人材派遣業界の改革者が描く5年後の姿
2017/5/17
私たちUTグループは、2016年度から5か年の中期経営計画をスタートさせました。
目標は売上高、営業利益、雇用人数すべて約3倍。日本のGDPはほぼ数ポイントしか伸びない状況で、ここまで大きな目標を掲げた企業はそうは存在しないと思います。
それでも私はこの計画の達成を必ず実現させます。その中身を今からご紹介します。
当社は、製造業のお客様に対する派遣ビジネスを一貫して推進してきました。
製造業に特化することによるノウハウの蓄積によって大手製造企業に認められ、派遣社員が安心して働けるよう、無期雇用やキャリア形成支援などの環境を整備することで、採用力の向上と離職率の低下につなげ、年間で3000名の純増と、業界平均を大きく下回る3-4%の月間離職率を実現しています。顧客と社員の双方から信頼を獲得し、2003年には製造業向け派遣会社として初の株式上場(JASDAQ)を果たしました。
日本の派遣業界はここ最近踊り場を迎えており、競合他社は苦しんでいるようですが、私たちは圧倒的な成長率で成長を続けています。
創業からこれまでの期間を大きく3つに分けるとすれば、「創業期」「第一成長期」「第二成長期」の3段階に分けることができ、リーマンショックの影響によって業績が大幅に低迷したものの、その後は右肩上がりで成長することができています。
ある一定の地位は築いたものの、ここ10数年で日本の派遣業界は抜きん出た企業がいないのが実態です。私たちのシェアもトップクラスとはいえ、派遣業界全体で言えばごくわずか。
そこで、モノづくり領域に特化した人材サービス会社として圧倒的No.1の地位を築くためにスタートさせたのが、今年度(2017年3月期)からの5か年の中期経営計画。「第三の成長期」と位置づけ一気にアクセルを踏みます。
人材派遣業界を取り巻く環境の中で、とても重要な変化が法改正です。2015年9月30日に改正労働者派遣法が施行されました。
改正ポイントをシンプルに言えば、派遣社員を受け入れる企業側は、派遣元に無期雇用されていれば、すべての業務で無期限で派遣社員を受け入れることができるようになりました。
一方、派遣業を営む企業には派遣社員の雇用を守るための「雇用安定措置の義務化」、派遣元社員の待遇の均衡といったことが求められるようになりました。
つまり、派遣を受け入れる企業はより自由になり、私たちのような派遣会社はより厳しい環境を迫られるようになったのです。
私たちはこの法改正に準拠する体制を創業時から大切にしてきました。派遣社員も無期雇用とし、習熟度に応じて賃金が上昇する「ジョブグレード制度」や、現場のリーダーやマネージャーなどを育成する教育プログラムを提供し、派遣社員のキャリア形成を支援してきました。
今回の中期経営計画ではこのキャリア形成支援に特に力を入れています。例えば、生産工程の業務から、製品の設計・開発などのエンジニアにキャリアアップを促進するための制度や育成施設を整備し、キャリアコンサルティングを実施して派遣社員一人ひとりと真剣に向き合うことで、はたらく人の付加価値を高める取り組みです。派遣先企業と派遣社員のニーズが合致すれば、派遣先企業への転籍も積極的に推奨しています。
私たちがお客様として定義しているのは、企業だけではなく、ともにはたらく社員もお客様とみているのです。製造業から派遣のニーズがいくらあっても、それに合わせた供給力がなければ、お客様の期待に応えられません。だからこそ、私たちはお客様と社員をUTグループのビジネス基盤の両輪と捉えて、どちらの強化にも力を注いできたのです。
また、複数人のチーム形成によって派遣することで派遣先での働きやすさを提供し、実績のある社員には、学歴や職歴などに関係なく管理職を務めるチャンスを公平に与えています。
私がUTグループを経営している目的は、日本全国に多くの雇用を生み出し、イキイキと働ける環境をつくること。今回の中期経営計画のビジョンを「日本全土に仕事をつくる」としているのは、その思いがあるからです。
派遣会社の多くは、今回の法改正に準拠する体制を築けていないのが現状。これから対応するにも多くの時間とコストがかかりますし、何よりノウハウが必要。ですから、派遣業界の淘汰は進むでしょう。そうなれば、自然と私たちの存在感が増します。
技術力を持たない社員の無期雇用派遣は、当時は非常識だと半ばバカにされていましたが、今はそれが常識に変わった。私たちの取り組みに時代が追いついてきたと言えます。
今の採用力を維持しながら、淘汰が進む製造派遣業界の中で信頼に応える仕事をしていけば、今回の中期経営計画の目標達成は十分可能であると考えていますが、より高い成長を見越して、この中期経営計画ではいくつかの手を打っています。その一つがIoTです。
私たちのお客様である製造業は、今後テクノロジーの力でどんどん製造の自動化を進めていくでしょう。そうなれば、これまでのアナログな製造工程を知っているだけでなく、IoTなどテクノロジーを知っている人材は重宝されます。
私たちは、この流れを見越して、世界トップクラスのメーカーであるシーメンスと2015年に提携し、IoT時代に必要な人材の育成に取り組んでいます。
製造とテクノロジーの両面を知り尽くす人材が揃ってきており、製造業の皆さまに中期的に満足いただけると確信しています。
中期経営計画の達成に向けたもう一つの手は、外国人技能実習生の就労支援です。日本の労働人口の減少は必至で、海外のリソースを日本に受け入れることは重要な取り組みの一つになるでしょう。
日本の製造技術を学びたい海外の人たちはたくさんいます。その中で、日本の製造業を熟知するUTグループが人材を活用したい企業へ紹介することで、多くの外国人に対して技能実習の場を提供していきます。
外国人技能実習生は3年間の期間限定で日本に来ています。安い外国人労働者を使うことを目的としているわけではありません。
(写真: iStock / andresr )
たとえば、ベトナムに工場を建てる計画のある電機メーカーがあるとします。そういうメーカーの日本の工場に、ベトナムからの技能実習生を受け入れるのです。3年間そのメーカーの工場で技術を身につけた実習生は、ベトナムの現地工場で中核人材になれます。
日本のメーカーに、このようなサービスを提供していくことで、海外の製造現場にもよりスキルの高い雇用を生み出していけることにも社会的意義を感じています。
こうした環境変化の中で、私たちの強みである「一括請負」で培ったノウハウを生かし、企業の構造改革ニーズに応えるソリューションを数年前から提供しています。「インハウスソリューション」と言って、製造工程や事業部門ではたらくお客様の正社員を当社に転籍していただいたうえで、製品の製造を一括で請け負うモデルです。
もともとお客様の工場で働いていた方々がそのまま生産に携わるとともに、製造業務を当社に一括して任せることができるので手間が省けますし、コストも抑制できます。
「インハウスソリューション」は、大企業特有の課題である構造改革を支援するモデルです。大手電機メーカーなどは様々な領域での製品を作っており、その採算性や将来性などを考えたとき、場合によっては事業売却や人員削減といった選択肢を検討する必要もあります。当社では、こうしたニーズの掘り起こしを進めていきます。
生産量が減少し、人員が余剰となりそうなときには、当社が全国で契約する約500の工場へ派遣することで雇用を維持することができます。
インハウスソリューションを提供するためには、お客様の正社員が当社に転籍してもいいと思えるような環境が必要となります。当社では創業時から無期雇用を行っており、それに必要な制度が整備されやノウハウの蓄積があります。こういったことは有期雇用を前提として事業を行ってきた他社ではそう簡単に真似できるものではありません。
過去5年間でインハウスソリューションによって、延べ1000人のお客様の正社員を当社受け入れてきた実績があります。
例えば、パナソニックとは2013年に、電池製造を手がけるパナソニックバッテリーエンジニアリングを当社の子会社化してUTグループに取り込み、同社の製造会社自体を当社が引き受けました。これによって、パナソニックは電池製造子会社の人員や設備をすべて当社に任せることができたのです。
インハウスソリューションのニーズは年々高まっており、以前からその体制を築き実績のある当社の競争力が増すのは間違いないと思っています。
そしてもう一つの手がM&Aです。 M&Aの対象は私たちが得意としている製造業派遣の分野ではなく、エンジニアの領域です。製造業界は先ほど話したように、今後淘汰が進みますから、自然とこの分野の人材は条件のいい派遣会社を求めて流出するので、他社に在籍していた優秀な人材は、当社の無期雇用やキャリア形成制度を魅力に感じて獲得できると考えています。
M&Aの対象になるのは、当社が今後力を入れていかなければならないエンジニアの分野。この分野はまだまだ強化する余地がある。M&Aを通じてこの分野の人材を仲間に入れて、製造業にも欠かせないエンジニアリングの世界でも確固たる地位を築きたいと思っております。
最後に私が大切にしている経営指標を紹介させてください。「仕事創発価値」というもので、「営業利益+人件費」のことを指しています。顧客の満足(営業利益)と社員の満足(人件費)を両立してこそ、優良な企業と言えるという思いからこの指標を追いかけています。
全国で雇用を生み出す社会的意義と社員の働きやすさと挑戦心を支援する文化、そして派遣業界での圧倒的な成長力を武器に、「日本全土に仕事をつくる」ことにチャレンジしていきます。
人材派遣業界のそれまでの常識を覆し成長する UTグループは、数々の「『非常識』へのチャレンジ」を進めています。UTグループの歴史や経営哲学、採用手法にフォーカスを当てたコンテンツも合わせてお読みください。