なぜ日本の“生産性”は低いのか、どうすれば向上するのか

2017/5/1
NewsPicksは、J-WAVE「STEP ONE」(毎週月~木 9:00~13:00)と連携した企画「PICK ONE」(毎週月~木 11:10~11:20)をスタートしました。
1日は、リンクアンドモチベーション執行役員の麻野耕司さんが出演。「伸び悩む日本の生産性-効率化進む製造業の足引っ張るサービス産業」(Bloomberg)を題材に、生産性をめぐる課題について解説しました。
※本日の音源は、以下のリンクからお聞きください。

サービス業の生産性が低い

サッシャ 今日は、「伸び悩む日本の生産性-効率化進む製造業の足引っ張るサービス産業」というトピックにフォーカスです。
寺岡 解説してくださるのはNewsPicksの公式コメンテーター「プロピッカー」の麻野耕司さんです。
麻野さんは、リンクアンドモチベーション執行役員で、組織人事コンサルティング事業とともに新規事業「モチベーションクラウド」を担当されています。おはようございます。
麻野 おはようございます。
サッシャ まず、これはどんなニュースなんでしょうか?
麻野 いま日本は“生産性が低い”ことが問題となっているのですが、特に欧米と比べたときにサービス業の生産性が、だいたい半分くらいしかないんです。
サッシャ 「働いているけれど、産んでいない」ということですね。そうすると、日本の働き方のポイントや問題はどこにあるんでしょうか?
麻野 いま働き方改革の文脈で、とにかく労働時間を短縮しようと言われていますが、労働時間を短縮するだけでは生産性は上がりません。
その他に色んな手立てを駆使して生産性を高めるべきだと議論しなければいけないと思っています。

流動性とエンゲージメント

サッシャ どんなことが必要になってくると思いますか?
麻野 私の仕事は企業の組織やコンサルティングなので、“もし、「株式会社日本」の人事部長だったら”という視点でとらえると、二つやると思います。
一つは、流動性を高めること。そしてもう一つは、従業員のエンゲージメントを高めることに取り組みます。
サッシャ 流動性とは、どういうことでしょう。
麻野 流動性は、簡単に言うと離職率ですね。一つの会社から別の会社に移る率を、もっと上げていった方がいいんじゃないか。日本はこの比率が、アメリカに比べると非常に低い。
たとえば、一つの企業の中で生産性を高めるためにどんなことをするかというと、すごく伸びているA部門に、伸びていないB部門から人を移す。これは、企業の中で当たり前にやられていることですよね。
でも、日本という国を“企業”としてみると、伸びていない産業から伸びている産業に全然人が動いていない。
なので、伸びていない産業で人が余り、伸びている産業で人が足りなくて、生産性が上がらないという現状があるなと思います。
サッシャ なるほど。
寺岡 離職率って聞くと、マイナスのイメージもあるんですが、必要でもあるということなんでしょうか。
麻野 そうですね。マクロでみると決して悪いことではなくて、必要とされていない産業から必要とされている産業へ人が動くことによって、経済が成長していく面もあると思います。

なぜ流動性が低いのか

サッシャ 流動性が低い理由ってなんでしょう?
麻野 いくつか理由があるのですが、国という観点で見ると、日本は解雇規制が非常に強い。
サッシャ 経営者からすると、クビを切りにくいんですよね。
麻野 はい。企業という面から見ると、終身雇用、年功序列の人事制度があるので、最後まで働いた方が得な制度になっています。
定年まで働くと退職金がもらえるので、なかなか途中で辞めづらい現状があるなと思っています。
サッシャ 日本の流動性を高めるために、麻野さんが“日本の人事部長”だったら何をやりますか?
麻野 マクロでは、国全体として解雇規制を緩和して、人を辞めさせやすくすることは必要かなと思っています。
あとは、終身雇用、年功序列の人事制度を変えて、もう少しその場その場で報酬を払っていくようなシステムに変えて行った方がいいなと思っています。
サッシャ 退職金を上げるんじゃなくて、基本給を上げるということですよね。
ただ、解雇規制を緩くすると「クビを切られちゃう」と心配な人も多いと思うのですけれど。
麻野 そうなった時に、政府が次の職に移りやすくする支援をすることも必要かなと思っています。
サッシャ そこの仕組みを作るのが結構難しそうですね。
麻野 そうですね。

自社や仕事への愛着が低い

サッシャ もう一つのエンゲージメントの向上とは、どういうことでしょうか?
麻野 エンゲージメントはモチベーションとも言いかえられるんですが、社員の企業に対する愛情とか、仕事に対する情熱の度合いをエンゲージメントと呼んでいます。
いま、アメリカでは人事の中心的なテーマとなってきている考え方です。
このスコアが、日本は先進国の中で最下位に近い。要は、会社とか仕事が、あんまり好きじゃないっていう人が、どの国よりも多いという結果が出ています。
寺岡 ええっ。
サッシャ ちょっと待ってください。でも、僕のイメージだと日本は、わりと社員旅行に行って、終身雇用だから同じ会社にいて、下手をすると社歌があって、会社が自分の生活の中心で、家族を犠牲にしても会社を優先する感じです。
だから、他国よりも会社との結びつきが深い気がするんですけれど。
麻野 OECD(経済協力開発機構)の各種調査で見ても、日本はほとんど最下位に近いランキングになっています。
どっちかというと、「会社が好きで、仕事が好きだ」というよりも、先ほどのお話のように制度に縛り付けられて会社にいるので、嫌々定年まで働く人が多い国なのかなと見ています。
サッシャ 特に大企業中心で言うと、就活で希望職種に受からなかった場合でも、そのまま終身雇用で勤めている人が、いまの制度のひずみとして多いのかあ。

日本は親子、アメリカは夫婦

麻野 そうですね。あと、制度に縛られて社員がいてくれることに慣れているので、日本の会社は社員のモチベーションを上げる努力が結構低いですね。
アメリカの方が、辞めて行ってしまうので、「何とか会社にいてもらおう」と、色んな努力をする傾向があるのかなと思います。
サッシャ どんな努力をしているんですか?
麻野 たとえば、エンゲージメントの度合いを数字で測る「エンゲージメントスコア」という考え方があります。
アメリカは、この調査を会社全体で20%は実施していますが、日本では数字ではそういう努力はまだまだ進んでいないですね。
サッシャ たとえば、グーグルのように社員食堂が無料だったり、会社にホスピタリティがあったりすることで、会社を好きになってもらう努力はあるのかなと思います。
麻野 そうですね。なので、日本企業は社員との関係が“親子”に近いですね。切っても切れないので、あんまり努力をしない。
アメリカ企業は“夫婦”に近いというか、上手くいかなかったら離れちゃう可能性があるので、ちゃんと愛情を伝えたり相手の意見を聞いたりする努力をしている気がします。
サッシャ めっちゃわかりやすい。
麻野 エンゲージメントが高いと、主体性が生まれたり、無駄をなくそうという努力が生まれたりして生産性が上がる。そんな側面があるのかなと思います。
サッシャ これは企業側の努力にかかっているんですか。
麻野 そうですね。企業側の努力もそうですし、企業で働く管理職が部下のモチべ―ションやエンゲージメントを上げようと努力をしていくべきだと思いますね。
サッシャ なるほど。そうなって「みんなで飲み会!」となるのではなく、違うところで盛り上げてほしいですけどね(笑)。麻野さん、ありがとうございました。
麻野 ありがとうございました。
※本記事は、放送の内容を再構成しています。
今回のニュースをはじめとした麻野さんのコメントは、ぜひ以下からチェックしてみてください。
2日はイー・ロジット代表の角井亮一さんが出演予定です。こちらも合わせてお楽しみください。

【番組概要】放送局: J-WAVE 81.3FM
番組タイトル: PICK ONE
ナビゲーター: サッシャ、寺岡歩美(sugar me)
放送日時: 毎週月~木曜日11:00~11:20(ワイドプログラム『STEP ONE』内)
番組WEBサイトはこちらをご覧ください