球団経営の第2段階。横浜をスポーツ版シリコンバレーに

2017/4/29
横浜DeNAベイスターズの球団社長であり、横浜スタジアム社長とDeNA本社スポーツ事業部長も兼ねる岡村信悟氏に数カ月ぶりに話を聞いた。
キーワードの速射砲を浴びるかのようなインタビューを終えて、まず頭に浮かんだのは「これからの横浜はすごいことになりそうだ」という、恥ずかしいくらい単純な感想だった。

横浜の街づくりの中核に

ベイスターズは今年に入るなり、“街づくり”に関するリリースを立て続けに出している。
そのなかでもおおもとの基本として押さえておくべきは、1月12日の記者会見で発表された「横浜スポーツタウン構想」だろう。
読んで字のごとく、「横浜という街をスポーツで盛り上げよう」という構想だ。
そうした動きの先頭を切って3月18日にオープンしたのが「THE BAYS(ザ・ベイス)」。
1928年に建築され、市の指定有形文化財でもある旧関東財務局横浜財務事務所が、球団の手によってリノベーションされ、横浜スポーツタウン構想の中核施設としての役割を担うこととなった。
最大の特徴は、2階に「CREATIVE SPORTS LAB」と称されるフロアが設けられたことだ。
クリエイターらが集い、“スポーツ×クリエイティブ”をコンセプトに新たな産業の創出を実現していく拠点となる。
(写真:koichi torimura)
岡村氏は言う。
「ここ関内には、開港以来の遺産がたくさん残っている。その歴史ある空間に立つ施設として、スポーツを実践する場であり、スポーツをビジネス・産業として考え、スポーツでライフスタイルをより豊かにすることを提案するショップなどを展開する」
「さらには球団のオフィスもありますし、DeNAランニングクラブも横浜DeNAランニングクラブと名前を変え、ここに拠点を置きます。つまり『THE BAYS』は、古い革袋にまったく新しい最先端のものを盛り込むことで、かつてない空間が実現されているという自負がある。いわば植物の成長点のようなものがここに築かれたわけです」

球団、球場の枠を超えて

その成長点から出る芽は、どんな方向へ、どんなカタチで伸びていこうとしているのか。
一つ言えるのは、砂漠にぴょこんと顔を出したわけではないということだ。横浜市との間でスポーツ振興や地域活性化などに向けた包括連携協定を締結したことが物語るように、つるが絡まり、重層的に生い茂っていくための「枠組み」ががっちりと用意されている。
「横浜市との協定は市側からの提案で『I☆(LOVE)YOKOHAMA協定』という愛称になりましたが、われわれとしても3年前から取り組んでいる『I☆YOKOHAMA』という運動をこれまで以上に推進していこうと思っています。球団と球場という2社の中だけでなく、もっと徹底的に深め、広げていきたい」
「この街全体をベイスターズというコンテンツを中心に活性化していく取り組みを続けていけば、行政だけでなく、パートナー企業もたくさん名乗り出てくると思うんです。野球以外のスポーツ事業者、都市開発、または観光など、さまざまな業種の人々と協業しながら、街づくりをどう実現していくのか。これを具体的に検討することが、われわれの今後の課題になってくると思います」
ライフスタイルショップ「+B(プラス・ビー)」の県内各地への出店や、現在約700人規模の生徒を抱えるチアスクールのさらなる拡大など、「THE BAYS」を起点とした成長の絵はすでにいくつかの部門で具体的に描けているという。

球団ではなくなる?

多方面にニョキニョキと枝を伸ばし横浜の街全体を覆いつくしていこうとするベイスターズは、もはや「球団」という呼称でくくるには無理があるほどの組織に変容しようとしているのかもしれない。
岡村氏も「正直に言えば、球団じゃなくなるんです」と、さらりと語る。
「これまで、マーケティングを駆使し斬新な発想を入れることでプロ野球の既存のセグメントを活性化し、横浜の人たちの心をつかんできましたが、これからはそれを引き継ぎながら、スポーツ産業、文化のありようを変えていくフェーズになっていく」
「そもそもスタジアムの運営会社を持った(子会社化した)時点で、街の中でどういう機能を果たしていくのかという、プロ野球の興行以外のことにまで視野を広げなければならなくなりました。興行のない日も含めて、スタジアムの最大限の活用法を考えると同時に、街づくりにもたずさわる。狭義のプロ野球を運営する組織としてのベイスターズという会社の枠をどこかで超えなければいけないということだと認識しています。人もたくさんほしいですね」

2020年へ、ハマスタ改修計画

ただ、ベイスターズがどんな大樹に育とうとも、根を張る原点はプロ野球チームとしてのベイスターズであり、日々魅力的な興行が開催される横浜スタジアムである。
3月15日、横浜DeNAベイスターズと横浜スタジアムは共同で「横浜スタジアムの増築・改修計画を横浜市に提出した」と発表した。
リリースによれば、東京五輪開催年にあたる2020年2月ごろまでの間に、現行の収容人数2万9000人から3万5000人への増席・回遊デッキの新設・バリアフリー化の推進などを約85億円を投じて実現したいとしている。
あくまで「計画を提出した」にすぎないが、市との信頼関係が醸成されているので、改修はおおむね計画通りに進むことになると感じている。
何といっても注目は、リリースに添付された「完成予想図」CGだ。
「これから関内の再開発が行われます。横浜文化体育館は再整備され、移転が計画されている市役所の跡地の活用法も議論されている。そこにいち早くわれわれが具体的なイメージとして提示することは非常に重要で、これから街の開発にたずさわる人たちに、このスタジアムをどう街づくりに組み込んでいくかを考えてもらうことができるわけです」
「東京五輪の後には、オリンピック記念公園としての性格を持ち合わせることにもなるでしょうし、IR(統合型リゾート)という議論もある。それがもし実現するとしたら、この一帯は巨大な観光拠点になります。スポーツを重要な要素とした“スポーツIR”のようなものができるかもしれない。要は、さまざまな可能性を内包した、日本におけるスポーツ文化・スポーツ産業のシリコンバレー的な発信基地になれると思っています」
2020年の五輪開催地が東京に決定したのは2013年9月のことだ。まだまだ先と思っていたら、いつの間にかもう3年後にまで迫っている。
横浜スタジアムの大規模改修が完了する予定の2020年2月も、きっと、あっという間にやってくるだろう。
そのとき、ベイスターズはどんな組織になっているのか。
横浜スポーツタウン構想はどこまで進展しているのか。
近い未来が待ち遠しい。
(写真:©YDB)