バイオテクノロジーは、自分が付き合っていく未来

2017/5/25
NewsPicksは、J-WAVE「STEP ONE」(毎週月~木 9:00~13:00)と連携した企画「PICK ONE」(毎週月~木 11:10~11:20)をスタートしました。
25日は、ロフトワーク代表の林千晶さんが出演。「人の性質は後天的に変わる? 遺伝子工学の新たな常識」(NewsPicks編集部)を題材に、遺伝子工学の最前線についてお話しました。

使われている遺伝子は1〜3%

サッシャ 今日は、「人の性質は後天的に変わる? 遺伝子工学の新たな常識というトピックにフォーカスです。
寺岡 記事についてお話ししてくださるのは、NewsPicksの公式コメンテーター「プロピッカー」の林千晶さんです。
林さんはロフトワーク代表として、Webデザインやビジネスデザイン、空間デザインなど年間200件を超えるプロジェクトを手がけ、グッドデザイン賞の審査員もされています。
 おはようございます。
サッシャ おはようございます。気になるタイトルですが、これはどういうニュースなのでしょうか。
 生まれた時に遺伝子は決まっているのですが、生き方によって遺伝子の働き方が変わって人の性質も変わることが見つかった、というすごく面白いニュースなんです。
サッシャ 遺伝子自体は変わらない?
 そう、遺伝子は変わらない。でも、遺伝子ってものすごく長くて、30億塩基対って言われているんですが、普段生きている時には1〜3%くらいの遺伝子しか使っていないんです。
サッシャ え! 残りの遺伝子は全く使っていないんですか。
 使っていないんです。私たちが感じているストレスや、何を食べているかによって、どこの遺伝子のスイッチがオンになるかオフになるか、変わるんです。
それによって、性格とか体質も変わることが見つかってきています。それが「エピジェネティクス」という新しい領域なのです。
サッシャ じゃあ、先天的に決まっているわけじゃないんですね。
 残り90%以上が使われていないんですよ。遺伝子のどこが何によって起動しだすのか、なんて考えると、夢があるなと思います。
サッシャ すごい! いくらでもチャレンジすれば、自分の中に眠っているものがよび起こされることがあると。
 記事のなかで、入山(章栄)先生と胡桃坂(仁志)先生が例に挙げていたのが、飢餓状態が長く続いた女性は、遺伝子の中でエネルギーの吸収を高める遺伝子が動くようになるんです。
すると、どんどんエネルギーを摂りやすくなって、太りやすくなる遺伝子が働く。それは、子供にも遺伝するようになるんですよ。
サッシャ ええ!
 だから、遺伝子だけじゃなくて、後天的に獲得したことも遺伝しちゃうんです。
サッシャ つまり、もともとその女性はこの遺伝子があんまり活動していなかったんだけども、ダイエットすることで栄養の吸収率が高くなる遺伝子が動くようになると。
その状態で子供を産むと、子供も遺伝子が動いた状態になるんですね。

腸内環境が感情にも影響

 だから、人がどれだけ笑っているかという精神状態も影響してくるし、食べ物でも変わってくるんじゃないか、とわかってきているんです。
サッシャ 食べ物とは?
 食べ物によって変わってくるのは、遺伝子の状態だけじゃなくて、微生物との関係にも関わってくると言われています。
遺伝子領域でわかっているのが、私たちは100兆個の微生物と一緒に住んでいると言われているんです。
サッシャ 100兆もいるんですか。
 それで、微生物が微量な電流を渡し合うんですよ。人間は微生物の状態でも変わってくる。
お腹の中にいる微生物が「もっと食べたい」と言って、太っちゃうこともあるんですよ。
サッシャ それも遺伝子工学でわかってきたんですか。
 だから今、「腸内を整えましょう」と言われているのは、特に腸が人間の感情や食欲に影響していることがわかっているからなんです。
昔の人も、それがわかっていたのかなと思うのは、「腹黒い」って言いますよね。でも、「頭黒い」とは言わないじゃないですか。
だから、腹に黒いものを秘めていると「なんか、お前嫌なこと考える奴だな」って昔の人はわかっていたんだと思う。
サッシャ そういう発想が昔の人間にはあったと、遺伝子工学なんてわかる前から。
 だから「腹を斬る」とか「腹落ちする」という言葉があるのだと、私は想像しているんですけど(笑)。
サッシャ そうすると我々は「先天的に大体決まっているから、こんな性格直せない、無理無理!」なんて言い訳にもしちゃいますが、そうじゃないとなれば、これからどんなことを意識していけばいいですか?
 意識していくというか、そこにこれから大きな市場が生まれると言われていて、2030年までに300兆円の市場になると予測されているんです。
遺伝子の分析を含めて、バイオテクノロジーの市場が急拡大していくと見込まれているのです。
それは、遠いものではなくなっています。微生物との関係がわかっているので、バイオテクノロジーは科学者に任せるものではなく、「自分が付き合っていく未来」になればいいなと思っています。
例えば、私はバイオクラブという、みんなでバイオのことを勉強するクラブを開いています。

未来のために能力を高める

サッシャ バイオテクノロジーの研究は、どこまで進んでいるんですか?
 一番大きいのは2013年に開発された「CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)」という、遺伝子をものすごく正確に編集できる技術です。
例えば、日本でも注目されているスパイバーという人工蜘蛛糸のベンチャー企業では、蜘蛛をいっぱい飼うんじゃなくて、蜘蛛糸をたくさん作る遺伝子を引っ張ってきて、微生物に培養させるんです。すると、蜘蛛がいっぱいいなくても蜘蛛糸が生産される。
サッシャ そんなことができちゃうんですか。
林 できちゃうんです。他の例では、バナナの香りの部分だけを作るDNAがわかっているので、その部分だけを引っ張ってくると香りだけを作れる。
サッシャ 芳香剤に使うとか。
林 そうです。今は芳香剤とか調味料って、基本的に化学的に作られていますが、それを微生物に遺伝子レベルの情報を組み込んで作るんです。
それは「スマートセルインダストリー」と言って、細胞が工場になる、と言うビジョンも出ているんです。
サッシャ アメコミファンとしては、蜘蛛糸を自分の手から出せるようになるんですかね? スパイダーマンみたいに。なれます?
林 残念ながら、それは無理ですね。なぜ微生物かというと、微生物は細胞は増殖するからできるんです。
でも人間は増殖しないから、残念ながら人間では難しいと思います(笑)。
サッシャ そうかあ(笑)。どんな未来が待っているのでしょうか。我々の日常生活だと。
 台所にジューサーがあるように、「この味作ろう」と培養するみたいなことになるといいなと思います。
怖い未来じゃなくて、生活の中に日常的に入ってくる時代になるんじゃないかな、栄養剤のように。そんな未来かな。
サッシャ それは、クローンのような倫理的な問題は大丈夫なのでしょうか?
 クローンについて言えば、生命を複製するとイメージするから怖くなるんですよ。
そうじゃなくて、もっとちっちゃい単位で、つまりビタミンを複製するのと同じような感覚であれば、私たちはすでに日常的に製造して摂取しています。
もっと身近な感覚で、「高度な味噌づくり」をするような感じですね。
サッシャ 人の特技とか、テリー(寺岡)の歌が上手い部分を引き抜いてもらって僕に、とかもできるといいですね。
 生活だけじゃなくて、そういう能力を高めることが自分のためだけじゃなくて子供のためにもつながると思うと、もっと頑張れる気がしますよね。
起業家マインドも性質として遺伝するんじゃないかとかね。
サッシャ 日進月歩なんですね。進展があったらぜひ、最新情報を教えてください! 林さん、ありがとうございました。
林 ありがとうございました。
※本記事は、放送の内容を再構成しています。
今回のニュースをはじめとした林千晶さんのコメントは、ぜひ以下からチェックしてみてください。
来週29日はGroove Xの林要さんが出演予定です。こちらもお楽しみください。

【番組概要】放送局: J-WAVE 81.3FM
番組タイトル: PICK ONE
ナビゲーター: サッシャ、寺岡歩美(sugar me)
放送日時: 毎週月~木曜日11:00~11:20(ワイドプログラム『STEP ONE』内)
番組WEBサイトはこちらをご覧ください