時間差なしで高品質の動画を伝送する

米カリフォルニア州サニーベールの半導体メーカー、AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)は、あるチップメーカーの買収が携帯型バーチャルリアリティー(VR)ヘッドセットの導入を促すと確信している。
AMDは4月10日、テキサス州に本社を置くニテロ(Nitero)の買収を発表した。ニテロは、遅延や時間差なしで高解像度(HD)動画を伝送できるという60GHzのワイヤレスチップを開発している。買収価格は明らかにされていない。
AMDの提携担当バイスプレジデント、ロイ・テイラーは英国ブリストルで開催された業界会議で12日、VRの成長は妨げられているが、その理由はヘッドセットを太いコードでコンピューターやゲーム機に接続しなければならないことだと発言している。
また、テイラーはあるインタビューで、ニテロを買収することでVRと拡張現実(AR)の包括的なソリューションを提供できるようになると述べている。具体的には、動画を処理し、ほかのデジタルコンテンツと重ね、記憶装置を制御し、さらにその動画を無線伝送する能力だ。
ニテロは、オーストラリア政府が出資する研究センターから独立した企業だ。同社のパット・ケリーCEOによれば、同社がターゲットにしているのは次世代のVRヘッドギアメーカーだという。こうした新しいヘッドセットが製品化される時期については、ケリーCEOは言及していない。

VRは過剰宣伝か、主流技術になるか

フェイスブックの「Oculus」やHTCの「Vive」など、VRヘッドセットの売り上げは予想を下回っている。VRは過剰に宣伝されているだけで、主流の技術にはならないという考え方もあるが、テイラーはこうした見方に反対している。
『Time』誌は1994年、インターネットはたいしたものにはならないと予測した。現在の批判もそれと同じだと、テイラーは述べる。
テイラーによれば、建築や医療といった多くの分野でVRとARの導入はアナリストたちの予測よりはるかに進んでいるという。
AMDは、VRとARが成長すれば、同社の高性能GPUやCPUの需要が高まると予想している。そこで、これらの技術をPRするため、VRの映画やゲーム、体験のスポンサーになっている。
「VRのためになることはAMDのためになる」と、テイラーは述べる。
テイラーは、2020年までに室内用のVRヘッドセットが2300万台、グーグルの「Daydream」のような携帯型VRヘッドセットが1億2200万台売れるという試算を引き合いに出している。

VR拡大に「場所限定的な体験」重視

テイラーによれば、気分が悪くならないVRをつくるには高いフレームレートが必要で、映画製作者やゲームデザイナーはこの問題に悩まされているという。そして近い将来、チップメーカーがこの技術的な障害を取り除くと、テイラーは主張している。
その一例が、ニテロの超高速Wi-Fiだ。
「AMDとNVIDIA、インフィニオン・テクノロジーは激しい競争を繰り広げているが、われわれはライバルと比べてはるかに高性能なGPUとCPUを提供するつもりだ」と、テイラーは話す。「われわれは現在のレンダリングではなく、1~3年後を見据えている」
AMDはさらに、人々がショッピングモールなどで料金を支払い、コンテンツを視聴する「場所限定的なVR体験」も重要なビジネスモデルになり、VRの拡大につながると考えている。
テイラーによれば、同社はすでに米国、ヨーロッパ、アジアで多くの施設と提携関係を結んでいるという。
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(執筆:Jeremy Kahn記者、翻訳:米井香織/ガリレオ写真:woolzian/iStock)
©2017 Bloomberg News
This article was produced in conjuction with IBM.