(Bloomberg) -- 日本の製造業では、生産ラインの自動化やIT技術導入の動きが加速している。労働生産性は過去20年間の平均上昇率が主要7カ国(G7)中でトップとなっているものの、全産業の生産性の水準は最下位に甘んじている。背景には、サービス産業やホワイトカラー職場での伸び悩みがある。

少子高齢化による人口減少で働き手が減っていく日本では、生産性向上が課題と言われて久しい。国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」によると、15歳~64歳の生産年齢人口は、2065年には4529万人と15年比で4割減となる。安倍晋三政権が推し進める成長戦略では、日本のGDP(国内総生産)の約7割を占めるサービス産業の生産性伸び率を20年までに2%へ倍増する方針を掲げている。

日本生産性本部によると、15年の日本の時間当たり労働生産性は、44.8ドル(4718円/購買力平価換算)で経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国中19位。製造業の95年以降の生産性上昇率平均値は3.3%と、G7で最も高くなっている一方で、卸小売・飲食宿泊業は0.2%減と、イタリアと並び最下位となっている。

日本最大の機械メーカー、三菱重工業は、自動車用ターボチャージャーの生産拠点であるグループ会社の相模原工場の自動化に伴い、各製造ラインの人員を20人から3人に減らし、他部署へ配置転換した。広報グループのジョセフ・フッド氏がブルームバーグに明らかにした。同社は需要増に対応するため、20年に出荷台数1200万台を目指している。16年の出荷台数は900万台だった。

一方、サービス産業やサラリーマンなどホワイトカラー職場の生産性は伸び悩んでいる。

元学習院大学教授の今野浩一郎氏は、「時間生産性に対しては、日本のメーカーの方が欧米よりもセンシティブではないかと思う。すごく厳しくやっており、日本のメーカーの工場は生産性が高い」と指摘。しかし、欧米企業の幹部並みに長時間働いている日本の大卒・総合職のホワイトカラーは「全然違う」と言う。

OECDのデータによると、日本の男性労働者の1日当たりの平均労働時間は8.9時間で、26カ国中メキシコに次ぎ最長となっている。米国は7.9時間、英国は7.3時間となっている。

日本生産性本部の木内康裕上席研究員は、欧米と日本のホワイトカラーを比べて、「構造的に効率化されていない仕組みが日本には温存されていて、それが生産性に影響しているのではないか」と指摘。例えば、日本企業では、上司が帰らないから残っていたり、また、多すぎる会議のための資料作りに時間がかかったりなど、利益を生まない活動が多いと述べた。

また、木内氏は、日本の場合、利益は上がっていなくても、大幅な赤字になっていないことから、雇用維持のために採算性のよくない事業を続けている企業が多いとし、それが生産性の伸び悩みにつながっているとの見方も示した。

日本の生産性水準(10年~12年平均)を米国と比較した場合、製造業は米国の7割に対し、サービス産業は米国の5割にとどまっている。特に飲食・宿泊や卸・小売業といった分野の生産性は米国と大きな格差が生じている。サービス産業は、輸出を中心とした製造業ほど国際競争にさらされておらず、業務の効率化やIT化が進んでいないことが生産性の伸び悩みにつながっている。

UBSは19日付のリポートで、サービス産業の生産性の低さは「小売業が規制・過度の優遇税制措置や膨大な政府の信用保証により保護された無数のゾンビ企業に足を引っ張られているのが主因」としている。

OECDのリポートによると、12年に登記された企業の99.7%を占める中小企業が雇用の74%、付加価値の50%以上を占めている。うち4分の3以上がサービス産業で、その効率性は極めて重要だと指摘している。

安倍政権はロボット技術の活用により生産性向上を目指している。製造分野でロボット市場を20年までに倍増し1.2兆円規模とし、サービス分野などの非製造分野でも約20倍の1.2兆円を目標としている。 

日本生産性本部の木内氏は、今後の課題として、長時間労働を前提とした働き方をより効率的にしていく「働き方の改革」や生産性の低い分野や人手不足の分野の業務量削減・機械等による代替を図るなどの改革が重要だとしている。

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