残業帰りに「家メシ」のススメ

2017/4/16

あなたは残業後になにを食べますか?

日本で「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」が策定されたのは、2007年。それから10年が経ったが、日本ではまだ「働き方」の模索が続いている。
昨年から今年にかけて「働き方改革」が大きな注目を集め、政府では残業規制が議論されているが、現時点では多かれ少なかれ残業はあって当たり前、定時帰社など夢のまた夢、というのが一般的な社会人の感覚ではないか。
遅くまで残業して疲れて帰ったときに、なにを食べるか。
これは男女、世代を問わず社会人にとってひとつのテーマだ。身体にはよくないだろうなと思いつつ、手っ取り早く駅前のファストフードで済ませるか、コンビニで弁当を買うという人も少なくないだろう。
しかし、健康や美容への意識が高まっているいま、できることなら手作りの温かい食事を食べたいと思っている人も多いはずだ。問題は、自炊という高いハードル。
そこで、2012年に出版されて7万部のヒットを記録した『終電ごはん』の著者で、今年1月、第2弾となる『今夜も終電ごはん』を刊行した著者の梅津有希子さんに、10分で作れてしっかり美味しい、洗い物も少ない一皿レシピを紹介してもらった。

最速&ガッツリレシピ

──第2弾の『今夜も終電ごはん』は、第1弾からどう進化しているのですか?
梅津 よくある夜遅い時間帯を狙ったレシピ本は、だいたいヘルシー、カロリーオフをテーマにしているんですけど、遅い時間に帰ってきて疲れてお腹が減っているときって、ヘルシーさよりも手軽さが大事だし、お腹にたまるものが欲しくなるんです。だからあまりカロリーにはとらわれず、とにかくこれならささっと作れるというレシピを優先しました。
あと、これは第1弾と共通のポイントなのですが、深夜にごはんを作っていて、私が一番いやだったのは洗い物なんです。これはパートナーに作ってあげる方も自炊する方も同じだと思うので、洗いものも少なくなるようなレシピを選びました。

コンビーフとマスタードマヨ

──それでは最初に、最短でできるレシピを教えてください。
「コンビーフとマスタードマヨ卵かけごはん」です。見ての通りごはんに卵とコンビーフをのっけているだけなので、手際よくやれば2、3分でできます。ポイントは最初からほぐしてあるちょっと高めのコンビーフを使うこと。熱々のごはんの上にのせると、コンビーフの脂がちょっと溶けてきて、簡単だけど本当に美味しいんです。
ほぐしコンビーフに卵黄がよくからむ、ボリュームTKG。
コンビーフとマスタードマヨ:レシピ
材料/1人分
ごはん……茶碗1杯
卵黄……1個分
コンビーフ……1/2缶
マヨネーズ……大さじ1
マスタード……小さじ1/4
青のり……少々
作り方
1 マヨネーズとマスタードを混ぜる。
2 ごはんの上にコンビーフを広げて卵黄をのせ、1を添えて青のりをちらす。
◎コンビーフはよくほぐして使うのがポイント。マスタードがなければ辛子でもOK。
◎ちょっといいコンビーフで作ると、さらにおいしい。

時短ナポリタン

──次に、お腹が減って素早くガッツリ食べたい、というときのお勧めのレシピは?
焼きそばの麺を使ったナポリタンですね。パスタはお湯を沸かして茹で上がるまでに、計10分はかかります。でも焼きそばの麺は蒸してあるので茹で時間がいらないし、味はついていないから、しっかりナポリタンの味になります。具材は冷蔵庫にあるもので何を使ってもいいし、フライパンひとつでできるし、栄養バランスもよく作れますよ。
もちろん焼きそばを食べてもいいんですが、焼きそばの麺は簡単に使えていろいろ応用できるということお伝えしたいですね。
みんな大好き、懐かしの味。パスタよりもずっと早く作れるのは中華麺ならでは。
時短ナポリタン:レシピ
材料/1人分
焼きそば麺(袋ごと電子レンジに約1分かける)……1玉
ソーセージ(斜め薄切り)……2本
たまねぎ(5mm幅の薄切り)……小1/2個
ピーマン(縦半分に切ってから横に1cm幅に切る)……1個
しめじ(小房に分ける)……50g
トマトケチャップ、牛乳……各大さじ2
サラダ油……大さじ1
塩、黒こしょう、粉チーズ……各適量
作り方
1 フライパンにサラダ油を熱し、ソーセージとたまねぎを中火で炒める。たまねぎが透き通ってきたらピーマンとしめじを加えて炒め合わせ、塩、こしょうを軽くふる。
2 焼きそば麺をほぐしながら加えて炒め合わせ、ケチャップを加えてからめる。牛乳を加え、全体がオレンジ色になるまでなじませながら炒め、味をみて塩、こしょうでととのえる。
3 器に盛り、粉チーズをかけて食べる。
◎焼きそば麺はレンジで温めることでほぐれやすくなり、炒める時間も短縮できる。
◎牛乳を加えることで、ケチャップがまんべんなく麺にからみ、きれいなオレンジ色に仕上がります。

キャベツの香ばししょうゆ炒め

──糖質制限や健康を考えて、野菜を多めに使ったレシピもありますか?
鰹節で旨味をプラスしたキャベツのバターしょうゆ菜炒めはいかがでしょう? これならキャベツを4分の1個くらい食べられるのでお腹いっぱいになるし、野菜食べた! という実感が持てますよ。包丁とまな板を使いたくなかったら、キャベツをちぎって使ってもいいですね。余力があるなら肉とかきのこを入れると、よりボリュームが出ます。
ちなみに、バターしょうゆで炒めるとたいていのものは美味しくなるので、味付けに困ったらバターしょうゆと覚えておくといいですね。
食欲をそそるバターしょうゆ味で、キャベツがたっぷり食べられる炒め物。
キャベツの香ばししょうゆ炒め:レシピ
材料/2人分
キャベツ(ざく切り)……1/4個
サラダ油……大さじ1
しょうゆ、バター……各大さじ1
かつおぶし……軽くひとつかみ
作り方
1 フライパンにサラダ油を熱してキャベツを広げ入れ、ヘラで押さえながら焼きつけるように2分炒める。
2 上下を返してさらに1分ほど同じように炒め、火を止めてしょうゆ、バターを加えて全体にからめる。
3 器に盛り、かつおぶしをのせる。
◎キャベツは手でちぎるとまな板いらず。

豆乳湯豆腐

──女性向けのレシピも教えてください。
女子力アップの湯豆腐がありますよ。女性にとって、お豆腐は免罪符。女性ホルモンに作用する大豆イソフラボンが含まれていて栄養面でも安心感があるし、一丁食べればお腹いっぱいっていう物理的な安心感もありますから。さらに湯豆腐は身体が温まるので、冷え性の女性に優しいんです。
レシピには、カレーのお塩で食べると書いてありますけど、柚子胡椒入れてもいいし、ラー油とも合いますね。自由にアレンジしてもらえたら嬉しいです。
昆布だし+豆乳でスープを作るまろやかな湯豆腐。カレー塩でどうぞ。
豆乳湯豆腐:レシピ
材料/1人分
もめん豆腐(食べやすい大きさに切る)……小1丁(150g)
豆乳(成分無調整)……1カップ
昆布だし……1カップ
<カレー塩>(作りやすい分量)
 塩(粒の粗いもの)……大さじ1
 カレー粉……小さじ1/2
作り方
1 鍋に豆腐、昆布だしを入れて火にかけ、フツフツとしてきたら弱火にし、そのまま5分ほど温める。
2 カレー塩を作る。フライパンに塩を入れて弱火で乾いりし、サラサラになったら火からおろしてカレー粉を混ぜる。
3 1に豆乳を加えて煮立つ直前まで温め、鍋ごと食卓に出して2を添える。
◎〆にごはんを入れ、塩と粉チーズでリゾット風にしても美味しい。

基本の昆布だし

──遅い時間の食事は控えたいという人向けのレシピはありますか?
お吸い物ですね。だしなんてないよ、という方もいるかもしれませんが、麦茶ポットに水と昆布を入れておくだけで、昆布だしになり、冷蔵庫に入れておけば1週間持ちます。これを温めて、おしょうゆをひとたらし。わかめを入れてもいいし、春雨を入れて春雨スープにしてもいい。
お湯を注ぐだけの市販のスープを飲むものいいんですが、おだしの香りの力は侮れません。日本人だからか、おだしの香りをかぐとほっとするんですよね。
水と昆布を入れた麦茶ポットを冷蔵庫に入れておくだけで、本格昆布だしが完成。うまみの濃いしっかりしただしがとれる、真昆布か羅臼昆布がおすすめ。そのまま温めて飲んでも美味しい。
基本の昆布だし:レシピ
材料/1ℓ分
だし用昆布……20g
水……1ℓ
作り方
1 麦茶ポットに昆布を入れて水を注ぎ、冷蔵庫で1〜2晩おく。水質の関係で
関西は1晩でだしが出るが、関東以北は2晩おいたほうがしっかりとしただしが出る。
2 だしが出たら昆布をとり出す。冷蔵庫で約1週間保存可能。
◎ 平日使い切れなければ、週末の鍋で全部使えば無駄にならない。インスタントラーメンや市販の粉末のコーンスープを昆布だしで作ると、うまみが加わってさらにおいしくなる。

1日の締めには「温かい食事」を

──いま挙げていただいたレシピに共通するようなお勧めの食材はありますか?
スプラウト。発芽直後の植物の新芽のことで芽と茎を食べるのですが、普通の野菜より栄養価が高いことで知られます。スーパーに行けばカット野菜のところにスプラウトがいっぱい並んでいますよ。カップラーメンに入れてもいいし、野菜炒めに入れてもいいし、トッピングすればしっかり栄養がとれます。
──どれも本当に簡単にできそうなレシピで、自宅で試してみたくなりました。
ぜひ試してください。手軽に作ったものでも、やはり買ってきたものとは違うと思います。
私も結婚する前はいつも終電帰りの編集者で、晩ごはんはほとんどコンビニだったんですけど、ひとり暮らしでコンビニごはんだと、容器がどんどんたまっていくじゃないですか。帰ってきたときにそれを見ただけで、精神的にどんどん萎えてくるんですよ。
昔、病院の先生の取材をしたときに、「冷たいものばかり食べていると、心も冷える。それがいずれは鬱にもつながることもある」と言われたことがあって、それもすごく耳に残っているので、せめて1日の最後のごはんくらいは手をかけてなにか温かいものを作ったほうが精神的にもいいんじゃないのかと思います。
外食はゴミが出ませんが、お金がかかるし、食べるものが偏りがちなので肥満や成人病の原因にもなりかねません。自炊をすれば食費も節約できますし、自分の体調を考えて食材が選べます。
それに、残業後に自炊をしていると真人間になったような気がしませんか?(笑)病は気からという言葉がありますが、自分は身体を気遣って手作りのものを食べていると思うだけで健康的な生活になり、仕事の成果にもつながると思います。