ボーイングが注目した電気航空機

米航空宇宙大手ボーイングと米格安航空会社ジェットブルーが、スタートアップへの投資に乗り出している。
両社が出資するのは、近距離用の電気航空機を開発するズナム・エアロ(Zunum Aero)だ。
ズナムは現在、シート数10~50席の旅客機の設計・製造を進めている。航続距離の当面の目標は700マイル(約1125キロ)。2030年までに最大1000マイル(約1600キロ)に延長する予定だ。
実現すれば「地域交通の巨大な格差」を解消し、主要都市間などの乗客数が多い路線では移動時間を最大40%、少ない路線では80%短縮できる。同社は4月上旬に発表した声明でそう意気込みを語った。
ボーイングやジェットブルーだけではない。航空・宇宙各社では、初期段階のベンチャー事業に投資して輸送システムの変革につながりそうな新技術を確保する動きが相次いでいる。
欧州の航空機メーカー、エアバスは2015年に1億5000万ドル規模のベンチャーキャピタル(VC)ファンドを創設。さらに、イノベーションに特化した開発部門をシリコンバレーに新設した。
ボーイングも先頃、VC部門ボーイング・ホライズンXを新たに設立した。「『地平線の彼方も視野に入れる』がモットーだ」と、同部門を統括するスティーブ・ノードランドは言う。
「従来の提携相手や新しいパートナーと共にイノベーションを加速させ、市場機会を拡大していきたい」

破壊的イノベーションを求めて

ホライズンXはズナムのほかにも、ベンチャー企業のアップスキル(Upskill)に出資している。メーカーや物流企業の生産性向上を目的に、AR(拡張現実)とウェアラブル端末を組み合わせた技術を開発する会社だ。
アップスキルの技術のおかげでボーイングはこれまでに、大型の747-8型機の配線設置にかかる時間を25%短縮している。
ボーイングのグレッグ・スミス最高財務責任者(CFO)に直属するホライズンXは、従来の投資部門ボーイング・ベンチャーズに替わる存在として設立された。
ボーイング・ベンチャーズは防衛・宇宙関連企業のみを対象としていた。その1つが、ノードランドが創業に携わったドローンメーカーのインシテュ(Insitu)だ(ボーイングは2008年に同社を買収)。
一方、ホラインズンXは3つの分野にフォーカスする。新規のベンチャーやスタートアップへの投資、航空宇宙分野におけるビジネスチャンスの開拓、破壊的イノベーションおよびビジネス戦略の評価だ。
ホライズンXが注目しているのは、自律性やAI(人工知能)、付加製造技術、そして代替推進システム。ハイブリッド電気航空機を開発するズナムは格好の投資先だ。

電気航空機は地域航空業界を変革する

2013年に誕生したズナムは、2020年までに同社初の航空機の完成を目指す。電気航空機の認定ルールの策定に向けて米連邦航空局(FAA)と連携しており、2018年までに基準が整備される見通しだとの報告もある。
「素晴らしいチャンスだ」。米国立科学財団(NSF)電熱システム電力最適化工学研究センターを率いる、イリノイ大学のアンドルー・アレイン教授(機械科学・工学)はそう話す。「ただし、そこには重大な技術的課題も付きまとう」
電気航空機およびハイブリッド電気航空機の開発には、バッテリー重量の抑制や発熱管理、電力サブシステムの効率的な統合が不可欠だと、アレインは指摘する。機体に用いられる複合材料が熱問題を拡大させる可能性もあるという。
「こうした課題を自ら解決できれば、アメリカは極めて大きな競争優位を手にすることができる」
電熱システム電力最適化工学研究センターは、米国内の電動輸送システムの電力密度向上が使命。ズナムやボーイングも同センターのメンバーだ。
「テスラが自動車業界を根底から覆しているように、電気航空機は地域航空業界を変革すると考えている」。そう語るのは、ジェットブルーが昨年2月に設立したVC、ジェットブルー・テクノロジーベンチャーズのボニー・シミ社長だ。
「今のうちに投資すれば、テクノロジーの進化に当事者として関わることができる」

投資家として技術革新の実現を支援

シミによると、アメリカの商用航空機は約150の大型空港を集中的に利用している。運用コストを削減できるズナムの小型旅客機によって、今後は地域ハブ空港や一般航空用ハブを発着する路線が拡大すると考えられる。
ハイブリッド電気モーターを用いるズナムの航空機は、従来に比べて炭素排出量を80%削減できる。将来的には排出ゼロを目指す構えだ。加えて、騒音も75%低減されると、ズナムは声明で述べている。
ジェットブルーはズナムへの出資額を明らかにしていないが、過半数未満の株式を取得し、オブザーバーとして経営に関与する予定だという。
ズナムは、ボーイングが参入していない小型機市場で勝負するようだ。ボーイングは同社の株式を取得するものの、電気航空機の製造には乗り出さないとみられている。
NASA(米航空宇宙局)なども研究に取り組むハイブリッド電気推進システムは、巨大なジェットエンジンを動力源とする大型航空機の在り方を一変させる可能性も秘めている。
「ズナムは低価格市場で変革を起こそうとしている」と、ホライズンXのノードランドは言う。「彼らに寄り添って、投資家としてその成功に力を貸すとともに、イノベーションの実現を手助けしたい」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Mary Schlangenstein記者、Julie Johnsson記者、翻訳:服部真琴、写真:Serjio74/iStock)
©2017 Bloomberg News
This article was produced in conjuction with IBM.