SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。
「写真を撮る」という行為は、家庭用カメラがなかった時代にはハレの日に写真館で撮影することが一般的であった。その後、フィルムカメラやデジタルカメラなどが普及、近年ではスマートフォンの浸透により、外出すると必ず見かけると言っていいほど、日常的な行為となった。今回は、変わり行く時代を写真という切り口で分析する。

銀塩カメラからカメラレスの時代へ

1960年代からフィルムカメラが広まり、ピークの1997年には3,667万台となった。しかし、1990年代半ばにデジタルカメラが台頭、2001年にはデジタルカメラがフィルムカメラを上回る状態となった。さらに2000年代後半から、携帯電話の内蔵カメラがコンパクト型のデジタルカメラを代替、カメラ自体を持ち歩くことも少なくなった。
では、デジタル化が進んだことにより、何に影響があるのだろうか。

デジタル化による写真関連市場の減少

カメラのデジタル化に伴い、フィルムや写真プリントの需要が減少している。
フィルム出荷数は1998年にピークとなり、2008年までに10分の1になったと言われている。
フィルムカメラでは必須だったプリント需要も激減、プリントする場合も、ホームプリントやネットプリントが比率を高めている。プリント需要が落ち込むとともに、写真店も減少。ピーク時には全国34,000店舗あった写真店は、2013年時点で9,000店舗まで落ち込んだ。
家よりも高画質の写真プリントをしたい場合、コンビニでの写真プリントが可能なことも、写真店の需要を低下させたと考えられる。なお、セブンイレブンのプリンターは富士ゼロックス製複写機、ファミリーマートやローソンはシャープ製複写機である。
次に、フィルムを取り扱っている富士フイルムホールディングスの業績をみてみよう。

富士フイルムの写真関連売上が減少

富士フイルムホールディングスの写真関連事業であるイメージングソリューション事業の売上高をみると、2002年度をピークに2012年度には約6割減少した。なお、2013年度以降、組織変更に伴って他セグメントの事業が追加されたため、売上高は増加しているが、従来事業は2,500億円程度である。
では、各消費者は写真撮影・プリント代にどのくらい支出しているのだろうか。

写真撮影・プリント代の支出は減少

写真撮影・プリント代の一世帯当たり平均年間支出金額は、2000年には8,000円を超えていたが2009年には4,000円と約半分に減少している。ただし、2009年以降は微減から横ばいとなっており、2016年は3,515円である。

子育て世代の支出は減っていない

次に、年代別にみると、子育て世代である29歳以下と30~39歳は増減があるものの、ある程度一定の需要があることがわかる。一方で、40歳以上は減少傾向にあり、特に60歳以上の減少が顕著である。
ただし、世帯数は写真をよく撮影する若年層が減少し、写真をあまり撮影しない高齢層が増えているため、市場自体は縮小していると考えられる。
次に、サービス側の写真館についてみてみよう。

スタジオアリスは好調

企業をみると、こども写真館大手のスタジオアリスは店舗数、売上高ともに好調である。
スタジオアリスは、1992年にこども専門写真スタジオ事業に進出し、2001年にはDPE(現像・焼き付け・引き伸ばし)事業から撤退している。

キタムラは店舗閉鎖を決定

一方、カメラのキタムラで有名なキタムラは、2018年3月までに、全国店舗数の1割にあたる129店舗を、カメラ販売や写真のプリントなどの「カメラのキタムラ」と写真スタジオ「スタジオマリオ」を対象に閉鎖すると2017年2月に発表した。
このように、スタジオアリスが好調である一方、大手であるスタジオマリオも閉鎖するなど、企業によって差がでている。また、地元にあるような中小の写真館は大手企業に顧客が流れ、またアプリで簡単に出張撮影などを依頼できるような新しいサービスが出てくるなかで厳しい状況であることが推測される。
こども専門写真館のスタジオアリスが好調である理由に、子供イベントの増加がある。

新しい子供イベントが登場

写真館は、イベント需要が主である。イベントといえば、昔はお宮参り、七五三、成人式あたりを思い浮かべる人も多いのではないだろうか。
ところが、現在はイベントが増加。マタニティフォトやニューボーンフォト、ハーフバースデー、2分の1成人式など、少し前にはなかった、もしくは広まっていなかったイベントが登場している。
このようにイベントが増えるにつれ、写真館で写真を撮る機会が多くなっている。また、イベント以外にも、親子でコーディネートを合わせる親子リンクコーデで写真を撮るのが流行っている。昔のような形式ばった写真から自然体の写真に変化しているということだろう。
なお、写真館で撮るメリットとして、子供の笑顔を撮るプロのノウハウがあること、家族全員で写れることなどが挙げられる。
デジタルカメラやスマートフォンの普及、また少子化や婚姻数の減少によって厳しい環境にあるものの、このように撮影機会の増加や単価上昇によって市場を広げている企業もある。
写真館のほかに、写真サービスはどのようなものがあるのだろうか。

写真関連市場としてフォトブックが登場

写真館はただ写真を撮るだけではなく、写真館独自のサービスを行うように事業内容を変化させてきている。たとえば、プロの手によりストーリー形式で写真をまとめるフォトブックサービスが挙げられる。また、子どもの写真を祖父母に送るなど、デジタルでの写真共有だけでなく、写真を現像してフォトブックを郵送してくれるサービス(nohanaなど)も出てきている。このように、親や祖父母が子どもひとりにかける金額が上昇していることを受け、国内フォトブック市場は拡大傾向にある。

SNS掲載のためのサービスも登場

また、InstagramやFacebookなどとの関連も強い。
SNSに写真を投稿することで、自分の日常や楽しかったことなどを簡単に共有できる一方で、若年層の中ではSNSに掲載する写真を撮るための「リア充アピール代行サービス」というものが登場している。誕生日パーティーや旅行などに友達代行を呼び、充実している写真をSNSに掲載して、インターネット上の自分で承認欲求を満たすために利用するという。あるサービスでは1人2時間8,000円からと安くはないが、今後も写真の切り口で様々なサービスが出てくるだろう。
では、若年層のサービスは多くでてきているが、高齢者に対するサービスはないだろうか。

高齢者市場の取り込み

高齢者向けサービスでは、葬儀の増加により遺影写真サービス市場が拡大している。アスカネットは、ネットを使ったオリジナル写真集製作と遺影写真加工サービスの2軸の事業を展開している。また、終活写真や遺影写真などシニア世代を専門で撮影する「えがお写真館」も登場している。
経済産業省の2012年資料によると、遺影写真を済ませていたり、準備している人は4.6%だが、準備するべきと感じるが準備していないと回答した人は46.8%にのぼっているという。高齢化が進む中、遺影写真ビジネスにニーズがあることがわかる。

まとめ

かつてフィルムカメラの時代は枚数に制限があり、共有方法は紙に限られていた。
現在は撮影枚数に制限はなく、失敗した写真はすぐに捨てられる。現像しないことも多く、データとして保存し、デジタルアルバムなどで家族や友達に共有される。
しかし、スマホに入っている写真をアルバムにしたいと思っている人は56.1%と過半数を占めており、需要は根強く存在していると考えられる。
また従来の需要以外の新たなサービスが多数登場している。若年層では、写真を撮るという行為自体、従来の「記録・保存」から「コミュニケーション手段」になっている。加工アプリなども豊富にあり、SNSに画像を投稿する人のうち、約4割は加工して投稿していると言われている。現在無料の写真加工アプリのマネタイズを含め、写真関連ビジネスは広がっていく可能性がある。
現在は若年層や子育て世代に向けたサービスが多いが、今後は中高年層や高齢者層に向けたサービスが新しいビジネスとして成り立つのではないだろうか。