人の性質は後天的に変わる? 遺伝子工学の新たな常識

2017/5/16
政治、歴史、遺伝学からAIまで、各学術分野の研究は、ビジネスにも有用な知見を提供する。しかしその最先端では、むしろ「わかっていないこと」の方が多いはずだ。
本企画では経営学者・入山章栄氏が、各分野の最先端の研究者と対談。それぞれの学問のフロンティアについて議論し、そこからビジネスパーソンが学ぶべき知見をあぶり出していく。
第2回は、遺伝子工学分野の第一人者として知られる、胡桃坂仁志氏が登場。世間一般の「遺伝子」に対するイメージを覆す、最先端分野「エピジェネティクス」の全貌が語られる。

「遺伝子のオン・オフ」は変化する

入山 この連載は「学問はわかっていないことの方が多い」という問題意識に立ち、研究分野の「わかっていないこと」と「わかっていること」のギリギリの際を第一線の専門家にうかがって、ビジネスへの示唆まで考えていくという欲張りな企画です(笑)。
胡桃坂さんは早稲田大学で遺伝子工学分野の最先端「エピジェネティクス(エピゲノム)」を研究され、多くの国際的業績を残されている、まさに世界のフロンティアの研究者です。まず「エピジェネティクス」とは何か、お聞かせいただけますか。
胡桃坂 「DNAの塩基配列そのものは変わらなくても、遺伝子の読み取られ方が変化することによって、遺伝子の発現が制御されるメカニズム」のことです。この領域がいま、“新しい遺伝学”として注目されているんです。
入山 えっ、私はド素人ですが、それでも驚きです。
確かヒトを形作るDNAの塩基配列はあくまで交配から新しい生命が生まれる時にのみ変わるもので、一度生まれた生物のDNAは変化しない、というのが遺伝子学の基本だと思っていました。
だから、私が父親と母親からもらった遺伝子情報は死ぬまで変わらないと……
胡桃坂 入山さんのご理解がこれまでの常識なのですが、最先端の生物学ではエピゲノムの考えが主流になってきています。それは「DNAの塩基配列そのものは一生変わらないけど、遺伝子の使用の可否は後天的に決まりうる」ということです。