NASAで働くピッカー石松拓人さんが「NPを活用する理由」

2017/4/29
NewsPicksのピッカーにお話をうかがう本連載、20人目にご登場いただくのは、米国カリフォルニア州在住の石松拓人さんです。
NASAの人工衛星や惑星探査機の研究開発と運用を手がける、ジェット推進研究所(JPL)でエンジニアとして活躍する石松さん。NewsPicksでは宇宙に関するニュースに幅広くコメントくださっています。
石松さんがNewsPicksやSNSをつうじて情報発信を続ける理由や、今手がけているプロジェクト、夢を叶えるためのヒントをうかがいました。
米国在住ピッカーさまをおつなぎする交流会を、6月にロサンゼルスで開催予定です。詳細は本記事の最後をご覧ください。
宇宙を身近に感じてほしい
──石松さんは2016年の1月頃からNewsPicksを使ってくださっていますね。始められたきっかけは?
「NewsPicks」という名前を知ったのは、堀江貴文さんのメールマガジンかツイッターがきっかけです。
それ以来、仕事の空き時間などに日常的にチェックしていて、宇宙関連のニュースを中心に読みます。NASAに勤めていれば知っている内容もありますが、日本のメディアがどう報じているか興味があります。もしもそれが自分の持つ印象と異なるときは、微力ながら抗うべく、コメントするようにしています。
とはいっても、十年来の友人で、同僚でもあるプロピッカーの小野雅裕くんが、NASAの研究哲学や技術的な解説を丁寧に書いてくれるので、私は気を楽にして、卑近で等身大なコメントを書き散らしているだけですが(笑)。
──NewsPicksでのコメント以外にも、ツイッターやnote「JPL日記」なども書かれていますね。
どれも備忘録として書いている、というのが理由のひとつですね。過去にどんなことを考えていたのか、自分のコメントをたどりながら思い出せるので便利です。
考えをきちんと文章にまとめようとするのは大変で、つい腰が重くなりがちですが、NewsPicksのコメントならば手軽に書けますしね。
そして、宇宙について発信することで、皆さんに宇宙を身近に感じてもらいたい、宇宙開発に参入する「競技人口」を増やしたい、という思いもあります。
石松拓人(いしまつ たくと)
米国航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所システムズエンジニア。東京大学非常勤講師。福岡県福岡市生まれ。東京大学航空宇宙工学専攻修士課程を修了後、マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科に留学。同学科博士課程を修了したのち、博士研究員を経て、2016年夏より現職。趣味はギター、将棋(四段)。
報じられなかった研究
──宇宙の競技人口は、まだまだ少ないですか。
米国と比較すると、日本には宇宙に関心のある人が少ないですね。NASAとJAXA、日米の民間の宇宙産業の規模を比べても、その違いは圧倒的です。
その一例として思い浮かぶのが、マサチューセッツ工科大学(MIT)で手がけた私の研究が、大学の公式サイトでトップに掲載されたときのことです。
その研究は、宇宙船が火星をめざすときに「宇宙にガソリンスタンドは必要か」という問いを立てるものでした。いったん月の軌道上で月面から採取した資源を使って燃料補給してから火星に向かうほうが、全体のコストは削減できるのではないか、と提案しました。
直接火星をめざすルートを検討していたNASAに、盾をつく研究だったこともあり、米国や海外のメディアでも報じられて、日本のメディアも読売新聞ワシントン支局の方から取材を受けました。ところが残念なことに、「話のスケールが大きすぎて日本ではウケない」と記事がお蔵入りになってしまったんです。
これからの時代、人類の経済活動が宇宙に広がっていくはずですから、状況は変わっていくでしょう。それまでは、より多くの方に知ってもらえるように、私も日本語で情報発信せねばという気持ちをあらたにした出来事でした。
石松さんがMIT時代に開発した、宇宙の物流を最適化するソフトウェア。「“月で燃料補給”というと、人間の乗った宇宙船が月面に着陸するところを想像されるかもしれませんが、私が提案したのは「ガソリンスタンドは月面でなく月の軌道上に設置する」というもの。人間の乗った宇宙船は月の軌道上に立ち寄って、あらかじめ月面で無人で採掘・加工しておいた月の資源で燃料補給するというアイデアです。(石松さん)」
火星で生命の痕跡を探る
──現在は、火星探査機の設計に携わっていると聞きました。
「火星からのサンプル・リターン」というプロジェクトです。複数の探査機を使って火星の岩石や砂といった地質学的なサンプルを採取し、地球に持ち帰って分析するものです。それにより、火星に生命の痕跡があるか解明できると考えられています。
まず2020年に1機目のローバー(自走探査車)「マーズ2020」が、火星に着陸してサンプルを採集します。私がメインで携わっているのは、マーズ2020が採集しておいたサンプルを回収してロケットに積み込むまでを任務とする、2機目のローバーのミッション策定と設計です。まだ正式な名称はありませんが、これを仮に「マーズ2026」としましょう。
──2026年に活躍するローバーですか。
そうですね、今のところ2026年の打ち上げを検討しています。まだ先のことですから、わかっている条件からざっくりと考えていく必要があります。
たとえば、マーズ2020が着陸する候補地は現在3か所まで絞られたものの、まだ確定していません。同じ火星でも、着陸するのが南半球か北半球かで条件が違いますし、同じ場所でもマーズ2020とマーズ2026では着陸する時期が異なりますから、季節も変わってきます。
冬だとすると太陽光が得られる時間が短くなるので、「マーズ2026に搭載するソーラーパネルは大きくしなくちゃな」と考えるなど、ちょっとしたことからも、システムの要件が変わります。
最終的には、サンプルを積んだロケットが打ち上がり、火星の軌道上で帰りの宇宙船とドッキングして、サンプルを宇宙船に積み込み、宇宙船だけが地球に向けて帰ってくる予定です。
──大変な連携プレイですね。すべてうまくいくと、サンプルが地球に届くのはいつ頃の予定ですか。
2031年頃ですね。とても遠大な計画です。もっと早く持って帰れたらいいのにと思いますよね(笑)。
NASAで働くということ
──担当するプロジェクトは、NASAではどのように決まるのですか?
仕事はただ待っていればアサインされるのではなく、自分から取りに行ったり、企画書を通して予算を確保したり、やりたい仕事を作り出すこともできます。
入って7か月になりますが、今やっている火星のローバーのプロジェクトを中心に、短期的なものも含めると、4つほど携わりました。
給与はあらかじめ決まっていますが、担当するプロジェクトの数は変動します。働く時間の何%をどのプロジェクトに当てるか、各担当プロジェクトにいくらチャージするか、自分でやりくりする仕組みになっているんですよ。
チャージできるプロジェクトがなくなると、戦力外通告というか、お給料がもらえなくなります。幸いまだそういう状況は経験していませんが、まずは勉強を兼ねていろんな仕事を引き受けています。
──米国人でも就くのが難しいNASAの仕事に、外国人として携わる苦労はありますか。
JPLは、NASAで外国人が正規の職員として働ける唯一の研究所です。約6000人が働くうち、日本人が10人ほどいます。幸いインターナショナルな職場ですから、グリーンカード(米国永住権)さえあれば、国籍や人種を理由に苦労させられることはありません。
それでも、自分の国を離れてからここにたどり着くまでに、10年MITで研究を続けてきましたし、さまざまなハードルを乗り越える必要がありました。JPLの採用試験も、初めて受けたときは最終面接で不採用でした。「まずはグリーンカードを取って」と。その取得にも2年半かかりました。
自分の意思で今ここにいる、よほど自分がやりたいことがここにあるのだろうな、という実感はあります。
──わずか10人しかいない日本人のお一人として、NewsPicksでコメントしてくださるのは嬉しいです。
守秘義務がありますので、今手がけていることの詳細を明らかにすることはできないものの、NASAの公式発表についてなど、現場を知るものとして補足できればという思いでいます。
NASAは税金で運営されている機関ですから、研究で得られた情報は国民に還元する責任があるという考え方で、情報発信には積極的です。そういう姿勢は、JAXAももっと真似てもいい部分ではないでしょうか。
とはいっても、私が今、実名や所属先を公開して、気ままにコメントできているのも、上司が読めない日本語で書いているから、かもしれないです(笑)。
夢へのアプローチ
──NewsPicksには、石松さんのように夢を実現したい、とお考えの方もいらっしゃると思います。どうすればさまざまなハードルを乗り越え、自分のやりたいことを実現できるのか、そのヒントを教えていただけますか。
私の場合は、ひとことでいうと「粘り勝ち」というか、長く同じ夢を思い続けていただけなんですよね。強い情熱を持って、血のにじむような努力をしたというより、私はただ、ほかのことに目が向かなかっただけなのではないかと思うんです。
長期的に成し遂げたいことのためには、逆説的に聞こえるかもしれませんが、短期的にやりたいことにはこだわりすぎない、という面もあります。
MITでは、政府機関や民間企業が提供する資金で、研究室に雇われて研究する学生もいれば、自腹もしくは外からの奨学金で学費を払って研究する学生もいました。前者は学費も給料も出ますが、研究テーマが必ずしも自分のやりたいことと一致するとは限りません。後者は自分でお金を持ってくる分、テーマを決められる自由があります。
私は前者を選び、サウジアラビアの水・エネルギー問題やアメリカのコンテナ船の輸送ネットワークなど、本業に直接関係のない研究でお給料をいただきつつ、自分のやりたい研究もやる、“二足のわらじ状態”を長く続けていました。
ところが、これらの点在する一見無関係に見える仕事が、本業の宇宙の研究を推し進める数学的ヒントになったり、グリーンカード申請に必要な業績になったりと、一本の線につながっていったんです。
サウジアラビアの研究所でエネルギー問題のプレゼンをするときに、偶然JPLの所長がいらっしゃって「ぜひうちに来てほしいね」と言われたのには運命を感じました(笑)。
「宇宙以外は手を出しません」というほうが情熱的ですが、来るものを拒まずに受けつつ、いい風が吹くのを待つ、そして気が付いたら点と点がつながっている、というのが私のスタイルでした。
MITの卒業式には娘も特注のガウンを着て出席。「私の夢の実現には家族のサポートもありました。高校時代からの付き合いになる妻は、私の米国留学中も東京で仕事を続けながら、産休・育休制度を利用して米国に合流したり、“ワンオペ育児”にもひるまず職場復帰したり、ともに家族の幸せを模索してくれる心強いパートナーです。(石松さん)」
──ブログのなかで、一度は不採用だったJPLに再挑戦される前に、ご自身の研究についてプレゼンしに訪ねた、というエピソードがありました。熱量がないとできないことでは。
実際は、私の宇宙ガソリンスタンドの研究がちょうどメディアに取り上げられていた頃に、LAに住む友人の結婚式に招待されたんですね。それでこの偶然を利用する手を思い付き、学生時代からのコネを使って、半ば強引にプレゼンをねじ込んだんです。いいタイミングで結婚式に呼ばれて、ラッキーでした(笑)。
いい風が吹いたとき、チャンスをつかめる準備ができている、というのも大事かもしれません。
──次に叶えたい夢は?
福岡に宇宙の仕事を創りたいです。
実家が福岡で居酒屋をやっているのですが、とにかく福岡は食べ物がうまいんですよ。いつかは福岡で生活したい、という夢を叶えるためにも、宇宙ベンチャーを起業したいですね。
先ほどお話した火星探査計画も、現時点ではすべてNASAが自前でやることになっていますが、SpaceXなど民間企業に参入してもらうことで、より早く、安く実現できるかもしれません。
国家機関と民間企業はどんな協力関係を築けるのか。宇宙ベンチャー立ち上げを見据えて、まずはNASAで修業してきます。
石松拓人さんのおすすめピッカー
「私は、自分が気になった記事については、ほかの方の書かれたコメントにも興味があり、ひととおり読んで勉強させていただいてますが、誰が発言したかに注目しすぎないようにしています。
同じ方のコメントでも、同意するもの・しないもの、オススメするもの・しないものがあるのは当然だと考えているためで、人単位で、同意率・オススメ率の統計を取ったこともないんですよね。特定の方のお名前を挙げるのは、うーん、難しいですね(石松さん)」
■小野 編集後記
背景知識のない私にも親しみやすい文体で、宇宙についてコメントくださっている石松さんに、ロサンゼルスでお会いしてきました。

ひとつひとつハードルを乗り越え、NASAで働く夢を実現した石松さんが、次に見据えている夢の舞台が「福岡」だというところに、故郷への愛を感じてグッときました。今年からはご家族も米国に合流されたとのこと、同じ米国在住者として、石松家の皆さまの冒険を応援しています!

【イベント告知】
米国でもNewsPicksピッカーさまと交流したく、6月25日(日)にロサンゼルスでイベントを開催します。当日は石松さんにもご参加いただき、この記事では書ききれなかった“宇宙の魅力”についてお話しいただく予定です。講演後には飲み物や軽食をご用意しますので、同じ米国で暮らすピッカー同士、親睦を深めていただければ嬉しいです。よろしければご家族やお友だちも一緒にご参加ください。《詳細はこちら》