2009年にカーシェアリングサービスを開始、5年で単独黒字化を達成し、その後もカーシェアリング市場の拡大を牽引するパーク24。この急成長の裏側で、車載センサーから取れるデータの量も“急成長”を遂げている。同社でIoT・ビッグデータ活用を推進するキーマンに、ユーザーの安全・安心へのデータ活用について聞いた。

危険な運転を見える化する

──2016年から「クルマの運転見える化サービス」を法人向けにスタートされたとのこと。このサービスのリリースに至った背景を教えてください。
当社ではもともと2000年代初頭にタイムズ駐車場のネットワーク化を進め、TONIC(タイムズ・オンライン・ネットワーク&インフォメーションセンター)という基幹システムを構築してきました。 
これまでは位置固定の駐車場から入出庫や精算に関わるデータだけを取得していたものが、2009年に「タイムズカープラス」でカーシェアリングサービスに参入したことによって、「動く」クルマからセンサーを通じて、ドアの開け閉めや位置情報まで含むさまざまなデータを得られるようになりました。それらをTONICに組み入れていくことになったんですね。
岩渕泰治 業務推進本部 副本部長 兼 商品開発部長
大手制御機器・部品メーカーでSEを経験した後、2001年にパーク24に入社。IT・ハードウェアを含め技術面から商品・サービス企画の実現を推進する。
データから、一つ顕著に見えてきたのが、「若い人はクルマの運転が上手くない」という傾向でした。駐車の際にちょっとぶつけたりといった小さな事故や、事故につながってもおかしくないような危ない運転の傾向が20代のユーザーに多いことも見えてきました。クルマ離れが進むことによって、運転技術が下がっているのかもしれません。
それとは別に、「タイムズカープラス」を運営する中で、利用が週末に集中し、平日の稼働率が低いことが営業側で課題として上がっていました。大手企業では社有車を何台も保有していることがありますが、毎日すべての車両が絶え間なく稼働しているわけではありません。そこで、平日の稼働率を上げる目的で、企業に向けてカーシェアリングの活用を提案していくことになったのです。すると、企業でも若手社員のクルマの事故に頭を悩ませていることが分かってきました。
ただ、企業がカーシェアリングを導入するにあたっては、一つネックがありました。すでに各企業では社有車にドライブレコーダーを搭載するなどして運転状況を管理し、事故を減らす努力をされていたのです。カーシェアリングに変えることで、社員の運転状況が把握できなくなるのは困るということで、そのままでは法人利用が広がりにくかった。
そこで、「タイムズカープラス」の車両のセンサーから取れる“事故につながりそうな運転傾向”のデータを、企業にレポートし始めたのです。そのレポートがことのほか好評で、「クルマの運転見える化サービス」を正式にサービス化するきっかけとなりました。
──具体的にどのようなデータをレポートしているのでしょうか。
「クルマの運転見える化サービス」では、各運転者に紐付く形で、急加速・急減速の回数、105km/hを超えるスピードを出した回数を取ってレポートしています。また、企業の管理者の方には、最高速度が105km/hを超えた利用の回数や、運転者とその人数などがWeb上で見られるようになっています。危険な運転をしている社員に注意することで、安全意識が高まり、事故の抑止につながります。
「クルマの運転見える化サービス」のレポート画面イメージ
企業・個人にかかわらず、誰でも事故は起こしたくないものですよね。最悪の場合は人命に関わることですし、けが人が出ず物損で済んでも、賠償の手続きやコストがかかります。また、従業員が事故を起こすことによるレピュテーションのリスクなども無視できません。そんな背景もあってか、「クルマの運転見える化サービス」は好評をいただいています。

個人の安全運転を支援する

──個人でも、自分の走行状況を知りたい人は多いのでは。
今後という意味では、一般の個人ユーザーも視野に入っています。「クルマの運転見える化サービス」のような形でのレポートは、現状では法人向けのみですが、この急加速・急減速などの危険運転のデータが、「TCPプログラム」にも組み込まれているんです。
──「TCPプログラム」とは何でしょうか。
「TCPプログラム」のTCPは「タイムズカープラス」の略なのですが、カーシェアをみんなのために大切に使うとポイントがたまる個人会員向けのポイントプログラムです。カーシェアリングを利用して、急加速・急減速をせずにクルマを返したり、クルマをキレイに使ってくれたりしたユーザーに、ポイントを付与します。
ユーザーは、一定のポイントがたまると、通常2週間先までしか予約できないものが3週間先までできるようになったり、さらに多くポイントをためると、優待を受けられたりというメリットがあります。そのため、安全運転に努めてくれるようになるんですね。
余談ですが、副次的な効果として、ガソリン代がセーブできました。「タイムズカープラス」では、車内に備え付けの給油カードを使ってユーザーに給油をしてもらうことで、ガソリン代を当社が負担することになっていますから、急加速・急減速が減ることによって燃費が良くなり、小さくないコスト削減効果がありました。

データを「安全」に還元する

──IoTで得たビッグデータを活用する上で、難しいポイントはありますか。
今後、吸い上げるデータの種類や量を増やすとなった場合、サーバ側のデータ受け入れの仕組みや、分析のための機械学習環境をつくらなければなりません。移動するクルマとリアルタイムで大量のデータをやりとりするとなると、通信コストも増大しますので、そう簡単に「やりましょう」と判断できるものではないんですね。
どのようなデータを取得すると何を分析できて、それをユーザーに対していかにサービスとして還元できるのか。それが、ビジネス的にどの程度の収益につながるのか、どれだけ投資できるのかなどを含めて検討しながら、サービス設計をしているというのが今の状況です。
技術的な観点では、やりとりするデータの取捨選択も重要なポイントです。サーバに上げて機械学習にかけるデータと、端末側、つまりクルマに搭載したシステムで処理させるデータを峻別するという分散的な考え方が、エンジニアとして知恵を働かせていくところだと思いますね。
──ユーザーに何らかの形で提供する以外に、データの活用の道はありますか。
シンプルなデータの話に戻りますが、例えば、急減速したという情報と位置情報の掛け合わせだけでも、「ある特定の場所で急ブレーキを踏む人が多い」ということが分かりますよね。その道路に事故が起きやすい要因が潜んでいるのではないか、ということが、多くのデータが集まることによって浮かび上がってくるわけです。
そのような情報を持って道路行政に提言することで、インフラ面から事故の可能性を下げるといったことも考えられますね。
──アイデア次第で、さまざまなデータ活用が考えられそうですね。
「クルマの運転見える化サービス」もそうなのですが、当社のサービスは、誰か一人の起案者によるものではないことがほとんどです。商品企画だけがサービスを考えるのではなく、システム部門や、ユーザーのニーズを直接聞く営業部門やコールセンターなど、社内のいろんなところから、「こうなったらもっとお客様にとってよくなるんじゃない?」というアイデアの種が生まれてきて、それを形にしていく感じです。
普段の自分の生活の中、例えばあるショッピングセンターの駐車場を利用した時に、「使いにくいな」とか「もっとこうなったらいいのに」ということに気づけるかどうかで、アウトプットに圧倒的な差が出てきます。
カーシェアリングサービスにおいて、ユーザーの安全、事故が起きないようにすることは、最も重要なことの一つです。事故を起こしたくて運転している人はいませんからね。実際、運転が上手くなりたいという方は多いようです。当社では、タイムズ駐車場で定期的に駐車レッスンを開催しているのですが、はじめて開催した時には、会員向けのメルマガで告知したところ、10人の定員に何百通という応募が来たほどでした。
IoT・ビッグデータを活用して、クルマの走行や、クルマを取り巻く社会の安全性向上に貢献できることは、非常に価値ある仕事だと思います。これからも、ユーザーの安全・安心のためのサービス提供を充実させていきたいですね。
(取材・文:畑邊康浩、写真:中神慶亮[STUDIO KOO])