海南島のトウモロコシ畑とドローン

ここは中国の最南端にある海南島。夜が明ける頃、リモコンを手にしたヤン・ダオシュ(30)は、トウモロコシ畑全体を見渡すために金属の脚立をよじ登った。
青いマスクをつけ、ゴム長を履いたヤンは、黄色い穂をつけたトウモロコシ畑の上空を飛ぶ重量55キロのDJI製ドローンを自在に操り、スイッチを押して殺虫剤の霧を散布し始めた。
30メートルほど離れたところでは、ヤンの仕事仲間が青いトラックの荷台に登ったり下りたりしながら、同じようにドローンを操っている。
正午までに、作業は終わった。散布用ディスペンサーを背負って散布する従来のやり方なら、労働者4~5人で1週間はかかっていただろう。
これは、海南中国農業飛行サービス社にとって典型的な日常作業。従業員50人をかかえる同社は、ニッチの市場を満たすべく1年前に設立された。
「昔のやり方で殺虫剤を散布する人のほうが珍しい」と、このトウモロコシ畑を経営する農家のチョウ・ユーロンは言う。「今や若い者は、畑を去って、都会でもっといい仕事をみつけたがっている」
ヤンの上司であるリャン・リブシェンは、畑の虫害やその他の問題をより速く発見する手段として、ドローンによる上空からの観察を試したいと言う。

手軽な趣味から商用、産業用へ進化

ドローンをとりまく状況全体に目を向けると、この分野の事業計画の拡大が見えてくる。
ドローンは手軽な趣味の域を超え、商用および産業用の機器に進化しようとしている。そこで商用ドローン製造で世界最大手のDJIは、ドローン市場のニーズの変化を確実にとらえようとさらに努力を重ねている。
DJIは、海南で農薬散布に使われている「AGRAS( アグラス) MG-1」、産業用に開発された「Matrice (マトリス)200」、高性能映画撮影のための「Inspire(インスパイア)」といったドローンを製造している。
同社のスタッフ8000人の25%は研究開発やエンジニアリングに従事しており、見逃した分野を同業他社に先取りされまいと必死だ。
「わが社の開発サイクルは、およそ6ヵ月」と、DJIのシニアプロダクト・マネージャー、ポール・パンは言う。「われわれはサプライチェーンを完全に掌握することができる。自社工場があり、自社でプロトタイプを製作することもできる」
DJIは設立11年を迎える中国企業。現代の民生用ドローン産業は、2012年に同社が「Phantom(ファントム)」の最初のモデルを発売したときに始まったといえるかもしれない。
調査会社フロスト&サリバンによれば、DJIの時価総額は100億㌦に達し、世界の民生用ドローンの60~65%を製造している。
アップルと提携して写真撮影用ドローンPhantomシリーズを400店以上のアップル・ストアで販売するなど、同社が市場で優位を維持しているのはスマートなブランド戦略とパートナーシップのおかげでもある。

安価製品に専門特化、競争激化は確実

だが、ハードウェアだけで勢いを維持するのは難しい。アップルでさえ、ソフトウェアとサービス(例えば音楽配信とアプリストア)に力を入れている。
そしてスマートフォン産業と同様に、DJIのようなハイエンドのドローンは、競合他社のより安価な製品や専門に特化したモデルにしてやられる可能性もある。特に中国ではあぶない。
ハイエンド機種の頂点では、中国企業イーハン社が乗客を運ぶことができるドローンに取り組んでいる。ローエンドに関しては、新興企業FPVスタイルが100ドルの子ども向けの屋内用ドローンの改良を重ねている。FPVの創設者マックス・マによれば、現在のプロトタイプは重さ30グラムにも満たないが、完成品はさらに軽い。
「DJIは空飛ぶカメラの製造ではすばらしかった。だがドローンができること、できるようになることはそれだけではない」と、ハードウェア・アクセラレータを製造する深圳市のシードスタジオのエリック・パン(ポールと血縁関係はない)社長は言う。
深圳市にあるDJIの本社ビルの近くにあるサッカー場の上空で、ドローンを縦横無尽に操りながら、ポール・パンは次の一手を考えている。AGRAS MG-1に関しては、設定した経路の飛行機能と、風に対する調整機能の改良に取り組んできた。
「最低限の訓練しか受けていない農家の人でも、操縦は簡単で、均一に、均等に噴霧できる」と、彼は言う。DJIではGPSとドローンのセンサーによるデータをまとめて、起伏を織り込んだ飛行経路の設定を可能にする農場の3D地図の作成にも取り組んでいる。
調査会社ガートナー・インクの推定によれば、ドローンのハードウェア市場は今年、60億ドルに達し、2020年末までに112億ドルに達するという。ソフトウェアとサービスの市場は、それよりかなり速く成長するはずだ。
そこでDJIでは、ドローンのOS(基本システム)のための新しいアプリと用途を考え出すために、開発チームにはっぱをかけている、とビジネス開発責任者マイケル・ペリーは言う。 ちなみにDJIのOSは、他社のドローンでは利用できない。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Christina Larson記者、翻訳:栗原紀子、写真:valio84sl/iStock)
©2017 Bloomberg Businessweek
This article was produced in conjuction with IBM.