか。
1907年、共同法律事務所として創業
ベイリー・ギフォードは1907年、オーガスタス・ベイリー大佐とT.J.カーライル・ギフォードによる共同法律事務所として始まった。翌年、フォードの新しい自動車「モデルT」のタイヤに原料を提供していたマレーシアとスリランカのゴム園に資金を貸す機会があり、ふたりは業務を投資管理に切り替えた。
会社はすぐに業務を拡大した。1920年代には米国の鉄道、それから自動車や製鋼所というように、20世紀中期の米国の成長株を支援していった。
1960年代には、国際投資会社としてはいち早く日本に進出。それでも、ベイリー・ギフォードは変わらずエジンバラに根ざしており、43人のパートナーも大半がエジンバラを拠点としている。
ベイリー・ギフォードはこの5年間で、フィデリティやT.ロウ・プライスのような米国の資産運用会社とともに、世界への野心があり急成長する未公開のテクノロジー企業を支援するようになった。
ベイリー・ギフォードが支援する「ユニコーン」(評価額が10億ドルを超える未公開企業)には、エアビーアンドビー、スポティファイ、ドロップボックス、ビッグデータ解析で最近注目されるパランティア・テクノロジーズのほか、インドのeコマース大手であるフリップカート、インドにおけるウーバーのライバルであるオラ、英国のP2Pレンディング企業であるファンディングサークルなどが名を連ねる。
4月中旬、そこに新たに1社が加わった。ウーバーと競合するライドヘイリングサービスであるリフトが、評価額を75億ドルとする6億ドルの資金調達ラウンドを実施し、ベイリー・ギフォードら6社が出資を行ったのだ。
テクノロジー投資の「成績」をどう見るか
こうしたテクノロジー投資の後押しもあって、ベイリー・ギフォードのシグネチャーファンドであるスコティッシュ・モーゲージ・インベストメント・トラスト(上場されているクローズドエンド型投資ファンドで、市場価値51億ポンド)は、2017年4月末までの10年間の費用差引前運用収益率が年率14.6%だった(ブルームバーグのデータによる)。
これに対し、ほかのグローバル株式ファンドやベンチマークであるFTSE世界TR指数は、約9%しかない(ファンド調査会社モーニングスターによる)。
ベイリー・ギフォードの投資のすべてがうまくいっているわけではない。ベイリー・ギフォードは、議論の多いベルリンのテクノロジーインキュベーター、ロケット・インターネットSEの主要な後ろ盾となっている。
シリコンバレーのビジネスモデルを模倣することで有名な起業家オリバー・サムワーとその兄弟が経営するロケットの4番目の株主として、複数のポートフォリオで株式の6.5%を所有しているのだ。
また、食材配達のハローフレッシュや家具のオンライン販売のホーム24といったロケットの大きめのポートフォリオ企業の一部に対し、個々の資金調達ラウンドでリーディングインベスターを務めてきた。ロケットの株価は、2014年10月の新規株式公開以降、58%下落している。
スコティッシュ・モーゲージの共同マネージャーであるトム・スレーターは「ドイツのスタートアップ工場」に対するベイリー・ギフォードの関わりについて、ベルリンはシリコンバレーに匹敵するテクノロジーハブになる可能性があり、ロケットへの投資はそうしたベルリンにおけるテクノロジーシーンの分配にあずかる良い方法だと会社は考えたのだと弁護する。
フォード「モデルT」からテスラ「モデル3」へ
しかし、ファンド調査会社モーニングスターのシニアアナリストであるデイビッド・ホルダーは、スコティッシュ・モーゲージは「未亡人や孤児たちのためのファンドではない」と警告する。
スコティッシュ・モーゲージは、2008年の金融危機の際に打撃を受けて市場価値の約45%を失った。
さらに2011年には、バイオテクノロジー企業のイルミナ、スペインのサンタンデール銀行、農業機械メーカーのディア・アンド・カンパニーのほか、ヴァーレやKGHMポルスカ・ミエズといった複数の資源開発企業の成績不振で15%以上を失った。
2016年の収益率は2桁だったものの、ベンチマークに7ポイント以上、同業他社に5ポイント以上の差をつけられた。「それでも、長期的に所有するならプラスになる可能性はかなり大きい」とホルダーは述べる。
スコティッシュ・モーゲージの共同マネージャーであるスレーターは、ベイリー・ギフォードによるテクノロジー株中心の長期ファンド「グローバル・グロース・ファンド」の意思決定者のひとりでもあり、その北米投資デスクを運営している。
そのスレーターによると、ベイリー・ギフォードはつねに何からの形でテクノロジーに注力してきた。フォードのモデルTからテスラの「モデル3」というのは大きな飛躍ではないとスレーターは主張する(ベイリー・ギフォードは、テスラ株の8%を所有する第3位の株主だ)。
2004年のポートフォリオ再編が契機
ベイリー・ギフォードの現在のテクノロジー株への関心は、FTSE世界指数に届かず成績にムラが生じた期間を受けて、2004年に実施したポートフォリオの再編に由来する。
この時、スレーターと同じスコティッシュ・モーゲージの共同マネージャーだったジェイムズ・アンダーソン(57歳)が、西欧の石油メジャーへの長年にわたる投資をやめて、最初のドットコムブームとその崩壊を生き延びて小売業界を揺るがせていたアマゾンとイーベイの2社への投資を始めたのだ。
「アマゾンへの投資は、テクノロジー投資という点で、現在のわれわれの位置までの道程におおいに関係している」とスレーターは話す。「ベゾス会長と彼の手法からは多くを学んだ」
そのころの教訓のひとつは利益よりも成長、つまり会社が進めているイノベーションへの投資や取り組もうとしている市場の大きさを重視するというものだった。
スレーターによると「利益とは、アイデアが尽きたときに手にするものだ」というベゾス会長の言葉は、自分だけでなくベイリー・ギフォードの同僚であるポートフォリオマネージャーたちのお気に入りだという。
ベイリー・ギフォードがアマゾンに投資した最初の年、アマゾンの株価は50%近く下落した。それでも、スコットランドの投資家たちは同社の株を手放さなかった。この最初の投資は、今では15倍にふくらんでいる。ベゾス会長とアマゾンは、この記事のための質問への回答を断わった。
※ 続きは明日掲載予定です。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jeremy Kahn記者、翻訳:緒方亮、水書健司/ガリレオ、写真:ChrisHepburn/iStock)
©2017 Bloomberg News
This article was produced in conjuction with IBM.