【プロピッカー】今後の“農業×テクノロジー”の注目ポイント

2017/4/29
2017年4月の「マンスリー・プロピッカー」のテーマは「農業×テクノロジー」「緊迫する朝鮮半島」「財務・会計プロフェッショナル」の3つとなり、合計14人が就任しました。
今回は、「農業×テクノロジー」の6人が、自身の関心と今後のニュースにおける注目点についてコメントします。
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農業に“エネルギー”の視点を

4月のマンスリープロピッカーを務めさせていただいている齊藤三希子です。
家庭用インクジェットプリンタで作れる紙のセンサーをご存知ですか。東京大学大学院情報理工学系研究科の川原准教授が研究開発されているペーパーエレクトロニクス技術を活用した使い捨てできる紙のセンサーです。しかも、紙なので土に還る環境に優しいセンサーです。
近い将来、農家は家庭用インクジェットプリンタで作ったセンサーで土壌の水分を計測する日が来る、そう思い描くとワクワクしませんか。
紙のセンサーは、農業と異分野の先進技術が融合された、まさに『AgTech:農業(Agriculture)+技術(Technology)』の優良事例だと思います。
緑の革命以降、約60年の間、新たなイノベーションが生まれなかった農業分野において、AgTechによりどのようなビジネスモデルのイノベーションが生まれるのか。AgTechは、そんなワクワクさせられるものだと思います。
しかし、現在のAgTechにはエネルギーの視点が抜けています。植物工場、次世代施設園芸、ワクチン米の製造、ゲノム育種など、先進技術を使用する農業には、まだまだ膨大なエネルギーが必要となります。
先進技術を活用する農業には、使用できるエネルギー量に制限があると実現できないものもあります。
私が2014年度に携わった農水省「次世代施設園芸(富山拠点)」では、廃棄物由来エネルギー(電気、熱)を利用して、ハウスの加温と環境制御を行っており、農業に必要なエネルギーを自社で賄っています。
今後は、『AgTech』に“エネルギー”の視点も含め、エネルギー消費型農業からエネルギー創造・利用型農業へ転換していく必要があると思っています。
現在、世界で注目と投資を集めている『AgTech』ですが、農業も金融業界同様に規制産業であるため、これまで新規参入が難しいとされてきました。
しかし、金融業界が技術革新により、規制の影響を受けない分野から新規参入する企業が増えたように、農業もAIやIoT等の技術革新により同じ変遷を歩みつつあります。
『FinTech』の登場により金融のビジネス変革がもたらされたように、『AgTech』の普及により、日本の農業が抱える課題解決となる新しいサービス・ビジネスが創出され、緑の革命以来のイノベーションが生まれるかもしれません。このチャンスをつかみ、『AgTech』が日本農業の産業化をもたらすことに期待しています。
他の方々に比べて圧倒的に実績も知見も少ないかと思いますが、引き続きエネルギーの観点も含めてコメントし、“紙吹雪みたいにセンサーを撒ける日”がくることを願って、AgTechの可能性やワクワク感をお伝えしていければと思います。

大企業とベンチャー双方の動きに注目

4月のマンスリープロピッカーを務めている、富士通Akisai事業部シニアディレクターの若林毅です。
私たち富士通では食・農クラウドAkisaiを提供して、現場でのICT活用を起点に生産・流通・消費者をバリュー・チェーンで結ぶ取り組みを行っています。
具体的には大規模な農業法人や自治体、JAなどが活用していて、流通ではイオングループなどが農業分野に参入する際に使っていただくなど様々なユーザーが生まれてきています。
従来の農業ICTというと、どちらかというとプロダクトアウトと言いますか、畑にセンサーを取り付けて栽培を効率化することなど中心になっていると思います。
ただ、私たちの取り組みは着眼点が違っていて、農業経営はデータに基づいてコスト感覚や作業効率に改善のポイントがあると考え、データに基づく農業生産管理の仕組みを提供しています。
データに基づく経営により、ある農業法人では収量が30%アップしたり、田植えなどの作業時間が30%カットできたりしたほか、ブランド作物の生産量が倍増した例もあります。データを上手く活かすことで、こうした事例が出てきています。
また、ここ数年は、農業分野に参入する企業が増えていますけれど、まだまだマーケットが形成できていないため、農業ICTそれ自体の普及を進めて行かなければいけない段階です。
霞が関でも農業が一つの大きな政策として注目されているので、政府の様々な委員会などにも参加しています。
最近の取り組みで言うと、一般企業の場合はデータの標準化がされていますが、農業の世界では農作物の名前にしても、農作業の名前にしても、農薬肥料においても、情報の標準化がされていなかったので、内閣官房のIT総合戦略室などと協力し標準化ガイドラインをまとめています。
そして、情報化が進むと知財の取り扱いが問題になります。農家の匠の技を保護するガイドラインの作成も進んでいます。
今後の農業の注目トピックとしては、ベンチャーやスタートアップでドローンや画像認識に強い企業が出てきていることです。
病害虫をAIで分析したり、安価なセンサーを開発したりしており、大企業にはないスピード感で取り組んでいます。
私たちも、ぜひそうした企業と補完関係を持ちながら事業を進められればと思っていますので、それぞれの動きに注目してもらえればうれしいと思います。

AI、IoT、ドローンが面白い

4月のマンスリープロピッカーを務めているフューチャーCEO室ディレクターの池田博樹です。
私は、日立製作所中央研究所からキャリアをスタートして、インターネット技術者からベンチャーに転身し、フリービットでは、現在の格安スマホサービスにつながる事業を担いました。
そのなかで、私はDRT(Digital Robotic Transformation)という造語をつくり、提唱しています。これは、AIやIoTを活用・導入することで、業務を効率化する仕組みづくりのことを意味します。
農業においてはいかに農作業を効率化し、農家の方々の労働を楽にするか、という文脈です。
具体的には、京都府で農業に関する業務をITで測定する取り組みを行っています。それにより、「そもそも農業ではどんな業務がどれくらいの時間行われているのか」「無駄な業務はどれだけあるのか」「ITやドローンをはじめとするロボットに置き換えられる業務はどれか」などを可視化しようとしています。
まだ運用が始まってから1年も経たないのですが、畑の見回り回数を減らしたり、作業の順番を変えたりすることで効率化ができるのではないかという事例が少しずつ出てきています。
私としては、この取り組みを進めることで農家の働き方を変えたいと思っています。そして、その結果として農業に経営の視点を持ち込み、ビジネスモデルそのものも変えられればと思っています。
今後の農業に関するニュースの注目としては、大きく3つあります。それは、AIの導入、IoT化、ドローンになります。こうしたニュースに関して、それがどれだけ農業における効率化に寄与するかを見て行くと面白いのではないかと思います。
なぜなら、作業自体は効率化しても、導入コストが高い場合は意味がなくなってしまうので、そのバランスも大事になるからです。よく「ドローンで農業の課題は解決する」とおっしゃる方もいますが、コストの問題を考えると必ずしもそうなるとは限らないのです。
また、様々な分野でIT化が進んだことにより、他業種で成功した取り組みが、農業でも活かされるケースが考えられます。ぜひ、こうした視点で引き続き農業を見ていただくと面白いのではないかと思います。

マーケットニーズの変化に注目

マンスリープロピッカーを務めさせていただいている窪田新之助です。
私は、日本農業新聞社で8年勤めてからフリーのジャーナリストになりました。辞めた理由は簡単で、農協批判ができなくなったからです。記者として、農協の独占禁止法違反の問題をスクープしたのですが、掲載後にJA側から圧力がかかってしまいました。同社は、JAが100%出資している株式会社だからです。
そこで、「これから組織ジャーナリズムで行くのか、あるいは個人で行くのか」と考えたときに、農業問題は必ず農協問題に行きつくため、フリーになることにしました。
そこからは、視点をガラッと変えて、「そもそも日本に農家は必要なのか」という観点で取材を始めました。
つまり、日本の農家はサラリーマン収入や年金で生活していることが多く、その人たちのために農家を守れと言うのはおかしいんじゃないかと思ったんです。そうすると、農業が全く違う視点で見えて面白くなってきました。
大量離農が問題になっていますが、こうした方々が高齢で農家を辞めたら、むしろ農業にチャンスが生まれるんじゃないかと感じたのです。そこが、私のフリーとしての出発点でした。
その後、いま注目のAIを中心とするテクノロジーとかけ合わせて取材し、執筆したのが『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来 2020年に激変する国土・GDP・生活』になります。
今後の農業における注目トピックとしては、マーケットニーズが昔と変わっていることだと思います。その点で重要なキーワードになるのは「健康」であり、そこでは農家の作物の価値を、いかに消費者に伝えられるかが大事です。
今までのように農協に作物を流すだけでは、新たなバリュー・チェーンは生まれないため、新たな仕組みづくりが必要です。そこで、いかにIT企業をはじめとする異業種の方々と組めるか、私自身も関心を持っています。
実際、具体的な動きは生まれてきています。東京のデリカフーズという業務用野菜の卸会社では「デリカ・スコア」という新しい野菜の指標をつくっています。
おいしさや機能性など19の項目をスコア化して、「農家の○○さんは通常の野菜より、このスコアが高い」とスコアリングしています。すると、同社は全国に野菜を卸しているので、農家と買い手のマッチングをすることも可能になるわけです。
アグリテックは、1億2千万人の食を豊かにする可能性を秘めています。ですから、ぜひ引き続き関心を持ってニュースを見てもらえればと思います。

農業の“生産性以外”も見つめる

4月のマンスリー・プロピッカー・農天気代表の小野淳です。
私は、東京に残る農業や農地を活かして都市のライフスタイルに「農」を組み込む事業をおこなっています。
「農ライフ」浸透のため、3段階のアプローチをとっています。1つ目は「メディア事業」。家庭菜園から歴史ある農業まで、雑誌・書籍等で紹介するほか、TV番組の制作協力なども通して都市農業の認知度向上に努めています。「都市農業」というワードは認知度が低くウィキペディアにもなかったので一昨年、私がページをつくりました。
2つ目は「イベント事業」。実際に畑に来ていただき、収穫体験だけではなく採れたて野菜でBBQをしたり、婚活や忍者体験といった一見農業とは関係ないようなプログラムを提供することでより幅広い層が田畑を利用できるように心がけています。
そして3つ目が「会員制農園事業」です。より深く食や農について知りたい、四季を通じての旬を感じたいなど、複数回の体験を通して本格的に暮らしに農を取り入れられるようなサービスです。
このように段階を踏んで濃度の異なる農体験を提供していますが、これは日本農業の未来を考えるうえでも重要な視点です。
農業の売上は基本的には面積に縛られています。通常100本のニンジンが取れる畑から翌年200本、その翌年は300本というようにどんどん生産性を上げていくことはまずできません。
最近、伸びているレンタル農園などにしても区画数×単価によって売上の上限は決まり土地面積に縛られています。
しかし実際には、田畑で過ごす時間や体験は大きな価値を生みます。たとえば、5歳の子どもが大根を一生懸命引っこ抜いている姿を写真に残せることは、ただ農産物をつくるだけではない意味を生むでしょう。
そういったプライスレスな体験をどのように価値づけてマネタイズし、育てていけるのかが農天気の主たる事業課題です。
みんな「となりのトトロ」みたいな日本的な風景や暮らしが好きですよね。しかし、農産物供給の視点からだけでは「日本の古き良き農村」は次世代に残すことができません。
ニュースにおいても「どれだけ農業が儲かるか」「労働効率をあげられるか」といった土地生産性に話題が集まりがちです。
極端な話、農村をすべてブルドーザーで平らにして直線で区切り、ロボットが農業をやる場所をつくれば食糧は安定供給しやすく農家も儲かるでしょう。しかし、そんな国に私たちは暮らしたいでしょうか?
日本における農業のあり方を考えるうえではロボットやIoTも大事ですが、一方で私たちたちの心の中にある「農的なものの価値」についても再評価いただけるようなコメントをしていきたいです。

TPPのゆくえに引き続き注目

4月のプロピッカーの一般財団法人畜産環境整備機構副理事長・原田英男です。
私は、農水省に入省して以降、畜産畑を中心とした仕事に取り組み、特に牛肉自由化、BSE、口蹄疫、鳥インフルエンザ、原発事故など様々な災厄に対応してきました。
そのなかで、きちんとした情報発信をすべきであるという思いから、現役時代から実名でTwitterを活用して、情報発信をし続けてきました。
特に、私は双方向性を意識していました。情報を一方的に伝えるだけでなく、一般の方の疑問や質問に対して答えたり、間違った情報を訂正したりすることが重要だからです。
そこでつながった人とリアルで会うことも多く、SNSとリアルの両方が大事であると実感しています。農業サイドの言葉はなかなか難しくて理解しにくいところもあるので、その橋渡しをすることが役割だと思っています。
その点で、生産者と消費者、さらにメディアとの間におけるギャップを強く感じています。
農家は補助金がないと難しいと言い、消費者は「農薬を使わないで」「農作物の形が悪い」など要求水準が高く、生産農家のことを理解しようとしない。
また、メディアも野菜が高くなったり何か事件が起きたりすると注目しますが、それ以外は見向きもしないわけです。お互いが一方通行になっていますので、その翻訳をすることが大事だと思っています。
今後は、マクロなニュースとしてはやはりTPPのゆくえが注目です。トランプ大統領になる前には、妥協の産物ではありながらも何とか道筋がつけられましたが、それが一瞬でひっくり返ってしまいました。そのなかで、アメリカを抜いた形でのTPPを目指すのか、どのような方向になるのかは、まだ未知数です。
また、国内に目を向けると、農業がいかに“個”に向けたサービスをつくれるかが重要なポイントです。
これまで、農作物は「マス対マス」でつくっていました。たとえば、生産者は県全体でブランドをつくり、消費者は大手チェーン店で同じものを購入していましたが、それにだいぶ変化が生まれてきました。
「価格競争から、価値の競争」になってきたのです。そのなかで、つくり方、売り方の両方が変わってきます。
ただ安いものだけが売れるわけではなく、価値のある作物は高くても売れる。ここには、いくつも面白い動きが出てくるので、ぜひ皆さんも消費者の立場からチェックすると興味深いのではないかと思います。