商用無人航空機、競争の幕開け:直面する「情報の洪水」という課題
Bloomberg
2017/05/17
無人航空機(UAV)は、企業各社にかつてないほど大量の情報を提供できる。しかし、まずは情報の洪水に対処しなければならない。
「データは新しい石油だ」
そう遠くない未来、商用無人航空機(UAV)が大量に米国の空を飛ぶようになるだろう。インフラの視察、作物の調査、あるいは屋根の張り替え費用の見積もりなど、さまざまな業界でUAVの導入が検討されている。
こうした未来が現実になれば、それとともに大量のデータが生成されるだろう。まるで、目に見えない飛行機雲のように。
「データは新しい石油だ」。ダラスで開催された国際無人機協会の見本市「エクスポネンシャル」で、インテルのブライアン・クラーザーニッチCEOはこう述べた。同CEOはさらに、データを収集し、その内容を理解している企業と、そうでない企業の「格差」が拡大していると指摘した。
クラーザーニッチCEOによれば、1台の自動運転車で収集できるデータは3000人のインターネット利用者から集められるデータに匹敵するが、小型UAVを何機か飛ばせば、1日で150TB(1TB=1000GB)のデータが容易に集まるという。「データの量は今後数年間で爆発的に増加するだろう」
しかし、すごい勢いで増加していく大量のデータを、企業はどのように扱えばよいのだろう。
ロッキード・マーティンのソフトウェア「Hydra Fusion Tools」の販促資料には「無人機システムの操作は、もはやスタンドアローン型の活動ではない」と書かれている。「無人機が操作者に対して送信する、地図や画像、映像、情報といったもののセットがあり、これらがひとつの共通状況図にまとめられる必要がある」
エアバスが立ち上げるデータ企業
当然ながら、このような発想から、莫大な情報を企業が取捨選択し利用するのを助ける新たなビジネスモデルが次々と登場している。
そのひとつが、ヨーロッパの航空コングロマリット、エアバスだ。同社は、さまざまなUAVサービスを提供する新しいデータ企業エアバス・エアリアルを立ち上げようとしている。
5月10日のエクスポネンシャルで新会社について発表したエアバス防衛宇宙部門のダーク・ホークCEOは、UAVの利用が拡大すれば、こうしたサービスの市場は年間1200億ドル規模を超えると予想している。
商用UAVが飛び回るようになっても、ピザやシャツの配達が早まるとは限らないが、企業による空からの監視やデータの利用は大きく変化するだろう。米国政府が新たなルールを策定し、商用UAVが自律飛行できる距離を延長したことも追い風だ。
保険、電力、不動産、エネルギーなどの幅広い分野の企業が、一部の事業をUAVに任せようとしている。ヘリコプターをUAVに切り替えればコストも下げられる。たとえば保険会社は、竜巻やハリケーンによる保険請求や保険の引き受けリスクを評価する際、UAVによる空からの監視が有効だと気付き始めている。
エアバス・エアリアルは合わせて8機の人工衛星とUAVで高高度からデータを収集し、農業、保険、石油、ガス、電力企業や地方政府に情報サービスを提供することを目指している。ドイツのミュンヘン近郊と米国アトランタに拠点を構える予定だ。
顧客が必要とする情報サービス
エアバスの無人航空システム担当シニアバイスプレジデント、ジャナ・ローゼンマンは、2017年は市場を調査して「選ばれた少数の顧客」とテストを行い、サービスに対する顧客の評価を見極める年だと説明している。
サードパーティーのUAVを使う予定だが、ハードウェアの自社開発も検討するという。「当初は、自前のUAVを持つことにこだわらない」と、ローゼンマンは電話インタビューで述べた。
エアバスはすでに、太陽エネルギーで高高度を飛行する「Zephyr」を運用している。最大14日にわたって連続飛行できるUAVだ。高度7万フィート(2万メートル超)で航行可能なため、エアバスは「疑似人工衛星」と呼んでいる。
エアバス・エアリアルで米国の事業を指揮するジェッセ・カルマンは、顧客が必要とするのは情報サービスであり、情報を収集するのがUAVであろうと人工衛星であろうと気にしないと述べる。
「UAVは、センサーを取り付けるための台車のようなものだ。われわれは最も理にかなったハードウェアを採用するだけだ」。カルマンによれば、料金設定は市場や顧客によって変える予定で、継続利用も1回限りの利用も可能だという。
遅れるルールの整備、ビッグデータの問題点
商用UAVにはいくつかの大きな障害がある。
そのひとつが連邦規則の欠如で、現在米連邦航空局が検討中だ。ルールが整備されれば、既存の航空交通にUAVを組み込むための運用ガイドラインができることになる。
ルールの整備は遅れているものの、UAVサービス市場は欧州より米国のほうが早く成熟するかもしれないと、ホークCEOは予想する。米国は規制当局が1つしかないためだ。
それでも、カリフォルニア州シミバレーに本社を置き、軍事および民間用のUAVや分析ソフトウェアを開発しているエアロバイロンメント(AeroVironment)のプログラム責任者ナズリン・カンジは、たとえ商用UAVが飛び立つことができても、サービス利用者は「情報が多すぎるという問題」に直面することになると述べる。
「UAVは莫大なデータを生み出すので、その分析は興味深い挑戦になる。その量はペタバイト(PB)単位だ(1PB=1000TB)」とカンジは話す。
「ビッグデータの問題点としてみなの話題に上っているが、どうやって対応すればいいかについては本当には誰もわかっていない」
農業、電力、鉄道、建設の共通ニーズ
ボーイングの子会社でUAVの開発・運用を手掛けるインシチュ(Insitu)の商用部門担当バイスプレジデント、ジョン・ダムシュによれば、UAVサービスの市場では小規模な企業が整理統合を始めており、ビジネスの多くは大企業を相手にした継続的な事業に焦点を合わせているという。
しかし、サービス契約のコストを考えると、鉱業やパイプラインなど大量のデータを必要とする顧客はいずれ、UAVやソフトウェアの自社購入を決断する可能性がある。「コストが一定のラインに達したら、気づくのは時間の問題だ」
これに対してエアロバイロンメントのカンジは、データストレージサービスを専門とする企業から、分析、データ収集、その両方を請け負う企業まで「さまざまなサービス提供者」が入り込む余地はあると考えている。
UAVから送信されるデータのためのインターフェースを開発できるよう、専用のソフトウェアを提供する企業もある。
インシチュなどは、鉄道会社、オーストラリアの大手採掘会社、パイプライン事業者などを相手に、UAVによる偵察やデータ分析のサービスを提供している。そうした大規模な事業のほかにも、さまざまな業界の共通ニーズを探る動きが見られる。
「われわれが気がついたことのひとつは、農業、電力、鉄道、建設には、とてもよく似たニーズがあることだ」とカンジは言い、1つの例を挙げた。「彼らはみな、植物の状態に関心がある」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Justin Bachman記者、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:seregalsv/iStock)
©2017 Bloomberg News
This article was produced in conjuction with IBM.
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