前回の記事では、PwCアドバイザリー合同会社のディールズストラテジー部門の成り立ちやチームのビジョンについて聞いた。今回は、より具体的に、どのようなプロジェクトを進めているのかを、昨年10月・11月に同部門にジョインしたディレクターの松田克信氏、シニアマネージャーの和田由可氏、加納真氏の3人に話をうかがった。

経営目線でビジョンを描く

──担当されているプロジェクトについて教えてください。
松田 現在は、クライアントの長期ビジョンを描くプロジェクトを和田と一緒に進めています。よく企業では、「経営理念」「社是」が策定されていますが、策定された当時と今では、社会環境の変化などで改めてその意味を考えることが必要になっている場合があります。今の時代に沿って解釈した時に、それがどんな意味を持つのかを、クライアントの経営層と一緒に紐解きながら、中期経営計画や新規事業案に落とし込んでいきます。 
会社がどうあるべきか、なぜ存在すべきかを議論することになるので、プロジェクトの最初のほうでは、抽象的・哲学的な議論が多くなります。経営者や役員の方々に想いや意志を問うような仕事です。
松田 克信 ディレクター ディールズストラテジー
新卒で大手都市銀行に就職。総合系ファーム、戦略系ファームを経て、銀行系シンクタンクの戦略コンサル部門立ち上げに携わった後、2016年10月にPwCアドバイザリー合同会社入社。
──なんというか、ふわっとしている感じに聞こえます。
松田 「ふわっと感」の最上位かもしれません(笑)。重要なことは、「抽象的な概念を、ロジックでいかにつなぐか」ということだと思っています。数字やデータでロジックを組み立てるだけではなく、ロジックが通ったストーリーを描くことが重要です。
難しいのは、言葉とか概念に関する抽象度の「レベル感」です。あまり抽象的すぎても、現実の企業活動に結びつかない絵空事になりますし、逆に具体的すぎると、今度は根幹となるコンセプトがわかりにくくなってしまいます。
誤解を恐れずに言うと、これは言わば「社史を先に書く」ことです。たとえば、100年先、会社がどうありたいか。そう考えた時に、手前の50年先、10年先がどうなっていて、そのために3年先、1年先、明日は何をすべきか。それをストーリーとして描く。難しいですが、「企業とは」「経営とは」ということを考え抜く、やりがいがある面白い仕事です。
──まだ具体的なディールにはつながっていないでしょうか。
松田 そうですね。ディールをM&Aの案件ということで捉えると、直接的にM&Aの案件にはなっていません。ただ、私たちはそれでいいと思っています。
和田 私たちの基本的なスタンスとして、「M&Aありき、案件ありき」ではない形で入りたいと考えています。それは、「この人たちが出てきたら、なんだかんだでM&Aを勧めるんでしょ?」と最初に思われてしまうと、そのあとの検討においてクライアントの経営陣と同じ目線に立てなくなるからです。
過去にM&Aに起因する苦戦を経験された企業では、経営陣がM&Aという手段そのものに慎重になる場合もあります。M&A前提ではなく、かといってM&Aへの拒絶反応を是とするでもなく、ゼロベースでクライアントと一緒に企業としてのありたい姿を考えた上で、その手段として、内部リソースでやるのか、それともM&Aがより適しているのかを考えたいと思っています。
和田 由可 シニアマネージャー ディールズストラテジー
米国公認会計士(ワシントン州)。新卒で戦略系コンサルティング会社に入社。その後、教育関連会社、企業再生コンサルティング会社、総合商社を経て、2016年11月PwCアドバイザリー合同会社入社。
松田 このプロジェクトでも、常にM&Aは議論に上がります。将来、会社としてこういう価値を発揮していこうという話になった時に、現在の会社にその機能がなければ、M&Aも視野に入ってきます。逆に、過去に実行したM&Aが、これから進もうとしている方向性に合っているかという観点で見直すこともあります。
──M&Aを前提とせずゼロベースで考えるスタンスは、他のファームでは難しいのでしょうか。
松田 必ずしも難しいわけではないと思いますが、意識を変革する必要があります。どういう意識・視点で企業の課題に取り組むかではないでしょうか。特に、「プロジェクトを売る」といった観点でクライアントと接していると無理でしょう。第三者的な視点を持ちながら、クライアントと同じ、もしくはそれ以上に自分事として考えることができるかどうか。
また、さまざまな課題を企業は抱えており、それらは複線的に関係していることが多い。構造化するためのフレームワークは重要ですが、課題を単純化することにとらわれすぎず、大きな視点、複線的な視点で課題を捉える意識も重要になります。
基本的に戦略ファームはP/Lの議論が中心になりますが、それだけだと解決できない課題が企業活動では数多くでてきます。私たちのチームではPwCの総合力を活用し、多面的な課題解決のアプローチをとることができます。会計や税務の視点はもちろんのこと、法務やシンクタンク的な視点も取り入れたアプローチが可能です。それもグローバルで。これは、他のコンサルティング会社だと、なかなかできないことだと思います。
──M&Aをイレギュラーなものとせず、経営の一つの手段として、ストーリーに乗せて考えることが大事なのですね。
松田 よく言われることですが、M&Aを行うことが目的になってはならないということです。M&Aは手段であることをきちんと認識し、あくまで、企業としての成長ストーリーを議論していくということが、重要です。
和田 逆に、背景にストーリーのないM&Aは危険です。今は「買えるかもしれない会社がある」というところから検討が始まるM&Aがとても多いのですが、そういうプロジェクトが軒並みうまくいっていない状況をなんとかしたいと思っています。
M&Aの原資は、言わば国富。この国で育った会社が貯めたお金を海外に投資して、それが結果として失敗に終わって…ということをなくしたい。そのためには、根本的に会社が何をしたいのかが定まっていることが大前提だと思います。もし戦略・ストーリーにフィットしなければ、M&Aしない選択肢もあっていい。
──長期ビジョンを描くプロジェクトは、どんなクライアントなのですか。
松田 業界のリーダー的な企業からのご相談が圧倒的に多いです。リーダー企業は成長に向けたストーリーを、他の企業の進んでいるストーリーを参考に作ることが難しい。だから、自らがそれをつくる必要があります。過去に、長期ビジョンを描くプロジェクトは多数行っていますが、それが中期経営計画策定や新規事業立案、そしてM&A戦略などのプロジェクトにつながっていっています。ただ、今後は社会の不確実性が高まり、どういうポジションの企業でも“自社らしさ”を徹底的に考えないと、社会の変化に過敏に反応して企業活動がぶれてしまう危険性があります。そういう意味ではどの企業にとっても、長期ビジョンを描くことの重要性は高まっていると思います。
和田 時代背景もあるような気がします。戦後からバブルまで、日本全体の経済成長に伴って企業も成長してきました。その頃は創業者の力で引っ張られていた企業が世代交代を迎え、創業者の頃には考えられなかった社会環境の変化が起こって、あらためて会社として何を目指すのかを見直す時期に来ているのではないでしょうか。

クロスボーダー案件の醍醐味

──加納さんは、どんなプロジェクトに携わっているのですか。
加納 私は、デューデリジェンスのプロジェクトが比較的多いです。今も、日本のクライアントがインドの会社をM&Aの対象とするプロジェクトに取り組んでいます。インドと米国、日本の三カ国のチームで連携しながら、対象会社とその顧客、競合会社の情報を集めています。
加納 真 シニアマネージャー ディールズストラテジー
工学博士。IT企業の研究所勤務を経て、戦略系コンサルティング会社に転職。マネージャーを務めた後、2016年10月にPwCアドバイザリー合同会社入社。
──PwC米国のチームが関わっているのですか。
加納 今回のケースでは、M&A対象であるインドの会社の競合会社が米国に多いのです。グローバル市場で戦うことを狙っているプレーヤーなので、競争環境を知るために、PwC米国のメンバーも引き入れた方がより生々しい情報が得られると考えてこの体制を組んでいます。
私はもともと、クロスボーダーの仕事があることに惹かれてこのチームに入りました。クロスボーダー案件は対象会社の国の税制や会計制度の違いも含めて評価しないといけないため、BIG4が担うことが多いのです。その意味で、このプロジェクトでは非常に醍醐味を感じています。
今回のプロジェクトは日本チーム、PwCインドチーム、PwC米国チームの3拠点合同チームだったため、通常よりもマネジメントのオーバーヘッドはかなりかかっています。その代わり、彼らに現地でのインタビューをサポートしてもらうと、ものすごく深いところの情報を取ってくるんですね。対象会社との押し問答でも、時に凄んでみたり、時にうまくなだめたりして関係を悪化させずに深い情報を取ってくる。これは言語の問題だけでなく、その国のカルチャーを分かっている人を入れたからこそできること。自分だけでは取れないところまで踏み込めることが、非常に面白いと感じます。
──クライアントにレポートをして、このプロジェクトは完了ですか。
加納 今回はそうです。ただ私たちの狙いは、デューデリジェンスの前段・後段にも入り込むこと。そのため、デューデリジェンス単体のプロジェクトを普通にこなすだけでなく、クライアントの期待を大きく上回るアウトプットを出すことを強く意識しています。そうすることで、次の仕事につながっていくと考えるからです。
松田や和田が進めているプロジェクトのように、いきなり最上流から入っていく動きと、私のように今あるデューデリジェンス案件から前後に広げる動きの両方をやっているのが、ディールズストラテジーという部門である、そう考えていただけるとよいと思います。

大企業とベンチャーの“いいとこ取り”

──皆さんが、PwCアドバイザリーを選ばれた理由を教えてください。
松田 二つ理由がありました。一つは、ディールズストラテジーが新しく成長している組織だという点です。総合系ファームでは金融コンサルラインの立ち上げ、銀行系シンクタンクでは戦略コンサル部門の立ち上げに関与しました。立ち上げ時期というのは大変なことも多いですが、躍動感があり、自分の中ですごく面白い経験だと感じました。もう一度、このような躍動感のある環境で仕事をしてみたいと思ったことが大きな理由です。
もう一つは、グローバルな環境で真にクライアントと共に価値を創出できると感じたことです。社会が発展してボーダレス化が進み、クライアントの活動も国内、海外といった区分けでは考えられなくなってきている。そのような中で、グローバルファームで働くことの意味は大きいと思います。また、クライアントを取り巻く環境変化の速度が高まっており、従来のコンサルティングだけにフォーカスした価値提供にも限界があるとも感じていました。PwCが持つ多くの機能は非常に重要であり、その中でもディールズストラテジーのいい意味での活動の自由さは大きな魅力です。
和田 私はこれまでに4社経験してきました。新卒でコンサルティング会社に入り、その後、教育関連の事業会社で新規事業の開発をしていました。そこから企業再生のコンサルティング会社に移り、さらに総合商社へと転職します。商社では、新たに立ち上がったM&Aを担う専門チームに入りました。
そこでの仕事も面白かったのですが、もう少し違う形で、M&Aを活かした事業成長に関わる経験を積みたいと思い、それを生業にしているところに移ってきた形です。幅広く案件に触れる中で、日本の企業にとっての「成功の型」を見つけることができればと思っています。
加納 私は、前職は戦略ファームで、ヘルスケアやハイテク領域の、クロスボーダーのプロジェクトをいくつか経験しました。台湾に半年ほど常駐して現地のクライアントをサポートしたプロジェクトや、海外企業買収後の組織の最適化やその先の成長戦略を描くというプロジェクトが多かったんですね。
M&Aそのものに多く関わったわけではないので、それを自分の専門性として意識したことはなかったのですが、キャリアの軸にクロスボーダーM&Aを置くと筋が通ると思ったことが理由として挙げられます。
──ディールズストラテジーのチームに入られてみて、実際どうお感じになりますか。
松田 想定通り、自由にやらせていただいています(笑)。PwC内で専門家も多いので、他のチームと一緒にクライアントを訪問することも多く、提供できる価値の広さと深さが、これまでと大きく違っていると感じています。
和田 今のプロジェクトが、ディールズストラテジーの中で典型的なプロジェクトと言えるかどうか分かりませんが、それぞれが担当しているプロジェクトは多様で幅広い印象です。また、入社前はPwCというグローバルなブランドに対する一体的なイメージを持っていたのですが、入社してからの日々の活動は、ディールズストラテジーとして約50人の小さな組織のまとまりで行うものが多いです。
加納 私は、大企業とベンチャー、両方のいいとこ取りをしている組織だと感じています。PwCという「箱」はグローバルなネットワークがある大きな組織ですが、その中でディールズストラテジーというチームはできたばかりの組織なので、ベンチャーのように意見を言えばいろんなことを変えていける環境があります。それでいながら、PwCのプラットフォームを使えて、両方が混ざっている。
松田 いい意味でのカオス(笑)。私と加納は入社日が同じなのですが、入ってすぐ、あまりにもチーム内のシステムが整っていなくて二人で驚きました。私としては、PwCのイメージから驚きはしましたが、前職でも同じ感じでそれを整えていった経験があったので、違和感はそれほどなかったのですが。
加納 それで、リーダーに「結構、カオスですね」と言ったんです。実は、私が入社前、リーダーに「成長する組織に行きたい」と話したことがあって。それを覚えていたのか、「成長する組織とはそういうものです」と言われてしまいました。成長を続ける組織は、仕組みの効率化が追いつかない部分があるという意味なのですが、自分の口で「成長する組織に行きたい」と言った手前、もうしょうがないなと。
加納 でも、裁量を持って仕事ができる環境であることは間違いありません。PwCのネットワークが持つ知見を主体的に取りにいけば、いろいろなフィードバックがもらえます。好き勝手にできるという意味ではなく、裁量があるなかで、自らリーダーシップを持って、周りを巻き込んで行く力は求められる組織だと思います。
松田 現在は、戦略コンサル的なスキルは、ビジネスパーソンとしてのベーススキルであると思います。ただ、それをどう生かすかの選択肢はいくつかあります。ある人は事業会社の経営企画でスキルを活かしていくでしょうし、ある人は戦略ファームで戦略コンサルとしてのスキルをより伸ばしていくのかもしれない。そして、私たちのように、M&Aという手段も活用できる中で、戦略コンサル的なスキルも活かしていく。
今や、M&Aは企業が戦略を考える時に、有力な手段として避けて通れないものです。もし、単に戦略だけを考えるのではなく、その実行もやっていきたいと思うのであれば、ディールズストラテジーのチームはいろんな可能性を追求できる環境だと思います。戦略コンサル的なスキルを尖らせていくこともできますし、M&Aのスキルを尖らせていくこともできる。M&Aに付随するオペレーションの課題解決能力を磨くこともできる。経営の最上流にも関わるチャンスがあるので、「ゆくゆくは自分が経営者に」と考えている人にとっても面白い経験が積めるはずです。もちろん、それがグローバルな環境で可能となります。
(取材・文:畑邊康浩、写真:中神慶亮[STUDIO KOO])
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