デイビッド・カロンは、ヘビーメタルバンド「メタリカ」のギタリスト、カーク・ハメットとともに「KHDK Electronics」を立ち上げた。チェコのプラハや米国など、世界中どこにいても仕事をこなし、事業を成功させている。

「メタリカ」のギタリストと事業を立ち上げたノマド起業家(前編)

製造委託先を1カ所にとどめる理由

6. 製造の一本化を恐れてはいけない
創業まもないころ、流通コストを抑えるためにヨーロッパで製造することを検討し、いくつか製造施設を調べたことがあります。しかし最終的に、米国の施設1カ所のみにとどめるのが賢明だということになりました。
ヨーロッパに限らず、もし中国の製造業者を選んでいたとしても、品質を確認したりするために4~5週ごとに現地を訪れる必要を感じていたでしょう。
いまの製造業者を選んだのは、工場の運営や製造過程に一切不安を抱かなくてすむからです。彼らには大きな信頼を置いているので、そんな心配はいらないのです。彼らはわれわれにとって頼れるパートナーになっています。
そして、それこそが重要なのです。もし世界各地の業者に製造を委託するつもりなら、充実したインターネット環境と、本当に質の高い信頼できるパートナーを確保して、自社の製品とビジネスに最大限の利益をもたらすようにしなくてはなりません。
当社の製造業者は、パートナーとして期待を上回る仕事をしてくれています。これは本当に特別な関係だといえます。
7. 「代替の業者」については心配していない
当社の製造業者はエフェクター以外の製品も手がけ、長年にわたり事業を継続しています。今後、彼らの経営が悪化するとは考えていません。代替業者のことも少しは考えておくべきなのでしょうが、そのような心配はしていません。
当社のような成長ペースであっても、またどれだけ予想外の要求をぶつけても、彼らはつねにわれわれの求めに応えてくれます。

パートナーとは「未来」を話し合う

8. 信頼関係は日ごろの積み重ね
製造工場には年に1度訪れるようにしています。ただ実際に顔を合わせたいというのが主な理由です。販売業者の多くとも顔を合わせており、年に4~5回は会っています。業界見本市に参加すれば会うのは簡単です。
ただ、中国の販売業者とは一度も会ったことがなく、電子メールと電話のみです。
すべてのパートナーと最低でも週1回は連絡をとりますが、話す内容は主に当社ブランドの今後についてです。起きたことを振り返るのでなく、これから先のことを話し合います。
製造に関していえば、製品の故障率は1%を大きく下回っています。しかもそれは、出荷中の破損やユーザー側のミスなど、純粋な故障以外の原因も含めた数字です。
9. 顧客への適切な対応も難題ではない
顧客のエフェクターに問題が発生した場合、当社は電子メールで対応します。問題を解決できなければ、製品交換に応じます。われわれは顧客をファミリーのように扱う方針を徹底しているので、これまでに深刻な顧客トラブルの経験はありません。
当社が最も重視しているのは、顧客がわれわれの対応をどう感じるかです。ほかにも多くのデータを参考にしていますが、何より重要な指標は顧客満足度です。
顧客を丁重に扱うことが成長につながると、われわれは心から確信しています。

ノマド起業家という「生きる姿勢」

10. ビジネスの成長について
初年度の売り上げは、当初見込みのざっと4倍を達成しました。これは最初に発売したエフェクターが非常に高い評価を得たためもありますが、予想を控えめにしていたことも理由のひとつです。
自分たちの目標を現実的な範囲にとどめるよう努めてきましたし、いまもそう心がけています。とうてい達成できない現実離れした数字を掲げるより、予測を上回る結果を出すほうがいいとの考えからです。
それに、可能な限り最高の製品を作り出すには時間がかかるのです。あるエフェクターを決まった日に発売しなかったからといって、世界が終わるわけではありません。おおまかな期限は目指しますが、すべての新しいエフェクターが完璧であることのほうが重要です。
たとえば、数カ月前に発売を予定していたエフェクターがあるのですが、発売直前になって製品をさらに良いものにする方法を思いついたので、発売日を遅らせました。
また、近くベースギター用のエフェクターを発売する予定なのですが、この製品についても完璧な仕上がりにするために十分な時間をかけました。
そうした事情から、事前に新製品を大々的に宣伝することはしません。納得のいく製品を作るために時間が必要なのです。
11. 根本にあるのは「生き方」
父は事業を経営していました。一緒に旅行に出かけたときなど、目的地に到着して父が最初にすることといえば、電話とファックスを探すことでした。現在、私が旅行中にひとつのデバイスですべての仕事をこなしているのを、父はいまだに驚いています。
これは家庭生活にとって素晴らしいことです。家族と一緒に旅行ができるのですから。娘と過ごす時間を失わずにすみますし、それはとても重要なことです。
それに、娘は仕事に対する私の姿勢を感じとっているのではないでしょうか。娘はまだ3歳ですが、人間は仕事をしなくてはならないときがあることをすでに理解しています。あの年でもうわかっているのです。
このようなやり方でビジネスを運営するのは、起業家になるために必要なことをじかに伝える有効な方法です。それと同時に、家庭人としての姿勢も。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jeff Haden/Contributing editor, Inc.、翻訳:高橋朋子/ガリレオ、写真:dharmeson/iStock)
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This article was produced in conjuction with IBM.