中国とつながりがある約324社が米証券取引委員会 (SEC)に登録。資産運用担当者は中国から米国への資金の流れに乗じる。

2016年までに324社、2012年の2倍

緑豊かで、今でも恒例のリトルリーグパレードが行われるニュージャージー州マウンテンサイドに新しいヘッジファンドが開設されたとき、その資金の大半を提供しているのが中国の富豪、蔡奎(Cai kui)だとはだれも想像しなかっただろう。
このヘッジファンド、ウエストフィールド・インベストメントは、元ゴールドマン・サックス・グループのマネジング・ディレクター、Renyuan Gaoが創設し、今年1月の時点で1億3900万ドルを運用していた。
世界第2の経済である中国から米国に資金が流入するなかで、米国に次々に開設されている新たな中国系の資産運用会社の1社だ。
米国に資産運用会社を設立している中国人には、著名人も含まれている。航空会社とホテルの複合企業、HNAグループを率いる陳峰(Chen Feng)も米国に資産運用会社を設立し、中国本土第2の不動産会社、万科企業が間接的に同社の大株主になった。
申請書類によると、2016年末までに中国本土や香港と金融面でつながりがある約324社が規制当局に登録した。2012年の2倍以上に上る。

中国から大量に流出した資金を運用

米国に設立された資産運用会社が頼りにしているのは、債務問題や不動産バブル、ここ2年で対ドル相場が約11%下落した人民元を巡る懸念によって中国から流出した資本だ。
アメリカン・エンタープライズ研究所の中国担当エコノミスト、デレク・シザースによると、人民元の流出は資本流出が2014年の700億ドルから16年には2200億ドルと3倍に増えた国際収支の統計に反映されている。
シザースは「米国には大量の中国マネーがあふれている。運用担当者だったら、ここに来ない理由はない」と語る。
資金の移動と同時に、中国企業はニューヨークのコーエン・グループのような金融会社やシカゴ証券取引所など米企業を次々に買収している。1882年創業の同取引所の買収を主導したのは重慶財信企業集団だ。同案件は米国の委員会が国家安全保障上の理由で審査を行い、12月に承認された。
陳のHNAグループの子会社が1月、アンソニー・スカラムッチ率いるニューヨークのヘッジファンド、スカイブリッジ・キャピタルへの出資で合意したのも政治的含みがある。
合意が発表されたのは、スカラムッチの政権入りの可能性が報道された後だったため、HNAの動機には政治的な面もあるのではないかとの観測が飛び交った。
政権入りが結局実現しなかったスカラムッチは、HNAがトランプ政権に対する影響力を得ようとしているとの見方を否定した。

米証券取引委員会への登録は容易

中国関連企業のSEC(米証券取引委員会)への登録は、それほど精査されてこなかった。SECは金融規制改革法(ドッド・フランク法)の成立を受けて、2012年からヘッジファンドや買収ファンドの登録を義務づけるようになった。
2016年までに登録した中国企業の約30%は本格的な資産運用会社で、その他は米国でより限定的な活動を行う非課税の投資顧問会社だった。
中国の資産運用会社が専門の金融マーケティングコンサルタント、マイケル・マコーマックは「米国で登録するのは、中国で資産運用会社として登録するのに何カ月、何年もかかることを考えればそれほど難しくない」と語る。
数社は万科も含めて政府や国有企業とつながりがある。登録した資産運用会社の中には、中国、香港、台湾に投資する予定の企業も、不動産のような米国資産に投資したり、ベンチャーキャピタルとしてシリコンバレーのスタートアップ企業に出資する計画の企業もある。
万科ホールディングスUSA は商業不動産を取得するため、米国の不動産専門企業数社とともにブライトストーン・キャピタル・パートナーズを設立した。万科ホールディングスのマネジング・ディレクター、李凱彦(Kai Yan Lee)は「多くの機会があるのは間違いない」と語る。
中国の大手金融会社は、いくつかのスタートアップ企業に出資している。
クレディスイスと国有の中国工商銀行(ICBC)の資産運用合弁会社である香港のICBCクレディスイス・アセット・マネジメント・インターナショナルは、昨年5月にSECに登録した。香港の大手資産運用会社の1社である同社は、米国のファンドを提供する計画だ。
中国の大手国有投資会社の資産運用会社であるCITICキャピタル・ホールディングスは、コネチカット州ノーウォークにあるヘッジファンド、CCSZFマネジメントに4500万ドルを提供した。ICBCは資金提供と引き換えに、利益の一部を得る。同ファンドは債務によって相対価値裁定取引を使って国債に賭けをする。
ICBCクレディスイスとICBCの幹部からはコメントを得られなかった。

中国の富豪の資産を運用する者たち

主に蔡奎のような富豪の資産運用を担当する企業もある。ブルームバーグ富豪指数によると、蔡は長年海外投資を行い、資産は27億ドルに上る。彼は中国で最も裕福な女性だった呉亜軍(Wu Yajun)と結婚していたが、2012年に離婚した。
蔡のヘッジファンド運用担当者であるGaoは、投資家向け書簡によると、倒産したり、経営危機にある企業の社債に投資する「ディストレスト投資」などによって、2016年にウエストフィールドの資産を51%増やした。
Gaoと蔡一家の事務所である桂辰資本(Junson Capital)の広報担当者からは、コメントが得られなかった。
HNAの陳は昨年ヒルトン・ワールドワイド・ホールディングスに出資したが、米国の会社、HNAインベストメント・マネジメントを通じて観光にも焦点を合わせている。
同社は2016年末の資産が7800万ドルと報告しており、ワシントン州スポケーンに本社があるホテルチェーン、レッド・ライオン・ホテルス・グループにも19%出資している。HNAインベストメントの幹部にコメントを求めたが、返答はなかった。
かつてゴールドマン・サックス・アジアの証券部門を率いていたロバート・マクタマニーは「だれもが海外に資金を移動する方法を模索している。中国国内の投資家による(海外への)投資で考慮すべき最大の点は、人民元が売られているということだ」と語る。
マクタマニーは現在ニューヨークのリップル・キャピタル・マネジメントを率いている。

背後にある中国政府の資本規制強化

中国市民は昨年秋まで、外貨購入に年間5万ドルの上限が設けられていることも含めて政府による海外投資の規制を迂回することができた。
2016年末、1兆ドルに達していた外貨準備の減少を受けて、規制の運用を強化し始めた。消息筋によると、これによって電子商取引大手JDドットコム(京東商城)が過半数の株式を保有する JDウェルスは、SECに登録後、米国にロボアドバイザーを設立する計画を棚上げした。
北京に本社があるJDウェルスは、中国市民が最低100ドルで証券口座を開設し、携帯電話で米株式に投資することを認める計画だった。
その他の中国企業は、政府の規制強化を受けて米国で資金を調達している。
ロンドンに本社があり、中国人運用担当者李响(Athene Li)が率いるプライベートエクイティ会社XIOグループの海外系列会社XIOケイマンは、11月にSECに登録した。9月6日にSECに提出された通知によると、XIOグループは米国や海外の投資家から1億2000万ドルを調達していた。
登録の翌日、XIOはS&Pグローバルからカリフォルニアに本社がある調査会社JDパワー・アンド・アソシエーツを11億ドルで買収した。XIOの広報担当者、アリッサ・ラコルテはコメントを拒否した。
コンサルタントのマコーマックは「国際事業を拡大しようとしている中国の金融企業のほぼすべてにとって、潮目は完全に変わった。海外で資金を調達するようになった理由の99%は資本規制の強化によるものだ」と語る。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Miles Weiss記者、翻訳:飯田雅美、写真:Nikada/iStock)
©2017 Bloomberg News
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